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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神の企み。そして――
147/152

人外達の遊戯2

お知らせ

ジャンルを異世界恋愛⇒ハイファンタジーに変更しました。



 


 客室に戻り、大怪我を負っている女性の治療をしているミカエルを横目に、ソファーで寝かされているリシェルの側に寄ったジューリア。応急処置はされていて、布越しから滲む血の広がりは止まっており、後は治癒魔法を掛ければ完璧に治ると見た。ただ、大天使のミカエルでは魔族のリシェルを治療することは不可能。ビアンカに至っても治癒魔法が苦手な為無理で。



「補佐官さん、リシェルさんの怪我を置いたまま行っちゃったね」



 ヴィルから聞き、実際に本人を目にしたリゼル=ベルンシュタインという人は、一人娘をとても大切にしている。大怪我を負って気絶しているリシェルを放置して行ってしまったのはどうしてか、と疑問を口にすればヴィルが予想を口にした。



「意識を戻してほしくないんだろう」

「どうして?」

「さっきから感じている嫌な気配が強まった。兄者やリゼル=ベルンシュタインの力も格段に上がった。接触したんだ」



 ジューリアは何も感じられない。ビアンカとミカエルは感じているらしく、平静を保っているが頬には冷や汗が流れていた。



「応急処置はされていて、元々放っていても死ぬような怪我は負っていない。事が片付いたら自分で治療する気なんだろうね」

「リシェルさんが目を覚ましていたら、補佐官さんの心配をするからなの?」

「それくらいしか思いつかない」

「わたくしもそう思う」



 会話に入ったのはビアンカ。



「ビアンカさん」

「ベルンシュタイン卿がリシェル様の治療をしなかった理由は、多分その神族の予想が正しい。リシェル様の性格を考えたら、これだけ魔力を上昇させているベルンシュタイン卿を心配しない筈がないもの」



 ここにいる誰よりもリゼルやリシェルについて知っているビアンカが言うのなら間違いはない。

 ジューリアだけが感じられない嫌な気配の正体とネルヴァとリゼルが争っている。此処で待っている以外に、役に立てることはないかとジューリアが考えた始めた矢先。今度は立っているのもやっとな巨大な揺れが発生した。倒れそうになったジューリアは咄嗟にヴィルに支えられて床と熱い抱擁をせずに済んだ。椅子に座っていたビアンカは側にあったテーブルにしがみつき、ミカエルは怪我人を庇いつつ体を低くして揺れに耐えた。

 ヴィルに強く抱き締められるジューリアの耳に、今度は激しい衝撃音が届いた。轟轟しい爆発音と建物が崩壊する音が。幸い部屋にはテーブルと椅子類、ベッド以外の家具が置かれていない為、家具の倒れの心配はなかった。

 揺れが収まるとヴィルに抱かれたまま急ぎ窓へ走られ外の光景を見て――神の祝福を授かる国、神聖な力に満ち、帝国の象徴とも言うべき城が半分以上崩壊していた。あちこちから砂塵が舞い、上空で激しい魔法戦が繰り広げられていた。



「う……嘘……城が……」



 ジューリアにとって何一つ良い思い出はないが、見ているだけなら綺麗で好きだった。きっと誰も想像していない。長きに亘り君臨していた城が崩壊するなどと。戦時中ならいざ知らず、戦争のない平和な時代に。

 ジューリアが呆然としているとビアンカもヴィルの横に来て外を見やり絶句した。



「な……何なのよ……これっは。魔力とも違う、でも……天使や神族の使う神力とも違う……」

「え」



 魔力でも神力でもない、全くの別の力の塊が城を半壊させたとビアンカは言う。ヴィル達が口にする言い様のない気配とはこれのこと。最悪の予想が当たってしまった。セレナに纏わりついていた黒い靄とユリアが融合した結果が恐らく今の力の正体。城の方向を睨んでいるヴィルと目が合った。



「ヴィルの兄者と補佐官さんなら大丈夫……?」

「……何とも言えない。ただ、これだけは言える。兄者とリゼル=ベルンシュタインが負ければ俺達も死ぬ。あの二人が勝てない相手を倒せる奴がいるなら今すぐにでも見つけて来たいくらいだ」

「……」



 魔界と天界で最も強い魔族と神族が全快の状態で相手をしていても消えない不安。憎まれ口を叩きながらネルヴァを信用しているあのヴィルがここまで言うのだ、楽観視していられない。

 次に何と言うべきかと目を伏せかけたら、城の方角から物体が飛んで来るのを察知し、気付いた時には隣の建物に激突した。建物を崩壊させ、舞う砂塵を抜け出してジューリア達の前に飛び出したのはネルヴァだった。

 派手に吹き飛ばされ、建物を崩壊させる威力だったのにネルヴァは怪我を負っておらず、衣服も汚れていない。魔族にとっては猛毒の濃い神力を纏っていた為無傷で済んだ。



「兄者」



 ヴィルはジューリアを下ろすと外へ出た。



「ヴィル。ヨハネスは?」

「まだ眠ってる。後、キドザエルはもう返した」

「それでいい。もしもの時は、全員を連れて帝国から出て行きなさい」

「兄者に限ってもしもの時ってある?」

「いつもの私なら自信たっぷりに答えてあげられる」

「それが今はできないってこと……?」

「……」



 無言は肯定の証。

 つまり、そういうこと。



「……兄者とリゼル=ベルンシュタインは何と戦ってるの?」

「正直言うと私にもよく分からない。唯一分かるのは……ユリアの皮を被った怪物さ」



 最悪の最悪の過ぎる予想――ユリアの堕天化は最も最悪な方向に成功してしまっていた。アンドリューを除いた三兄弟より弱くともユリアは強い神力を持っていた。それがセレナが纏っていた黒い靄によって堕天化を引き起こしてしまった。

 ネルヴァは決してヨハネスを起こすなと。強いて言うなら、リシェルの目も覚まさせることがないようにと固い口調で話す。



「ユリアが持っていたヨハネスへの母親としての愛情が悪い意味で増大してしまった。生き物は皆母親という存在に強い羨望と憧れを持つ。誰でも心の奥底に秘める母に愛されたい願いを強制的に引き起こしてしまうんだ」

「まさかと思うけど、兄者もリゼル=ベルンシュタインも母親が恋しくなったの?」

「まさか。私とリゼ君には通用しない」



 ただ、とネルヴァの銀瞳が眠るヨハネスとリシェル、それとビアンカにも向けられた。



「君達三人に母性の塊たるあの怪物から逃れられるとは考えづらい」

「っ……」



 反論しようと口を開き掛けたビアンカは唇を噛み締め、発し掛けた言葉を飲み込んだ。反論のしようがない……ネルヴァの言う通りだ。

 未だ一族を処刑された傷は癒えていないビアンカの目の前に、母性を纏った怪物が現れたら――太刀打ちする術はない。幼い頃に母を亡くしたリシェルも然り。ヨハネスに至ってはもっと残酷だ。

「私は多分大丈夫かも……」と控え目に声を上げたのはジューリア。前世の母親は樹里亜を出産後亡くなり、今世の母親は七歳まで母親であったが現在は血が繋がっているだけの人と成り果てた。絶対とは言い切れない、惑わされない自信が地味にあった。

 お嬢さんらしいと呆れているが微かに緊張を解したネルヴァの笑みは、心配と警戒一色に染まっていたヴィルの表情を少しだけ柔らかくした。



「ヴィルの兄者、補佐官さんのところに戻らないの?」

「ちょっと厄介なんだよ……何度も言っているから知っている通り、私達神族は罪を犯していない人間を殺せない。怪物を相手しようにも、城にはまだまだ人間達が大勢残っている。下手に強い力を使えば人間達を巻き込む。リゼ君に良案がないか見つけてこいって言われて飛ばされた」

「え!? 補佐官さんに飛ばされたの!?」

「そうだよ」



 怪物にではなく、リゼルに吹き飛ばされと判明し、ドン引きするジューリア達。城の方角では引き続きリゼルが怪物を相手にしている。



「前に魔王さんが魔族を相手にする時、上空に移動してたよ!」

「その程度で倒せる相手なら、私もリゼ君も苦労しないよ」

「あう……カマエルの時みたいに、別の場所に移動は?」

「簡単にはいかないのだよ」



 八方塞がりとはこのこと。



「ということは、リゼル=ベルンシュタインは、容赦なしに力を使ってるわけか」

「リゼ君らしくていいよねえ。その代わり、周囲の人間達への配慮は一切ないけど」

「だろうね」



 戦いに巻き込まれた人間が怪我を負おうと死のうとリゼルには一切関係がない。



「魔族のお嬢さん、このことエル君に伝えた?」

「ベルンシュタイン卿達が向かった直後に、魔王陛下から通信蝶が送られて事情は全て話したわ。陛下は、ベルンシュタイン卿が仮に帝都を破壊しても不問にする方向で動くと仰っていた」

「魔界の心配はないかあ。天界は……それどころじゃないか」



 アンドリューが死に、ユリアが堕天化した。天界には戻ったキドザエルが話すと治療の手を止めないミカエルが伝えた。戻る前、もしもネルヴァが戻ったら伝えてほしいと頼まれていた。



「ネルヴァ様」



 意を決した強い声色を発したミカエルに全員の視線が集まる。



「城へ戻りリゼル=ベルンシュタインと共にユリア様を斃してください。人間達の危険の配慮は要りません」

「どういう意味かな」

「貴方が今から犯す無実の人間の()()は、この私ミカエルが犯したことにしてください。貴方の罪を全て私一人が背負います。そうすれば、ネルヴァ様も人間達を気にせず全力を出せるでしょう」

「……」



 一人でも無実の人間を殺すのは規則に反する。天使でも、神族でも。その罪を背負うということは、並大抵の覚悟では口にすら出されない。黙るネルヴァに時間がないと急かすミカエルに待ったを掛けたのはジューリアだ。



「あ、あの! それなら、ヴィル達のお父さんに兄者の罪を背負ってもらうのはどうですか? ブランシュ(人間)の肉体を乗っ取っていてもヴィル達のお父さんが神族であるのは変わりありません。ミカエル様が背負うよりこっちの方が良い気がします」

「妙案ではあるがどうやって見つけ出す? 更にこの状況……のこのこと姿を現すとは思えん」



 ブランシュは皇帝直属の魔法使い。今現在、城の半壊でその近辺で繰り広げられている戦闘への対処に追われていると見て間違いない。



「お嬢さんの意見には賛成。私もミカエル君に罪を背負ってもらうより、ヘルト(あれ)に押し付けてやりたい」


「――なら、わたくしが一芝居打ってあげる」



 名乗りを挙げたのは意外にもビアンカだった。



「お嬢さんを攫った魔族の仲間の振りをして、お嬢さんを抱えて帝国の魔法使いの前に姿を見せれば、必ず姿を現すんじゃない?」






読んでいただきありがとうございます



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― 新着の感想 ―
治療してから意識を沈める魔法かければ良いだけじゃ…?追えないように?痛みがある方が目覚めやすそうだけどなぁ…この世界の親心はよくわからんね、親同士は何か通じ合えてるけど。 前世をこれだけ引き摺ってる…
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