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おまけ 姉

なんとなくおまけ。





 子供の頃は仲が良かったはずだった。

 変わったのは、母が倒れた時だったのだろう。両親の代わりに家のことを仕切り、母の代わりに社交界へと出席するようになった。

 家のために、家族のためにそれが一番いいことなのだと思った。


 勉強も嫌いではなく、やればやるだけ周りに褒められることも嬉しかった。

 社交界は大人ばかりであったけれど、私と同じような立場の子や知り合った人の子供といった人達と友達になれたことで浮かれていた。


 その影で、妹が寂しがっていることに気づいてあげられなかった。




 妹は我慢強い子だと思う。

 気が強く我儘に見えるかもしれないけれど、昔からあんまり泣かない子だった。とてもしっかりした子だと勝手に思っていた。


 妹も社交界に出るようになって、ようやく違和感に気づいた。

 いつも真っ直ぐに向けられている瞳が、私たち家族に向けられていないことに。まるで、すべてを諦めたようにして社交界へと出かけていく姿。

 楽しそうなのに、楽しそうに見えない。

 子供の頃に、大好きなお菓子を身分が上というだけの理由で他の女の子に譲らざるを得なかった時に見せた、悲しそうな無理矢理の笑顔が不意に思い出された。


 どこですれ違ったのだろう。


 社交界での妹の噂はいいものではなく、諌めようにも家では避けられて会うこともなかなかできなかった。

 好きな人ができて、家のことと彼のことで一杯一杯だったなんて言い訳もいいところで、妹との溝は決定的になっていた。


 彼とはようやっと婚約まで出来て幸せだった。

 ただ、妹にはその幸せを祝っては貰えなくて辛かった。




「君が優しい人なのは知っているし、それは長所だ。だが、姉の婚約者に色目を使ってくる女を、俺は軽蔑する」


 婚約者の言葉に、何も言い返すことができなかった。


 私の持っているものを取るだけために、私が愛した人だからと言うためだけに、彼を奪おうとしたことが許せなくて、そこまでされるほど妹に嫌われていたことが辛くて。

 不幸になればいいと、はっきりと妹の口から聞いたときにはもう、私たちの関係の修復はできないのだと目の前が真っ暗になった。



 婚約者と正式に結婚して、家には両親と妹だけ。

 妹は監禁状態で、私に出来ることなんて何もなかった。


「正直に言うと、俺にとって君の妹なんてどうでもいい。だが、君にとってはそうじゃないんだろう? 君だけは、彼女を見放さなければいい。不幸を願われようとも、君は彼女の幸せを願えばいい。君の自己満足であろうと、俺は君のすることを応援する」


 そんな中、夫が言ってくれた言葉はどれほどの救いだったか。

 嫌われても嫌う必要はない。

 私を幸せにしてくれる夫のように、あの子を、幸せにしてくれる人がいればいい。


「ここから少し離れた場所で、あの子を幸せにしてくれるようないい人はいないかしら?」


「離れた場所?」


「ここじゃ悪評が付きまとって、あの子も息苦しいわ。最近では社交界のために宝石やドレスを好んでいたけれど、あの子は昔からお転婆でね。庭をよく駆け回っていたの。家の中に飾られた絵画よりも、瑞々しく咲き乱れる小さな花の方が好きだった子なの。だからね、きっと王都よりも田舎のほうがあの子に向いていると思うの」


「なるほど……いくつか心当たりがある。いい報告ができればいいが」


 夫が快く頷いてくれてほっとする。

 彼は妹にあまりいい印象を持っていないから。


 しばらくして、夫はかなり遠方に住む貴族の名を挙げた。


「かなり遠くてな、中央に出てくるのもなかなか難しくどうしても嫁の貰い手に苦労している。王都のような華々しさは皆無だが、人はいい。今のように実家に閉じ込められているよりはいいかと思うが、どうだろうか?」


 数年前になるが、実際にお会いした印象は良かったらしい。

 普通の令嬢であれば嫌がるような僻地であるけれど、あの子にはそれぐらいの場所の方がいいのかもしれない。

 実家に戻り、両親に話をしてみるとすぐに縁談をまとめたいと話が進んだ。

 あの子にはなんの相談もせずに勝手に決めてしまうことになったのは申し訳ないけれど、実家のあの子への扱いを見ればさっさと出してあげたい気もする。


 すでに嫁いだ身ではあまり言うこともできない。

 それに私が言えば変なふうに解釈されてしまう。


 それとなく父には言ったけれど、それで使用人の態度が変わるとは思えなかった。




 縁談は上手く話が進み、ほっと息をつく。

 最近は体調も思わしくなかったので夫にはとても心配をかけてしまった。


 と、思っていたのだが。


「懐妊……それって、あかちゃんが、出来たってこと?」


 体調が悪かった原因を知り、大泣きしてしまった。

 嬉しくて、両親への報告も済ませ浮かれていた。


 そうこうしているうちに、こっそりと隠れるようにして妹が家を出たことを聞いたのは、随分後になってからだ。





 無事に第二子も生まれ、賑やかながら穏やかな生活になっていた。

 そんな折に、夫が珍しく楽しそうな表情で一通の手紙を差し出してきた。


「読んでみろ」


「はい」


 手紙の差出人を見て、妹の嫁ぎ先だと気づく。

 ありがたいことに、この方は時折夫へも連絡を下さるのだ。両親にも時折手紙を出しているそうだのだが、その話は一度も両親に聞いたことがない。


 手紙を読み進めるうちに、私はだんだん涙が滲んできた。


 それなりに上手くやっていることは何度かの手紙でわかっていた。

 けれど、今日の、その手紙には。


 妹が母になる事が書いてあった。

 最近の彼女はよく笑うのはいいが、すこし落ち着きがなくてはらはらしているらしく、とても楽しそうな文章だった。

 そして、私のことも話してくれるようになったらしい。

 今はもう、私を嫌っているようなことはない、と。


 あの子は今、幸せに過ごせているのなら。

 それはとても嬉しくて。


「……返事と、彼女に手紙を書いてやってはどうだ?」


「はい」


 私はあの子の姉でありながら、あの子が本当にさみしい時に何もできなかったけれど。

 どうか、幸せであることを祈らせて欲しい。


姉の夫視点とどっちにしようか迷った。

夫は姉さえよければ、タイプなので、妹のことはあまり好きじゃない。

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