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ユニオン・マギカ  作者: 紫月紫織
神刺す若木
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4.砕けた剣

 翌日。

 ロズウェスタ北部、バウディカデア銀山を擁するハイレンシア山脈を登り始めてしばらく、山間にそれは姿を表した。


 山の緩やかな斜面を拠点としているのだろう、周辺の木々は伐採されて広く場所を取られ、現在進行形で組み上げられている骨組みがその身を晒している。


 硬式飛翔船フローズヴィトニル建造地。


 何人もの作業員達が木を切り倒しては場所を確保し、材木に加工したものが順次骨組みとして用いられているようだ。

 一見してその作業は順調に進んでいるように見える。


 問題なのはその骨組みが果たしてどれぐらいまで完成しているのかだ。

 すでに相当大きく、現在の目算ですら全長は百メテルを超えているのだが、未だに作業が続いているところを見ると完成していないのだろう。


「これは、心躍るわねぇ……」


 なんというか、こういったものはワクワクするね。

 言うならば子供の頃の秘密基地作りのような気分だろうか。

 いや、ミスティルテインにとっては移動する拠点という意味でまさしく基地なわけだけども。


「これだけ大きい物が本当に飛ぶの?」

「ゴルディオスはそう言ってるわね。最も、そのために必要な資材は呆れるぐらいのものだけど」

「これは、協力するっていうのは迂闊な発言だったかなぁ」


 今から協力する内容のとんでもなさを予感して、私は前日の自分の判断を後悔するのだった。


 ──うわあああぁぁぁぁあぁぁあぁ!


 突然の叫び声に、私がスペル・キャストを引き抜くのとアラクネが駆け出すのはほぼ同時だった。

 抜刀時間がある分この一瞬においてアラクネのほうが早い。

 後を追いながら叫び声の上がった場所へと駆け込んでみれば、周囲には作業をしていたと思われる人達が距離を取っている、悲鳴を上げたのは彼らだろう。

 そして彼らの視線を追えばそこには数匹の、人の数倍のサイズのイモムシがうごめいていた。

 有機生命体とは思えない艶やかな光沢を持つ外皮、幾つもの足を使って器用に建造中の骨格にまとわりついた彼らは、ぼりぼりと音を立ててそれらを削るように咀嚼しているようだった。


「スティールクロウラー!」

「──うわぁ……キモッ」


 そのあまりの見た目に唖然とする私を尻目に、彼女は間合いこそ取るもののアラクネウェブを放ったりはしない様子だ。

 そうしている間にもスティールクロウラーはゆっくりと骨格を捕食していく。

 接合部には金属や釘なども使われているようだが、それらも物ともせずに咀嚼していくところを見るに、木材だけでなく金属も平気で食い散らかせるようだ。


 時間を置くと状況が悪化するだろうからさっさと始末してしまうことにしよう。

 そう思って私がスペル・キャストを構えて飛び出したのを、アラクネが制止するのは一瞬遅かった。


「"重剣撃(バーストスラッシュ)"!」


 スティールクロウラーの体へと振り下ろした剣はやすやすと刀身を沈め、けれどワームを切り裂くことはなかった。

 それどころか、強烈な弾力によって押し戻され、直後に響いた破滅的な音に私の思考が白く染まる。

 音の出処は私の握る剣、その刀身からだった。


 鉄の砕ける破滅的なその音とともに、スペル・キャストが刀身半ばから砕け散ったのだ。


「──へ?」


 目の前で散る刀身の破片。

 私の脳は理解が追いつかなかった。

 目の前のイモムシが自分の力で切れなかったとか、そういうことを全てないがしろにした何か。


 直後、胴を何かで掴まれて引っ張られる感覚があった。

 何の事はない、アラクネが糸を使って私を引き寄せたのだ。

 その直後、スティールクロウラーの強烈な頭突きが地面を陥没させた、いくらHPによるバリアがあっても喰らえばただでは済まなかっただろう。


「……なん、えっ? なに、どうなって……?」

「スティールクロウラーは剣じゃそうそう斬れないのよ……私の糸でもたぶん無理」

「そんな……うそ、だって……これ」


 エレオラの作ってくれた、大切な──


 折っちゃった……私が……?


「リーシア落ち着いて、今はこの状況をなんとかしないと」

「だ、だって……わた、わたし……エレオラに、なんて言ったら」


 彼女はもう居ない、形見と言っても差支えのない剣は今私の前で無残な姿を晒している。

 その事実は私の心を揺さぶるに十分なものだった。

 この世界に来て、最初から傍にあった私の大切な相棒。

 それを作ってくれた彼女(エレオラ)に対して申し開きのしようがないではないか。


「リーシア、あれが終わったら話を聞くから、今だけ力を貸して」

「あ、う……わ、わかった……何すればいいの?」


 砕けた剣を握りしめたままの私の手をアラクネが強く握った、その感触と体温だけが今かろうじて私を繋ぎ止めていた。


「あいつらを包み込むぐらいの水流を作ってほしいの。あとは私が何とかする」

「わ、わかった……」


 刻印魔術を展開するも、動揺のためか出力が安定しない。

 不安定な制御のまま行使されたそれは、無様に、そして見境なく濁流を撒き散らす不出来な放水車のような有様だ。


「リーシア、そのままにしていて。多少マナの消費が増えるかもしれないけど、私を信じて」


 そう言ってアラクネは私の背後に陣取り私の肩を抑えた。


 私の描く刻印の周囲にアラクネの刻印が展開する、それらが干渉を始めていたのを私は持ち前のスキルからしぜんと理解していた。

 複雑に奔る刻印が私の作り出した刻印と絡みつき、つながってゆく。

 ぞくりとした感触が背筋を走り抜けていく。


 アラクネが私の刻印魔術に接続しようとしているのだ。

 少しして水流が安定したかと思うと多少強くマナを吸い出される感覚があった。


「よし、つながった(・・・・・)……」


 アラクネがそういった次の瞬間、私が生み出していた水が全て蒸気を上げる熱湯となってスティールクロウラーへと襲いかかった。

 帯のような形で絡みつくようにその身をのたうち回らせて、次第にスティールクロウラーたちを包み込んでいく。

 次第に、スティールクロウラーたちの体が潰れ、ひしゃげ、しぼんでいくまでにそう時間はかからなかった。

 それはあまり目にしたいものでもないし、見たくもない代物だ。


 気持ち悪い光景はやがて静かに収まっていった。


「なんとかなったわね……」




「なんでぇなんでぇ、ひでえ有様だな」


 騒ぎを聞きつけてやってきたドワーフの男は、現れるなり呆れたようにそう口にした。

 肩に担いだ巨大なハンマーは果たして鍛冶用なのか戦闘用なのか。

 喰い荒らされた骨組みを見てため息をつき、スティールクロウラーの残骸を見てため息をつき、そして砕けた剣を手に落ち込んでいる私へと視線を向けた彼は、三度目の溜息を吐いた。


「おいアラクネ、状況を説明してもらえっか?」

「悲鳴がして駆けつけたらそいつらが骨組みを貪ってたから駆除した、おわり」

「おう、端的な説明ありがとよ。ンで、そいつは? なんでそんな剣の欠片見つめてぼーっとしてんだ」

「大事な剣が折れちゃったらしくて……」

「剣だぁ? スティールクロウラーに剣振り回すなんざガキでもやらねぇだろ……大丈夫なのかそいつは?」


 うっさい、スティールクロウラーなんて見たことも聞いたこともないんだから知っているはずが無いだろう、とかおもったけれども、冷静になってみればなぜ"万物の叡智(ルータスノーツ)"を使って確認しなかったのか自分を責め立てたくなる。


 おそらく確認していれば防げたはずのミスだった。

 いや、スキルの選択だって間違っていただろう。

 ただ攻撃の威力を上げるだけの初歩のスキル"重剣戟"、それはきっと不必要に刀身に負荷をかけたはずだ。

 ゲーム時代にスキルに武器破損率など設定されていなかったし、芋虫程度切れるに決まっているとたかをくくっていた。

 切れなかったことによってスキルによって増幅された攻撃力がまるごと刀身に負荷としてかかったのだろう。

 "弱点看破(ウィークネス)"からの"瞬突(ピアッシング)"であれば一刀両断できたかもしれないけれど、そんなの今更だ。


「どれ、見せてみろ……」


 そう言って折れたスペル・キャストをひょいと取り上げたドワーフ族の男性はそれをざっと見聞した後に、どうしようもねぇなぁ、と口にした。


「芯が砕けちまってるしどうしようもねぇ、柄は無事だが……刀身は作りなおすしかねえ。良い金属だから混ぜあわせて材料にするのは問題ないだろうが……」

「それ……いくらぐらいかかります?」

「ああん? 材料費に加えて、そうだな……場末の鍛冶場なら数万シルってところじゃねぇかな、勧めはしないがね。こんな綺麗に砕けるってこた、それなりの腕と品物ってことだ、やるならちゃんとした工房で腕に見合ったものを仕立てるこったな」

「ゴルディオス、人が悪いわね」


 アラクネが少し呆れたような様子で割って入る。

 そういえば、今まで気が回らなかったのもおかしな話だがこのドワーフ族の男性は誰だろうか。


「名工ゴルディオスなら、それぐらい朝飯前ではないの?」

「確かにそうだが持ち合わせの材料がネェよ……そういえば聞いてなかったが、この嬢ちゃんは誰だ?」

「順序が逆でしょうに、彼女が以前話したリーシアよ」

「ほう、てことたぁ……新たなお仲間さんか、そういうことなら話は変わってくるな。まずは自己紹介しておこう、俺ぁゴルディオス・ベイルンベチュア。ここでフローズヴィトニル建造を指揮をしてるミスティルテインの一員だ」


 そういって、コルディオスと名乗ったドワーフはにやりと笑ってみせた。




「なんていうか、見た感じはただの嬢ちゃんだがな」


 第一印象が悪かっただろうことは想像に固くない。

 どうにも、この世界の一般常識としてスティールクロウラーに武器で立ち向かうなんて言うのは無謀極まりない事だったようだ。

 この世界で育っていない私に取って、そういった一般常識が抜けているのはどうしようもないのだが、それにしてもやってしまった感がひどい。


「そうね、見た目だけならね。でも事実氷樹を創りだしたのも──」

「そうじゃネエよ、目つきがな……なんかふわふわしてんだよ」


 してるだろうか、ややツリ目気味だと思うんだけども。


「剣を持つ事を覚悟してる目つきじゃねえな、ってよ。まあ、たまにそういうヤツも居るっちゃいるんだが……まあいい、今回の用事はなんだ? 見に来ただけって訳じゃねえんだよな?」

「とりあえずやることもないから、資材集めの手伝いをすることになったのよ、それで足りない資材の確認とか、カルバリウスやバステト達が集めてない材料があるかも含めて聞きに来たんだけど」

「ああ、ついでにそこの嬢ちゃんの紹介ってわけだな、端的に言うなら何も足りてネェぞ」

「まあ、そうでしょうね」


 話に入れないなぁ。

 アラクネもゴルディオスもため息混じりのやり取りを繰り返していて、私はなんとなく居心地の悪さを感じる。

 部外者でござい、って感じ。


「そんなわけだから、丁度いい提案がある」

「丁度いい提案?」

「そこの嬢ちゃんに活を入れるための提案、と言ってもいいかもな」


 勿体つけたような言い方だが、私の目下の悩みといえば剣のことなのだから、それを餌にでもするつもりなのだろう。

 私としてもそれが望みに沿うものであるなら一向に構わないが。


「その剣、刀身を打ち直すのはもう無理だが、柄拵えを残して新しい刀身を用意するって言うなら十分可能だ。それでお前が納得するなら、だが」

「……それ以上の方法は無いんでしょう?」

「ネェな、少なくとも俺の知るかぎりは、だが」


 だとしたら、望み薄だろう。

 もしもここにエレオラがいたのなら、スキルを使ってすぐにでも直してくれたかもしれない。

 けど、私以外の転生者がいるなんて楽観的な考えは持っておかないほうが良いだろうと思えた。


「なら、それでいいわ。お願いでき……ますか?」

「仲間の武器っていうなら一肌脱がねえわけにはいかネエしな、だがそれには材料が必要だ」

「なるほど、つまりその材料を集めがてら建造用の資材も集めてこい、と」

「話が早えな、そういうことだ」


 ゴルディオスが言うには、私の剣の刀身は特殊なものだったらしく──ゲーム時代に特殊な材料を使って作ってあるのだから当然かも知れないが──それの再現のためには七種の宝石と神銀結晶鋼しんぎんけっしょうこうという金属が必要とのことだった。

 神銀結晶鋼はミスリルと神鉄というものから作る合金らしい、まとめられたメモを眺めつつ、私たちはゴルディオスに見送られて建造地を後にした。 


「さて……どこからやっつけようか」

「やっつけられる気でいるのね……」

「どゆこと?」


 頭を抱えたアラクネは私の手からひょいとメモをひったくると、そこに再度目を通し、そしてまるで偏頭痛をこらえるかのように頭を抱える。


「この材料、どれもこれも入手困難なものばかりよ」

「そうなの?」


 これからの道のりをまるでわかっていない私を見てか、アラクネは再度大きく溜息を吐いた。

おまたせいたしました、なんとか落ち着いたので更新再開していきます。

入院中かけなかったせいかどうにも筆が乗らずなかなか難産なここ最近です、暫くリハビリが必要そうです。

書きたい気持ちは溢れてますけどね!

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