82話「肝試し」風祭順。
えーと。これはとある地方で聞いたお話。童話・・・ではないのかな。伝承?伝説?まあ昔話みたいなもんだよ。
昔々、そこは単なる田舎でね。現在の地方都市の中核をになう街並みなんて、どこにもなかった。ひたすらに田んぼと、事あるごとに荒れ狂う大河。その川の流れに洗い流され、田んぼを作る事も出来なくなった岩肌むき出しの大地。貧しい土地だったのよ。
そんな時代のお話。
雨で洗い流されるとしても、そこでは水がずっと途切れなかった。だからどんなに被害が出ても、人々はその地を離れなかった。昔の人にとって、日照りより怖い事はなかったのね。
そしてそんな土地に、2人の兄妹が居たの。兄は太郎。妹は花子。2人の兄妹も水害で親をなくして、その後はお寺で育てられたの。和尚さんは良い人だったし、寺の仕事を手伝っていれば、とりあえずご飯ももらえた。
ある夏。2人は暑い暑い、と言いながらも元気に畑仕事に精を出していた。
そんな毎日の中で、肝試しが行われる事になった。参加者は近隣住民の内、暇な人全員。参加賞としてお寺の野菜を少しもらえるから、参加者はそれなりに多かった。
目的地はお寺の裏山にある、古いお堂さん。兄妹も何度か掃除に向かった事はあるけど、もちろん夜中じゃなかった。
参加者は和尚さんの入れてくれたお茶を飲みながら、次々にお堂に向かった。兄妹はお寺さんの関係者だから、片付けがてらの最後の順番。
次から次へと帰って来る参加者に野菜を渡し、帰路を見送る。なんと言っても小さい村の事だから、多くても数十人で終わった。
そして兄妹も、松明をかざしながら、お堂を目指したの。夜闇の中でも、炎の熱さと光量は勇気を与えてくれた。
お堂には、たくさんのお札が祭られていた。兄の太郎が松明で照らしながら、妹の花子がお札を回収し、来た道を帰った。
それでも闇の中は、亡者の世界。今までの生者の行進で飢えを刺激されていた魑魅魍魎が、最後の獲物を狙いに来ていたの。
「悪い子は居ねえか」
突然の声。帰り道のやぶの中から、それは聞こえて来たわ。
「言う事聞かねえ、悪い子は居ねえか」
「居ねえ!」
太郎は見えない悪霊に勇気を奮って言い返したわ。花子の手をしっかりと握りながら。
「働かねえ悪い子は居ねえか」
「居ねえ!」
今度は花子が。自分も兄も、毎日一生懸命働いているのだから、働かねえ、なんて言われる筋合いはなかったのね。
「んじゃあ、これからも和尚さんの言う事、よく聞くんじゃぞ」
「おう!」
その会話が終わると、悪霊は山中に消えた。太郎と花子はいぶかしながらも、無事に帰れた。
種明かしをすれば、お化け役はお寺のお兄さん。そして彼、その夜はいっぱい蚊に刺されてかゆくてたまらなかったそうよ。
人を呪わば穴二つ。怖い話よね。
じゃあ、次の人お願いね。