21話「自由な校風」神渡京介。
えーと、じゃあ、せっかくなんで。亀戸さんのお話を聞いて思い出したやつ、やりますね。
確か、J高校っていう学校の話です。どこにでもある普通の学校なんですけど、1つだけ特徴があって。
生徒が入学したら、その後は人数の変化がない学校なんです。
これだけだと、退学や転校がないって話に聞こえますかね。
じゃあ、高橋さんの経験をお伝えしましょう。
高橋さんは地元だから、という理由でJ高校に進学した、ごく普通の生徒でした。中学校からの友達も居るし、新しくクラスメートになった人達とも仲良く出来ていたそうです。つまり、高校生活の滑り出しはとても良かったらしいです。
そんな中、とあるクラスメートが事故にあってしまい、亡くなったそうです。高橋さんとも、仲良くしてくれていた人でした。
悲しいながらも、高橋さんも黙祷を捧げ、冥福を祈り、再び日常に帰って行きました。
そして、ふと気が付いた事がありました。
亡くなった生徒の席が、使われてたんです。
転校生?高橋さんがぼうっとしていただけで、実は皆知っていたのでしょうか。
「ねえ。ど忘れしちゃったんだけど、あの席の子、誰だっけ」
「ちょっと、いじめみたいな事言わないでよ。工藤くんでしょ。そりゃ、あんたとは違う中学だから覚えてないのも仕方ないけど」
「あー、そっかそっか。ごめん、ありがと」
工藤くん。やっぱり、自分が聞いてなかっただけなんだ。
高橋さんは、それで納得しました。
その時は、違和感に気付かずに。
次の日。ふと思い出した事があります。
そういえば、うちって私服だっけ。なんとなく制服を着ている高橋さんでしたけど、よくよく回りを見渡せば、色とりどりの服装でいっぱいです。今まで気にしなかったのが不思議なほどに。
セーラー、ブレザー、それにやけに時代がかったものまで。レトロ趣味でしょうか。
高橋さんは純粋に面白がりながら、工藤くんの姿に目を留めました。詰め襟に坊主頭。
野球部?それとも他の運動部かな?高橋さんの坊主頭への印象はそんなものでした。
うちの学校、良いじゃん。皆の服装が違う事で、なんとなくモチベーションが上がり。日々の授業まで、なんだかお洒落なものに思えて来てしまって、高橋さんの成績は少し上がりました。
春の遠足、夏休み、冬休み。季節の移り変わりにも、やっぱり衣替えがあって、高橋さんの高校生活は、とても過ごしやすいものでした。
ただ。
衣服が変わるたびに、人も変わっているような気がするのは。気のせいなのでしょうか。
例えば、高校に入ってから一番仲良くしてくれていた陽子ちゃんは、夏休みに居なくなりました。海で事故にあって。
陽子ちゃんと同じく、仲良しグループで遊んでいた田中さんも、冬休み前に殺害されました。
工藤くんは、よく分かりませんが、徴兵されたそうです。
そして、高橋さんは2年生になりました。
「井上くんとは、どうやって知り合ったの?」
「だーかーらー。同じ部活なんだから、知り合うもなにも」
「うらやましい・・・」
京子ちゃんのからかいを受け流しながら、高橋さんは笑顔のままでした。
井上くんという彼氏が出来たので、幸せいっぱいで、クラスメートのからかいは純粋な祝福にしか聞こえませんでした。
井上くんは隣のクラスの生徒です。お喋りの通り、高橋さんと同じ、美術部に入っています。そしてもちろん、高橋さんのお付き合いのお相手です。
特徴的なリーゼントヘアーは、毎朝一時間かけてセット。学ランの背中の竜。裏地のアニメキャラ。長ランに作りかけのガイコツ模様の刺繍は全て、井上くん自分自身の手縫いです。世が世なら不良のレッテルを貼られる井上くんですが、美術部ではとても熱心な生徒の1人でした。
高橋さんも、井上くんの刺繍を好きになり、それから2人は親しくなっていきました。
着物姿の京子ちゃんを軽くいなして、高橋さんは楽しい部活に向かいました。
そしてそれが、高橋さんが目撃された最後でした。
放課後。高橋さんと井上くんは、交通事故に合い、死亡してしまいました。
飲酒運転だったそうです。飲み屋を3軒はしごした上で、迎え酒で乗ったトラックは、歩道を帰る2人をひき殺して止まらなかったそうです。
昭和40年のニュースです。
え?そんな前のお話だったのかって?
違いますよ。これは去年のお話。
高橋さんは、ただ井上くんと同じ時代に行って、そして死んだんです。
高橋さんの代わりに「こっち」に来た矢野くんが言っていました。あ、矢野くんは明治の人らしいです。
あの学校は、好きな科目が学べますし、部活もすごく多いです。先生も全世界から呼んでいるそうです。
在学時に時代が変異する事以外欠点はないそうですよ。
皆さんも、どうですか?
じゃ、次、風祭さんお願いします。