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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
46/88

5.ミール・シルバークロック

 まず優先するべきは金属だろう、そう判断したのには私の漠然とした「金属加工が一番手間がかかりそう」という先入観によるものと、今いる国から始められるから、ということだった。

 機械王国ロジックロックは金属産業が一番盛んであるという。

 そんなわけで私たちは一旦ロジックロックへと戻ってきたわけだが……。


「ちなみにこの後の事は多少なりとも考えがあるのよね?」

「いや全然。さて、どうしようかしらね」


 私のあっけらかんとした物言いにアラクネは頭を抱えた。

 材料調達の目処もつかないのに大型飛翔船なんてものを建造し始めた組織の一員から、私の計画性のなさを非難される言われはないと思うのだけれどどうだろうか?

 いや、アラクネは悪くないと思うけど。

 とりあえず冒険者ギルドあたりが適当かなと思い地図で位置を確認し、さて移動しようかと思った時、視線を感じて振り向くと一人の少年と目があった。


 見た感じ十四ぐらいだろうか?

 小柄だが体にあった仕立ての良いと思えるスーツに、細かい装飾品が幾つもあしらわれている所を見るに、いいところのお坊ちゃんなのだろうという事は容易に想像がついた。

 腰には手のひらサイズの懐中時計と思わしきものが下げられている……いや、あれ確か理論機構(ロジックギア)っていう魔術媒体だな。

 視線の合った少年は目をそらすでもなくこちらをじっと見つめてくる。

 それは、理由があってこちらを見ている目だった。

 警戒の意味を込めて、自然と万物の叡智(ルータスノーツ)を起動する。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

名前:ミール・シルバークロック

職業:学徒

年齢:13

性別:男性

レベル:7


パッシブスキル

直感


アクティブスキル

理論魔術-初級


ステータス

ヒットポイント:430/430

マナ収束力:110

体内マナ:72/85


ロジックロック王国四大名家の一つ

シルバークロック家の次男。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 表示されたステータスはごくごく平凡なものだが、二つ気になる点がある。


 直感というパッシブスキルと……四大名家?

 何か感づかれたかな、というこちらの警戒を他所に、少年はこちらに小走りで近寄ってきて、そして口を開くのだった。


「あの、お姉ちゃんたち……冒険者ですか?」


 一瞬答えることに躊躇しアラクネへと視線を向けると、貴女に任せるわとばかりに彼女はうなずいてみせた。

 冒険者としての身分証もある手前、そう名乗っても一切問題はないのだが、さてどうしたものかと思考を巡らせていると、それを悟ったのか少年は自分から要件を切り出してきた。


「冒険者なら……依頼があるんです」


 その言葉に私は再びアラクネと顔を見合わせるのだった。


 基本的に、冒険者への依頼と言うのは冒険者ギルドを通じて行われる。

 これは冒険者と依頼人、互いを守るための暗黙の了解だ。


 依頼人は信用のおける──例えば魔物の討伐実績があるとか、長期の旅になれている──目的に適した技能を持つ冒険者を探したいし、そこに嘘があると困る。

 冒険者は、依頼人の支払い能力や契約を違えない人物かどうかの保証がほしい、といった具合である。


 そのため、ギルドを介さないこうした依頼は互いの保証がないためトラブルとなることが多い。


 というのが、私がこちらに来てから今日に至るまでに教えてもらった基礎知識であるわけだ。

 こんな子どもとなると、怪しい依頼一直線である。


「あ、誤解しないでください。ちゃんと冒険者ギルドを通しての依頼にさせていただきます。兄が、ですが……」

「ふむ……」


(どうしたものかな……見えてる情報に限って言えば疑う要素は無いけど、信じる要素もないしなぁ、とりあえず話してみるか)


「とりあえず、貴方は誰なの? 誰かもわからない相手との契約なんて、結べないよ」

「あ……ご、ごめんなさい。ボクは、ミール・シルバークロックといいます」

「シルバークロックですって?」


 家名に対してアラクネが怪訝そうな声を上げる。

 その声は半信半疑のそれだが、それが嘘でないことは私はわかっているわけで……。


「依頼したい事、というのは所有している銀山に関することなんです……兄に、当主に会ってはいただけませんか?」


 そういえば、銀の採掘が止まっているなんて話を聞いた覚えがある。

 となると……やってきたばかりの私達を罠にかける必要……見た目を差っ引けば無いと考えるなら、話を聞くだけ聞いてみるのもありか。

 未だに訝しげな視線を向けているアラクネを制しつつ、私たちは話を聞くだけ聞きに、シルバークロック家の館へと足を運ぶことになったのだった。




 館は立派な作りをしていて、門を通ってから屋敷に着くまでに数分歩く必要があるほどその敷地は広かった。

 まぁ、数分程度で済むならまだ可愛いものなのかもしれないけど。


 問題はその当主、兄の方だ。

 その見た目は弟と名乗ったミールとそう変わらず、けれど身なりだけはしっかりと整っており、まるで子供のお遊戯会のようだ。

 本当に当主なのかと訝しむけれど、私の目が映す情報は間違いなくこの少年を当主と表示している。

 疑う余地は……おそらく無いのだろう。


「僕が当主のアベルです。ミールのお話を聞いていただけたようで、ありがとうございます」

「それは構わないけど、依頼と言うのはどういうお話なのかしら」

「こちらで立ち話で済ませるような要件ではないです、どうぞこちらへ」


 そう言って屋敷の奥へと招かれる。

 ばかみたいに広い応接室に、アベルが座ってくださいと促すのを待ってから腰を下ろす。

 たった四人と、執事が一人。

 暖炉には一応火が入っており、ぱちぱちと薪の爆ぜる音を響かせているが、人が少ないせいか部屋が広いせいか、肌寒く感じられた。

 程なくしてメイドが飲み物──度数が低めのワインだった、飲料水の変わりなのだろう──を持ってきて、私は口だけつけてそっとそれを置いた。


「それで、一体依頼というのはどういったものなのかしら?」


 アラクネが話を促したことで、アベルは少しの間逡巡した後に、口を開いた。


「頼みたいのは、ミスリルクロウラーの討伐です」


 聞いたことのない名前だけれど、なんとなく嫌な記憶がほじくり出された気がした。

 なんとなくだが、スティールクロウラーの上位互換という気がひしひしと感じられて、ちらりとアラクネの表情を見るとこちらも眉間にしわを刻んでおり、この依頼が難易度の高いものなのだろうと思わせる。

 しかし私の"万物の叡智"も不便っちゃ不便だね。

 目の前にある実物からしかデータを引き出せないときた、名前から情報検索とかできればもっと便利だっただろうに、というのは望み過ぎか。

 流石にこの状況で迂闊に「ミスリルクロウラーってなに?」なんて口にするわけにもいかず、ここはアラクネに任せてだんまりを通す。


「それは随分と厄介ね……でも、その程度なら冒険者ギルドに依頼すれば討伐希望者を募るぐらい問題ないと思うけれど?」

「……はい、ご指摘の通り。ただミスリルクロウラーが出たというだけならば事はここまで酷くなりませんでした……問題なのは、出た場所です」

「場所?」


 聞き返すアラクネの言葉に、アベルは言いづらそうな様子で、けれどなんとか言葉を絞り出した。


「当家の所有するバウディカデア銀山の……最下層です」


 最下層ってことは地下か、とそんなことを考えていたら、アラクネが突然席を立った。


「リーシア、帰るわよ」

「へ? え、ちょっとアラクネ? まだ話はおわってな──」

「最後まで聞くまでもないわ、危険過ぎる。地下でミスリルクロウラーと戦うなんて、無謀を通り越してる」


 アラクネの言葉に私は反対する材料もないというか、そもそも話にすら入れないわけで……。

 アベルもミールも止めたい様子なのだが、アラクネの言うことに反対も出来ないのか何も言えないままである、頑張れよ当主。

 とは言えこのままでは話が終わってしまう。


「あー、えっと……アベル君? いや、当主様っていったほうがいいかな。ちょっと隣の部屋貸してもらえる?」

「は、はい……構いませんが」

「ありがと、それじゃちょっと失礼。行くよアラクネ」

「え? ちょっと、リーシア?!」


 とにかく話を終わらせまいと強引にアラクネを捕まえて、私たちは隣の部屋へと飛び込んだ。


「扉も分厚そうだしこれで大丈夫かな……それでアラクネ、ミスリルクロウラーってのはどんな魔物なの?」

「……そうか、スティールクロウラーの事も知らなかったなら、貴方はそっちも知らないのよね……だから黙ってたのね?」

「賢明な判断だったと自負してるわ」


 どや、っとしたらアラクネが偏頭痛でも起こしたのかこめかみを揉むような仕草をした。

 失礼しちゃうぜ。


「基本的には、あのスティールクロウラーと大差ないわ。ただ、その強度は桁違いよ、熱への耐性もね。私がやったような手段じゃ倒せないし、何より致命的なのは性質と場所よ」

「地下ってのがそんなに危ないの?」

「……クロウラー系は外敵から攻撃を受けると周辺を無差別に攻撃するわ、壁も、支柱も、天井もお構いなしにね」

「……あ、崩落?」


 彼女の答えがわかり、なるほどと頭を抱える。

 確かに生き埋めにされてしまうとちょっと困る。それも、ほぼ確実に起きるであろう出来事となればギルドに依頼しても人が集まらなかっただろう事は簡単に推察できる。


「更に、ミスリルクロウラーは鉱石を喰い荒らす、つまり地下を掘り進む性質があるの。だから埋めたからってどうにもならない、この依頼は降りたほうが賢明よ」

「うーん……でも他にアテもないしなぁ……」


 何か良い案でもあれば良いのだが、そうホイホイ浮かぶほど頭がいいほうでもないしなぁ。

 いっそ鉱山ごと吹き飛ばしてしまうぐらいのほうが私にとっては簡単かもしれん、本末転倒だけども。


「一応言っておくけどリーシア、貴方の魔術で崩落する可能性だってあるんだからね?」

「む……」


 確かに、地下の戦闘となるとそれも気をつけないといけないのか、難しいな地下。

 ゲームでダンジョン潜ってる時にそんなこと気にしたこともなかったから完全に失念していた。

 今思うとダンジョン内でメテオストームとか普通に使ってたよね、あれどうなってたんだろう、気にしたらダメか。


「鉱山を水没させるとかダメかな?」

「崩れるわよ」


 それもそうか……氷漬けにするぐらい余裕だろうけどそれも多分砕かれちゃうだろうし、そう考えると本当に手のうちようがないな。


「リーシア、何を考えているの?」

「いや……コネになるかなぁ、って」


 この豪邸を見るだけでも、相当の資金力はあるはずなのだ、このシルバークロック家というのは。

 だとしたら、上手いこと協力関係になることができれば資金の融資だって期待出来ない話ではあるまい。

 そう考えるとこの依頼をあんまり逃したくないというのが私の考えなわけだ。

 特に、ギルドに依頼しても解決が見込めないものを解決できるという力を示せればアドバンテージは取れると思うんだけども。


「確かに……可能性としても魅力的ではあるでしょうけれど、それは手に負える話に限ってのことよ」


 未だに納得出来ない私を察してか、アラクネは私が納得できるまで話に付きあおうと決めたのか手近なイスに腰を下ろす。

 手持ちのスキル、アイテム、刻印魔術で出来そうなこと、そういったものを材料に、アラクネから聞いた情報だけを頼りに敵のステータスを想定して攻略法を巡らせる。

 ゲームの頃は当たり前のようにやっていたことだというのに、いざ現実に取って代わられると途端に難易度が上がるのは一体どうしてだろうか。


 いや、ゲームなら思いついた案を気軽に試しに行けたが、今はそう出来ないというのが一番大きいだろうか。

 自分だけであれば自己責任だし案外どうとでもなるような気もするが、私が行くとなればアラクネも当然のようについてくるだろう。

 彼女の命まで気安く掛け金にする訳にはいかない。

 私自身も何も考えないで突っ込む気は無いし……。


 必死に巡らせる頭は次々と案を吐き出していくが、そのどれもが保証なんて出来ないものばっかりで、生きることのリスクというのはこんなに多かったのかと思い知らされる。


 そんな思考を妨げたのは、ドアを叩く音だった。

 入ってきたのはアベルとミールである、そういえば待たせっぱなしだった。


「あの、お話がまとまらないようでしたら、今日は泊まってゆかれませんか?」

「え? いや、でも……そこまでは悪いような」


 依頼を受けるかどうかすら決まっていない段階でそこまでされるわけにも、と思ったのだがどうやら様子を見るにそれだけというわけでもないらしく、様子を観察する。

 アベルの後ろに少し隠れ気味だが、ミールの目がじっと私を捉えていた。


「ミールも是非にといっていますし、まだ宿が決まっていないようでしたら……」


 その言葉に押され、私たちはその提案を飲むのだった。

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