幕間-お風呂を作ろう
時間軸は少し戻りまして、氷樹の森の大賢者の3ヶ月ほど前のお話となります。
お風呂回は一章の間にどうしてもやりたかったのです。
うっすいTS要素の補充に!
これが限界だけど!
山奥で手頃な木を見つけては愛染胡蝶を振り上げる。
高い攻撃力に加えて"武器威力増大"で増加された切れ味は大木といえる木ですら安々と切り倒すことを可能とした。
これで十本目、あとどれ位必要かの目算がつかないため、山の環境破壊にならない程度の間隔を開けて適当に伐採を続けた。
いちいち一本一本持ち帰らなくて良いと言うのはインベントリの強みだろう。
本当に、これがなければどれだけの手間がかかっていたかしれない。
集めているのは「お風呂用の木材」で、これを使ってエウリュアレにかねてからの野望を実現しようと言う魂胆だ。
村の大工さんはそんな余裕あんまりないらしいのだが、今の期間を逃すと多分年単位で後になってしまうために無理を言って図面を引いてもらい、私がなんとか拵えるということになった。
三ヶ月ほど前にエウリュアレ近辺での戦闘があったからその復旧作業にまわっているというのもあるのだが、いかんせん寒い。
そう、今は冬真っ盛りなのである。
しかも氷樹の所為で例年より寒いらしい。
そんなわけでお詫びも兼ねてお風呂の良さを広めようという魂胆なわけだ。
「はぁ、早くお風呂入りたいなー」
無論、私が入りたいというのも大きな理由であるけれど。
通算で二十本目になる木を切り倒し、頭のなかで乾燥を済ませる算段をしながら、インベントリに締まって来た道を引き返すのだった。
「木材を刀で製材する奴初めて見たぞ」
「ふふん、私ぐらいの実力がアレばちょろいちょろい」
「そう言うならカレンさんから一本ぐらい取ってみろよ」
「ぐふっ」
乾燥させた木材を愛染胡蝶でスパスパと製材するという頭の悪い光景をゼフィアに披露していたら、ざくりと心に刺さることを言われてしまった。
三ヶ月近く……と言っても一月ほどはほとんど寝ていたから二ヶ月ほどなのだが、訓練していても未だにカレンさんから一本も取れない。
もっとも、最近臨月が近いので安静にしているため、最後に手合わせしたのは一月ほど前なのだが……。
所詮現代人ってことかね、私も。
あらかた必要な木材を図面に照らし合わせて切り出したところで、大工さんがやってきた。
「図面はひいたがほんとうに・・・・・・おわってんな」
「まーかせてー」
「まあ、あの時のを見てるから心配はしてなかったが、すまんなぁ。本当はもっとちゃんと手伝ってやるべきなんだろうが」
「いやいや、必須なものを優先するのは当然でしょう。私のはなくても代替えきいちゃうんだから優先度ひくくして当然よ。それより、新しく作ってるやつの進捗はどうなの?」
「ぼちぼちだなぁ、土を特殊な方法で固めてるから材料自体の調達は困ってないのも大きい。氷樹があるからひつようないかもって意見もちらほら出始めてるけどなぁ」
「油断はしないにこしたほうがいいわよ」
「だな、備えあればなんとやらだべ」
さすがにいつ消えるかわかりません、なんてことはいわないでおく。
言わなくていいことは言わないのが対人関係のコツだと思う、個人的にはだけど。
「それじゃあ、この図面通りに組んで固定すればいいのね?」
「おう、釘なんかは余ってるからこれを使ってくれ」
「ありがとう、たすかるわ」
「そいじゃあ、また夕方に様子見にくるさ」
「はーい、お仕事頑張ってねー」
「うむうむ、形にはなったな」
木枠を組み合わせただけの簡易的なお風呂であるが、見た目だけならそれなりにみえる。
周りには板を交互に組んで壁をつくり、脱衣所までなんとか用意できた。
あとは実際にお湯を用意するだけだ。
刻印魔術を用いれば用意することはできるのだが、その場合ユナさんとノフィカの手を煩わせることになってしまう、それでは汎用性に欠けるだろうし普及させるにも難しい。
となると刻印を施した魔術具が代案となるのだが、こちらもそう効率のよいものではない。
焚き火に着火したりする分には問題ないのだが、それ単体でお湯を沸かしたり調理をするという形で使うシロモノではないのである。
そして、わざわざお湯をわかすために大量の燃料を使うとなると、コスト面がやはり厳しい。
「安定してお湯を確保する方法か……"永続付与術式"で作れそうといえば作れそうだけども、普及させるって意味では論外なんだよなぁ」
私だけしか使えないスキルで普及させるとかうまくすれば良い収入になりそうだが、普及させるという観点からすればダメだよねぇ。
しかし他にアイデアも浮かばないしなぁ……。
とりあえず試作品てことで永続付与術式をためしてみるか。
問題は何に付与するか、何に付与できるのかとも言えるなぁ。
指輪とか装飾品、インゴッドとか……雑多なアイテムはインベントリにあるけども温度調節も兼ねると何がいいかなぁ。
とりあえず何かしらやらかした時の被害が小さそうという判断で銀の指輪をインベントリから取り出す。
しばらく手の中で指輪を弄びながら考えを巡らせる。
そもそも永続付与術式と言うのはゲームの中では装備品に魔法効果を付与するという類のスキルだった。
これのおかげで高レベルの読解者は装備品製作で金策もできるという便利な一面があったのだが……その付与はあくまでゲームのシステム的なものに限られた。
例えば攻撃力の増加、アイテムドロップ率の上昇、防御力の増加などである。
特にアイテムドロップ率上昇の装飾品は触媒の用意がめんどくさかったけど高く売れたなぁ、なんて思い返しながら小さく笑う。
レア目当てで狩場にこもっている友人に送ったりもした事が遠い昔の出来事のようだ。
「問題は発熱するような付与ができるのかって事だけども……」
感覚的になんとかなりそうなんじゃないかなと思っている、刻印の応用でこう……。
「あっつい!」
手に持っていた指輪に感覚で付与をかけた瞬間、高熱で手を焼かれて思わず指輪を投げてしまった。
コロコロと転がった指輪が落ちた地面からは煙が上がり始めており、あわてて刻印魔術で周囲を凍結させる。
オンオフの機能もつけずに発熱させたらそりゃこうなるわ。
溶けていく氷を見ながらさっさと火傷を治療する。
形としては成功だけど運用どうしようね、これ。
溶けた氷の中から出てきた付与済みの銀の指輪を木の枝で拾い上げてやると木がぶすぶすと焦げ始める、これ相当温度高いよな……。
とりあえずオンオフできないんじゃただの欠陥品だし、付与の手順を反転させて一旦破棄することにした。
次はちゃんとオンオフできて運用も想定した段階で付与することにしよう。
そんなこんなで試行錯誤を経てようやく完成したお風呂を前に──男女は分けておいた──私は自分の考えの甘さに頭を抱えることになったのだ。
お風呂は、村に公衆浴場として作った。
お風呂の良さを布教し普及させるのが目的なのだからそれ以外に選択肢がなかったと言っていいだろう。
男性用と女性用は最低限分けた、手間は増えたけどこれは特に問題ではない。
脱衣所もちゃんとあるわけで、一見して何の問題もない、というかお風呂の方事態には問題はない。
外からは見えないようにちゃんと壁だって作ったし屋根……は、流石に危ないから大工さんに任せたけどさ!
そう、翌々考えて一番問題なのはこれが公衆浴場ということだ。
とりあえず身近な……村長とかユナさんとかカレンさんとかノフィカとかゼフィアとかを呼んで体験してもらおうということで呼んだわけである。
私も入りたいと思っていた、思っていたさ。
……よくよく考えても一緒に入ることになるじゃんこれええええええええええええええ!
川で水浴びする時だってみんなからは離れていたのにいきなり敷居高すぎやしませんかねええええええええええ!
「どうしたんですかリーシア様?」
「え? あ、うん、え……い、いや……なんでもないにょよ?」
「……?」
おもいっきり噛んだ。
もういっそ、合法的に女性の裸が見放題だぜひゃっはー、とか思えたほうが楽な気がしてきた、無理だけど。
覚悟を決めて、出来る限り見ないようにするしかないか。
後で自分の家にも同じもの作って引きこもろう……うん。
なんというか、そういう社会的な在り方だからなんだろうけど、あんまり裸身を晒すのにも抵抗無いんだよねみんな。
水浴びの時とか側に剣や弓が置かれてるのは当たり前だし、それだけ危険地帯だからってことなのかもしれない、街に行けばまた少し違うのかもしれないけど……。
「んじゃまあ……入りましょうかー」
絶対に私はリラックスなんかできないだろうなぁ、と思いながら周りの面々を促すのだった。
「はぁ~……こいつはいいねぇ」
「気持ちいいわぁ……」
「とける~」
ユナさん、カレンさん、ときてノフィカの感想もまぁ分からないではないのだが、三人とも湯船につかってすっかりだらしなく伸びきっていた。
本当に、さっきまで半信半疑だったのがウソのようだ。
私はというと湯船に浸かった段階で水面の反射が多少隠してくれて少し落ち着けている。
いや、カレンさんの巨乳とか、ノフィカの整った体のラインとか見てるのはヤバかったけどね、視線逸らしてるとどうしたの? って覗き込んでくるから質が悪い。
無自覚とかやめてください。
あとあんまり見ないでください、見られるのも慣れてないんです。
それにしてもゼフィアは本当にそういう気がないのか、それともそういうのに興味が無いのか、私がゼフィアの立場だったらノフィカみたいな子放っておかないんだけどなぁ。
こうして見てても、ほんとうにかわいいし……。
おっと、あんまり見ないでおこう、ゼフィアに悪いね。
「あんまり長く浸かってるとのぼせちゃうからそれだけ気をつけてね」
「よくわからないけど、程々にってことね~」
「あぁ~、これは腰にくるねぇ」
ユナさん、かなりごきげんそうで何より。
お湯の温度もちょうどいいし、これぐらいを想定して作れば大丈夫そうだと、図面に対して作成するマジックアイテムの程度を頭のなかに入れておく。
三人から目をそらすべく湯船の外側を向いてうつ伏せ気味にお湯に浸かり考え事をしていた私は、忍び寄る影に気づきようもなかったのだ。
「リーシアちゃんの成長度はどれぐらいだぁ~!」
「ひゃああぁぁぁぁぁ!?」
ふいに後ろから抱きついてきたカレンさんは、私の腰に手を回して逃げられなくしてから絶妙な加減で胸を揉んできた。
痛いということはなくむしろ気持ちいいんだけどこれはあかん、変な感じがする!
っていうか成長度も何も私設定年齢は成人済みなんですけど!?
なんとか振りほどきたいんだけども私のステータスで迂闊に力を入れると何があるかもわからないわけで、ほとんど抵抗らしい抵抗もできない。
それを嫌がっていないと見たのかカレンさんの手つきはなんか怪しい方向に進んでる。
「カレンさんずるいです、わたしも~!」
のぼせはじめてテンションが上がってきたのだろうノフィカが唐突に混じり、後ろから見学ムードのユナさんの、ほどほどにしときなよ~、なんてのんきな声だけが聞こえる、お願いだからとめてぇええぇぇぇぇぇぇ。
結果としてノフィカがのぼせて湯船に沈み始めるまでの十数分、私は二人にたっぷりといじられる羽目になった。
危うく新しい扉が開くところだったぜ、と思いながら湯から出て伸びたノフィカを介抱することになったのだった。




