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幼なじみがヤンデレ  作者: 上葵
おまけ1:金守銀千代の旋風
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第49話:十一月の遊戯に痛みを抱いて


 物事には必ず順序というものが存在し、

 計画は一ヶ月前、いや、一年以上前からスタートしていたのかもしれない。



「ゆーくん、スマホ見すぎだよ。視力落ちちゃうよ。それに、カノジョと一緒にいるんだから、銀千代だけを見てほしいな」


「カノジョじゃねぇだろ。何回言わせんだ」


 中間休みにソシャゲのスタミナを消費していたら、隣の席の銀千代が不貞腐れたように唇を尖らせた。文句を言われる筋合いは無い。


「イベントに忙しいから黙っててくれ」


 アプリ配信三周年記念デイリーミッション中である。


「またあのスマホのピコピコ?」


「ああ。無課金ユーザーが捧げられるのは時間しかないからな」


「ピコピコよりリアルを楽しんだ方がいいと銀千代は思うのです」


 ぐいっと椅子ごと身を寄せてきた。


「離れろ」


 肩で押すが地に根が這ったみたいに動かなかった。くっ、こいつ踏ん張ってやがる。


「あっ、また、あの女の子使ってる!」


 画面をちらりと見た銀千代はわざとらしく、ぷくぅ、と頬を膨らませれた。


「だめだよゆーくん、それは浮気だよ!」


 俺のパーティーのトップが女キャラなだけで銀千代は文句を言ってくる。


「フロレンタール(小悪魔フォルム)か。イベント特攻なんだよ。あと単純にかわいいし」


「……銀千代の方が可愛いもん」


「出たよ。また二次元キャラに対抗心燃やしてんのかよ。めんどくせぇな。別次元だって言ってんだろ」


「どの次元でもゆーくんは銀千代が好きじゃなきゃダメなの」


 よくわからないことをぶつぶつ言い始めたので、無視して、イベント周回し続けた。

 俺が相手にしてくれないのが、寂しくなったのか、銀千代はノートを開いて絵を書き始めた。俺の横顔の模写だった。

「これが二次元のゆーくん。えへへ……」

 無駄にうまいのが腹立つ。


 それが一ヶ月前。


 あのときは骨折してたから、暇潰しでスマホゲーをしまくったが、いまは右手も復活したので、楽しくコンシューマー(家庭用ゲーム)を遊べるのだ。

 夜、上機嫌に松崎くんとFPSをプレイしていたら、「そういや芋洗ゲーム実況部、マジで胸熱」と通話(ボイチャ)で言われた。


「なにそれ」


「え? ほら、芋洗坂のゲーム配信チャンネルだよ。夏ぐらいにURL送ったろ。ヤバイんだよ」


「あー、最初の一回ぐらいしか見てないから存在忘れてたわ」


「チャンネル登録してねぇのかよ!」


 するわけがない。

 確か銀千代が所属しているアイドルグループ芋洗坂39のゲーム実況を主に配信しているYouTubeチャンネルのことだ。


「ヤバイってなにが?」


 殺人配信でもやったのかな。


「口で説明するより見た方が早い」


 ピポンっと松崎くんがラインに送ってくれた。こういう友達が送ってくる動画って大抵つまんないんだよな。とはいえ、見ないのもなんか友情を蔑ろにしてるみたいで申し訳ないし。

 テレビゲームを一時中断して、URLを開く。


『芋洗ゲーム実況部』


 とポップな書き文字のYouTubeチャンネルが開いた。前に見たときと違いオープニングまでキチンと作られていた。地味だが進化はしているらしい。


『はいっ! どうもー!! 第32回、芋洗ゲーム実況部、本日もおなじみ、西東一子こと、ワンコと』


 溌剌とした笑顔を振り撒く少女と、


『金守銀千代です、十六歳です、なんでもします』


 いたって無表情の銀千代がぺこりと頭を下げる。なんでこいつはニコ・ロビンなんだ?


『この二人で本日もやっていきたいと思います!』


 パフパフっとバカみたいなSEのあとにワンコがフリップをバンと立てた。


『祝! コラボ』


 あ、嫌な予感。


『番組公式トゥイッター(語尾上がる)とかで発表しちゃったから知ってる人も多いかもしれませんが、なんとこの度、芋洗坂39と株式会社コロゲームスさんが配信している大人気スマートフォン向けゲームアプリ、『クリーチャーターキー』とのコラボが決定しましたぁ!』


「ぶっ!?」


 思わず吹き出してしまった。

 クリーチャーターキーは俺がずっとやっているスマホゲーだ。一部の廃課金ユーザーのおかげで、なんとかサービス提供されているが、アイドルとコラボできるほどの体力はないはずだ。


『12月5日開始の『秋の大芋掘大会!』イベントで私たちを模したキャラクターが限定コラボガチャに登場します!』


 秋?

 だいぶ寒いけど……。

 ふと感じた疑問の答えはコメント欄に書いてあった。なんでも一部キャラクターの性能調整に時間がかかってイベント配信が遅れたのだそう。


『芋洗メンバーが実際に声を当てたんで是非キャラボイスも注目して聞いてくださいね!』


 動画がCMに切り替わり、各メンバーの二次元イラストが表示される。当然銀千代もいた。可愛らしくデフォルメされたキャラクターになっている。こんな絵じゃあいつの狂気を微塵も伝えられてないよ。

 つうかどうでもいいけど芋洗のメンバーのほとんどがおんなじ髪型してるから、アニメキャラにされると違いがわからん。


『なんと一日目のログインボーナスでは三期生リーダーの『沼袋七味(シッチー)』が貰えます!  もちろん、私、『西東一子(わんこ)』もガチャに登場してますので是非パーティーに加えてくださいね!』


 画面が切り替わり、ワンコがニコニコとスマホを持ち上げた。


『はい、というわけで今日はコラボを記念して、開発中の新イベントを紹介していきたいと思います! 十連も引いちゃうよぉー! にししし』


『その前にちょっといいかな』


『ん? どうしたの、銀ちゃん』


 銀千代が小さく手をあげ、居住まいを正した。


『この度はワガママを聞いてくれた芋洗ゲーム実況部スタッフのみなさんと、突然のコラボ依頼を受けてくださったコロゲームスの皆さんにあつく御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました』


 頭を深く下げる銀千代。そうか、またお前の仕業か。横のワンコが困ったように頭を掻いて続けた。


『えへへ、というわけでね、今回のイベントはなんと銀千代ちゃん考案で提案されて実現したものなんだよ! すごくない?』


『うん。ほんとは銀千代だけキャラクターとして落とし込みしてくれればよかったんだけど、ついでだから芋洗のみんなもいれてくれたんだよ』


『ついでって、ちょっ草』


 けらけら笑いながらワンコは膝を叩いた。


『でも自分をコラボさせたいほど銀ちゃんは『クリーチャーターキー』に思い入れがあったのー?』


『うん、絶対フロレンタール・ブラッドワースなんかには負けないならね』


『フロ? え、なに?』


 ワンコには伝わらなかったが番組の注釈で『クリーチャーターキー』の登場キャラクターであるフロレンタールが右下に表示された。


『ま、とりあえず十連回してみましょ!』


 ワンコのスマホを接続し、画面を共有化した。『芋洗コラボガチャ!』のバナーから見慣れたガチャ画面に移動する。


『いっけぇー!』


 ワンコがボタンを押すと同時にキャラクターが排出されていく。


・西東一子(N)

・小笠原瑠璃(N)

・西東一子(N)

・水田桜子(R)

・七五三明(N)

・沼袋七味(SR)

・日田万里(N)

・西東一子(N)

・西東一子(N)


 画面が暗くなる。

 文字がキラキラ光りながら、テキストが読み上げられる。


『たとえ便所にいたとしたも息の根を止めてやる』


 謎のカットイン。

・金守銀千代(SSR)


『うぉー! 銀ちゃん出た!』


『これで勝てるね』


 俺はいったい何を見させられているんだ。


『あ、ちなみにレアリティはこの前の総選挙の結果を反映したものです。次回コラボまでにはSSRになれるようにワンコは頑張りたいと思ってます。わんわん。……つか、私出過ぎじゃね?』


『銀千代一人で十分なのにね』


『芋洗は仲間との絆を大事にしてるんで頭の発言はカットしといてくださーい!』


 ワンコがいい感じに場を盛り上げているからギリギリ成立している番組らしい。俺はもうほとんど限界だ。

 くらくらしながら低評価ボタンを押し、YouTubeを閉じて、松崎くんとFPSで現実逃避することにした、が、


「ともかく芋洗コラボでいまクリーチャーターキーのセルラン急上昇してんのよ」


 と全然話をやめてくれなかった。


「アプリ開いてみ。スゲーことなってるから」


 開かないと話し終わらなそうだったので、ため息をついてスマホのアイコンをタップする。限定だからか、アイコンが銀千代のイラストになっていた。最悪だ。

 いつもの起動を終え、イベント画面が表示される。


「うおっ!?」


 気持ち悪いぐらいにほとんどのプレーヤーが『金守銀千代(SR)』を使用していた。ここが地獄か。


「なぁんだこれバグかァ?」


 フレンドのメンバートップが全員銀千代なので異常としか思えない画面になっていた。


「ちげぇんだよ。レアリティのわりに銀ちゃんの排出率が異様に高いんだよ。そのくせめっちゃ強いぶっ壊れ性能だから、必然みんな使うだろ」


 松崎くんが教えてくれた。世界が狂い始めている。


「松崎くん、このイベント、俺はスルーするよ」


 宣言し、スマホの画面を落とす。


「え、いいのか? 今回のイベントかなりうまいぞ。ステージクリア毎に素材とガチャチケットプレゼントされるんだ」


「え、まじ?」


「いままで全然配んなかったのにどうしてなんだろうな」


 クリーチャーターキーの運営はシブイことで有名だった。詫び石は全然配らねーし、無課金に厳しいのだ。


「ちょっと一回イベントやってみるわ」


「あいよー。俺も回そうと思ってたから、またあとでなぁ」


 通話を一旦打ちきり、クリーチャーターキーのアプリ画面を眺める。

 まあ、ゲームと銀千代は切り離して考えよう。俺はただキャラを強化できればそれでいいのだ。

 スタミナ消費してクエストをこなしていたら、早速敵モンスターと遭遇した。他プレーヤーと協力して強大なボスを倒すレイドバトルだ。救援に来てくれたフレンドの銀千代(SR)が『息の根を止める!』とモンスターを蹂躙した。ステージ2でも『ぶっ潰す』とモンスターを蹂躙した。ステージ3でも『二度と私の前に現れないで』とモンスターを蹂躙していた。銀千代の台詞の完成度は無駄に高かった。

 この世の終わりを見ているようだった。


「……」


 さすがイベント特攻のSRキャラだ。たしかにこれでイベント回せるのはうまい。

 クリア報酬のチケットでガチャを回す。


・西東一子(NR)


「くそっ! 銀千代来いよっ!!」


 そのあと俺は銀千代が出るまで、ガチャを回し続けた。

 なんか策略にはまったような気がするが、とりあえず気のせいということにしといた。





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