処女戦
――――2245年4月29日
サザンクロス北東100キロ
ルドウ県境辺り
リョーガー大陸と言う所は、高い山や深い谷と言った地形的凹凸があまり存在しない、なだらかな地形の続く平坦な大陸だ。惑星ニューホライズンでも比較的古い地殻地表だと思われる構造の場所で、おそらくは山だった地域も長い長い年月を掛け、雨に削られ風に抉られつづけて、緩やかな丘の続く地形になっているのだった。
海や河川と言った水の恩恵がある地域であれば、若い星と言う事もあって鬱蒼と茂るジャングルのような森の広がっているエリアとなるのだが、内陸へと入れば入るほど乾燥化が進み、ステップやサバンナかもう少し木の少ない草原のようなエリアになっている。
ただ、平面の多いリョーガー大陸と言えど多少は起伏も付いていて、このルドウ県とサザンクロスの境などは目に見えた形での県境を感じさせる低くなだらかな峠になっていた。そんな小さな名も無い峠の県境から南に4キロ。背の高いブッシュの陰に隠れた501中隊は、草むら越しに偵察を続けていた。
「どうやら向こうも斥候だな」
「峠の向こう側はどうだ?」
「ピーピングトムによれば、峠の向こうには戦闘車両の類は居ないらしい。ただ、あまり解像度が良いわけじゃ無いから地形に溶け込んで伏撃姿勢の待ち伏せ車両は確認できない」
戦闘車両の中で衛星回線を使い超地平線偵察を続けているアレックスは、エディへそう報告を上げた。事の発端はおよそ3時間ほど前に、戦闘車両のモニターに移る何かを見つけたドゥバンの一言だった……
―――― およそ3時間前
「アレックス中尉殿」
「ん? なんだ?」
「これは何で有りますか?」
「どれどれ」
装甲車の中で戦闘装備の実地訓練を受けていたドゥバンは、行進間射撃訓練を味方の装甲車と散々繰り返したあと、今度は車外モニターやレーダーや、そして広域通信機の取り扱い習熟訓練を受けていた。
複数のフェーズトアイレーダーを装備したターレ部分に陣取り、照準手シートで周囲360度を液晶モニターに囲まれたドゥバンは、タッチセンサーによる攻撃優先目標入力や砲弾種別選択制御など、様々な部分の使い方をじっくりと学んでいたのだった。
歩兵としての基礎教練はブートキャンプでやるのだが、こういった戦闘機材の使い方は配属先で行うのが普通で、高度に専門化し複雑化した戦闘機材を自由自在に扱えるようになるには、従来よりも高度な集中力を要する訓練を何度も何度も行う必要があるのだ。
21世紀の初め頃より指摘され始めた近代軍隊の構造的欠陥。すなわち『徴兵制で維持出来なくなった専門家集団としての軍隊』と言う欠陥をカバーする為、戦闘車両などの操作体系はより簡単かつシンプル化を推進し、僅かな訓練でも扱える仕組みにしてあった。
祖国と家族を護る為に公平な国民負担としての徴兵軍隊を組織したところで、戦闘力を維持する為には長く辛い訓練が続き、一人前のレベルで高性能な近代兵器を扱えるようになった頃には軍役期間が終わってしまうと言う矛盾だ。
なんとか改善しようと兵器メーカーや運用担当者などが頭を捻った結果、操作体系や扱い方法などの簡素化が究極と行って良いレベルまで進行したのだが、結果的にそれは訓練習熟度と反射神経の戦いとなってしまった。
つまり、徴兵で集めた素人でも戦える事を目指したはずなのに、訓練度の高いヴェテランによって素人の新人が簡単に死んでしまうという本末転倒な仕組みを生み出してしまっていた。
故に、志願兵により組織される近代軍隊は訓練に訓練を重ね、さらに訓練を積み重ねる必要があり、反射神経レベルで敵の動きに対応出来なければ、即自分が死ぬと言う馬鹿な状態となっているのだった。
「ん? なんだこりゃ」
モニターを見ながら唸るアレックスは液晶表示の解像力を上げつつ拡大を繰り返し情報量を多くしていった。ニューホライズンを周回する地球連邦軍の艦艇が24時間体制で地上を監視していて、合成開口レーダーにより解像力10センチ単位まで記録されている地上情報は同じエリアを十五分毎に撮影し地上へ情報提供しているのだった。
「これは…… シリウス軍ですか?」
「うーん」
唸り声を上げつつ考え込むアレックスは無線を使ってエディに連絡を取る。無線の向こう側に居るエディもまたモニターを睨みつけ考え込んでいた。
「どう思うエディ」
「待ち伏せと言うには戦力が少ない。かと言って迷い込むには距離がありすぎる。何かしら目的がありそうだが、現状では理解しがたいな」
「とっ捕まえて吐かせるか?」
会話に参戦してきたマイクはちょっと物騒な提案をした。結局のところ、当事者を捕まえて吐かせるのが一番早いのは言うまでもない。その当たりも501中隊の仕事だろうか?と考えたジョニーだが、エディはしばらく考えてから運転席のマルコを呼んだ。
「マルコ。県境の手前あたりで止めろ。出来れば隠れられると良いな」
「りょーかい 人間も車も筆卸ってな具合か」
「そうだな。抜かるんじゃないぞ」
「へい」
まるで友達と会話するような調子だが、エディは全く気にしている様子が無い。
そんな意味では気安い上官とも言えるのだが、緊張しないよう気を使う良い上司ともいえるのかもしれない。
「アンディー」
「ご用ですか少佐殿」
エディの車に同乗していたアンディー中尉は屈強な肉体を窮屈そうに折りたたみつつ、装甲車の中で寛いでいた。こういう部分の過ごし方や気の抜き方は、結局の所経験するしか無い。
「多分平気だと思うが、念のため喧嘩装備を整えてくれ」
「りょうかいっす! 身体が鈍ってたんで良い機会です」
ジョニーも乗っていた1号車の中、アンディー中尉が喧嘩装備を整え始めた。ジョニーたち歩兵と違いアンディー中尉らは機動装甲歩兵と言う兵科だ。それは、電動式のアクチュエーターを組み込んだ重装甲なプロテクトアーマーを着込み、普通の兵士では持てないような重量のある火器を持って戦闘するガチンコの存在。つまり、一番好戦的な人間が集まるポジションと言えるのだった。
「さて、どうなるかね。様子を見るか」
ニヤリと笑ったエディは装甲車のコマンダーシートで顎をさすりながら思案に暮れるのだった。
────そして3時間後
「多分だがライトキャバルリーの強行偵察だな」
そんな感触を得たマイクは無線を使ってエディに報告を入れた。発見されれば蜂の巣にされるのは避けられない状況下、マイクは僅か数名の手勢を連れ肉薄して様子を伺っていたのだった。
シリウス軍のマークを入れた装甲車は4輌ほどで、そのどれもが散々と打ち合ったらしい被弾痕を残していた。ただ、エディ達501中隊の装甲車のように回転式のターレを積んだ戦闘車輌というわけでは無く、機関砲程度しか武装の無い軽装型の6輪式高機動装甲車だった。
「よし、戦闘手順はこうだ。アンディー達は裏側へ回り込め。峠の向こう側からバンバン撃ってこっち側へ押し出すんだ。俺たちはここで待ち伏せし、主砲で一輌ずつ破壊する。恐らく車内に歩兵が居る筈だから、それはこっちも歩兵で片付ける事にしよう。主砲は荷電粒子モードで発砲する。機動歩兵の装甲も簡単に撃つ抜くだろうから、こちら側から見て峠の稜線より上に出ないようアンディー達は気をつけてくれ」
了解しました!と一言残し、アンディー率いるパワードスーツ部隊『ブルーサンダーズ』が装甲車を飛び出していった。荒れ地を大きく迂回してシリウス軍の裏手に回り込む算段だ。
ややあって、所定点に到着したとアンディーの報告が上がり、エディは各戦闘車輌のガンナー達に注意を促しはじめた。
「間違っても味方は撃つな。向こうから押し出してきたのだけを的確に狙って一撃で破壊しろ。砲撃戦が終わったら歩兵は降車し、散開陣形で押し上げる。各歩兵はブルーサンダーズに撃たれないよう注意だ。いいな」
無線の中に各戦闘兵科の返答が続き、エディはGOサインを出した。
フルフェイスのヘルメットバイザーに様々な情報が表示されているアンディーはブルーサンダーズに突撃を命じ、自分も抱えていた30ミリセミオートマチックライフルを抱えて、ホバー走行モードで突入したのだった。
「いけ! ウサギのケツを叩いてやれ!」
岩陰からいきなり飛び出したアンディー達ブルーサンダーズの12機は、問答無用でいきなりシリウス軍へと襲いかかった。完全に油断していたらしいシリウス軍側の兵士達は、装甲車の隣へテーブルなど出して、のんびりとお茶の時間を楽しんでいた。
そのテーブルの隣には測量用のレーザー測定器とGPSの受信機が置かれていて、書き掛けのメモとプリント中の真新しい地図があった。
「少佐! こいつら測量部隊だ!」
無線で報告したアンディーは大口径オートマチックライフルを撃ちながら突入していった。二輌並んだ装甲車の周囲にいたのは人間5人とレプリが8人。構うことなく全て射殺し、砲口から煙をくゆらせたまま報告を上げる。至近距離から大口径の銃で撃たれれば、強靭な肉体を持つレプリとは言え即死は免れない。転がる死体を改めたアンディーは完勝を確認した。
「少佐 状況を完了 シリウス軍13名を射殺 うちレプリは8名」
「了解した。これからこっちもパーティーに参加する。オードブルは残しておいてくれ」
エディはマルコに発車を指示し、アンディー達の戦闘エリアに入った。全員に装甲服の着用を命じ、自分は身軽な格好で装甲車から降り立ったのだった。
「ご苦労さん、案外大したこと無かったな」
「えぇ。正直拍子抜けです」
激しい銃撃戦をやった現場には硝煙の臭いがわだかまっていて、2輌並んで停車している装甲車の周りには、全く原形を留めていない沢山のレプリが白い血を撒き散らして死んでいた。その中には真っ赤な血を流すシリウス軍兵士の死体もチラホラと混じっていて、装甲車を降りたジョニーはその光景を唖然とした表情で見ていたのだった。
「なんだこりゃ……」
猛烈な吐き気を催したジョニーはシリウス軍装甲車の壁に手を着き、胃袋ごと吐き出すような勢いでゲーゲーと胃液を吐いた。まだ死臭を撒き散らすほどにもなってない新しい死体だが、勢いよく吐いたジョニーは改めて戦場というモノを認識しなおした。
ここでは人間の命など一山幾らで売られている果物と変わらない場所だ。そして、運が良ければ生き残るし、運が悪ければ生ゴミになるだけ。自分はいまそんな場所に立っているし、最前線では一瞬でも油断すれば銃弾の的にされるのだと痛感した。。
「おいおい、これぐらいでゲーゲー吐いてどうする!」
ロージーやグーフィーが指を指して笑う中、ジョニーとヴァルターは真っ青な顔で吐き続けていた。勿論ドゥバンもその向こうで吐いている。噎せ返るほどの血の臭いというモノを味わって、それで最初に吐かない奴は居ないと聞いていたが、自分の食道を胃液で焼きながらその話が本当だった事をジョニーは痛感した。
「いいかジョニー。戦場で生き残る一番の秘訣は絶対に油断しないことだ。そしてもう一つは、迂闊なことをしない。これにつきる。わかるな?」
上目遣いニヤリと笑ったマイクはキャップを外した水筒をジョニーに手渡し、皆に回せと指示を出した。口をゆすぎ、そして少しばかりの水を飲み込んでヴァルターに水筒を手渡したジョニー。涙目になっていたのを袖でごしごしと擦って、そして毅然と胸を張った。
「恥ずかしいところを見せました」
「気にすんな。最初はみんなそんなモンだ」
最後に口をすすいだドゥバンから水筒が帰ってきた。半分以上水が無くなっていて、新兵三人のコンディションの酷さにマイクも苦笑いだった。
「ウォレス! 水を足しておいてくれ!」
「へい!」
マイクは八輪装甲車に居たウォレスに向け水筒を放り投げた。大きく弧を描いて空中を飛んでいった水筒だが、一定の高さに到達した時、どこからともなく銃弾が飛んできて水筒を貫通した。
「伏せろ!」
マイクが叫ぶと同時に全員が一斉に伏せた。シリウス軍兵士の流した赤と白の血が混ざり合ってピンク色に染まった大地の上だ。水筒は鈍い音を立ててその中に着地し、残っていた水がこぼれピンク色の血を薄めていた。
「何処から撃たれた!」
マイクの声に皆が射点を探すも、水筒の貫通角度から考えられる場所に人の隠れられる隙間は無い。そもそも、人が隠れられるような建物や樹木などが無い場所なのだから、最初に考えられるのは草むらに隠れた狙撃手だった。
「オートマンじゃないか?」
装甲車のコマンダーハッチからそっと頭を出したマルコは、動体センサーを使って動く物を片っ端から探して居る。モニターに映る動体は501中隊の面々以外だと、鳥や小動物程度しか反応が無かった。
「それにしたって何処から撃ちやがった?」
マイクは相変わらず射点を探すのだが、それらしきモノは見当たらない。そんな時、ジョニーは目の前の小さな岩が水筒とほぼ同じサイズである事に気が付いた。そして頭の中にわき上がったイメージ。そっと上半身を起こしたジョニーは岩を抱え、先ほどの水筒と同じような軌道を描いてそれを投げた。
それなりに高度を取ったその岩は、空中を飛んでいる時にやはり銃撃を受け真っ二つに割れ、そのまま地上へと落ちたのだった。
「あった! あんな所だ!」
「こっちからは見えないぜ!」
マイクが見つけた発射点は半分程度枯れている比較的大きな樹のウロだった。その中に設置された自動狙撃装置はIFFに反応しない全てのものを撃つ仕組みの、文字通りに血も涙もない殺人マシーンだった。
「全員警戒しろ! ハンドグレネードを使う!」
半ば偶然に見つけた発射点を目掛け、マイクは力一杯にハンドグレネードを投げ込んだ。ちょっと高い位置だったのだが、抜群のコントロールで吸い込まれたハンドグレネードは直後に爆発し、木のウロの中で連続した小規模爆発が発生した。
「ヒュ~!」「さすがぁ!」「ナイスコントロール!」
相変わらず緩い501中隊の面々は、マイクを褒めそやして、そして微妙に冷やかす。そんな中、エディは岩を投げたジョニーを呼んだ。
「ジョニー!」
不意に呼ばれたジョニーは慌ててエディの所へと走る。
あまり良い予感はしないのだが、呼ばれた以上は出頭しない訳にはいかない。
「はい」
「良い観察眼だが、しかい、いきなりやったのはいただけない」
「はい」
「もし敵が複数居たら釣り出される危険があった。お前の投げた岩で囮が射撃し、全員が射界に出た所で一網打尽だ。アイデアを出すことは構わないし、むしろ良いことだ。ただ、やる前に相談しろ。周りに声をかけろ。そして、次はやる前に一声掛けろ。いいな?」
「すいませんでした」
まるで父親に説教されたかの様にガックリと肩を落としたジョニー。力を落とし、ガックリとうなだれ地面を見た。誰が見ても痛々しい姿だ。だが、結果的にそれがジョニーを救った。下を向いた瞬間、ジョニーの後頭部辺りを銃弾が通り過ぎていったのだった。
「伏せろ!」
力一杯ジョニーを押し倒したエディは、ジョニーの上に身を被せて辺りを確かめた。手榴弾で大きく破壊された樹の向こうに、シリウスの地上軍がやって来るのが見えた。
「アンディー! 西側に新手のお客さんだ! ウェイターはまだ準備出来ていないから客を待たせろ! マイク! 2班を連れて左から回り込め! アレックス!3班を連れて右から行け! 挟むぞ!」
マイクとアレックスが左右へと走り去っていくなか、エディはジョニーのヘルメットを叩いて意識レベルを引っ張り上げ瓦礫の中を走り出した。
「ジョニー! へこたれてる暇があったら走れ!」
「どこへですか!」
「俺の近くから10フィート以上離れるな!」
「イエッサー!」
ボルトを引いてチャンバーに初弾をたたき込んだエディはシリウス装甲車の間を走って行く。その後ろをジョニーが続き、ドッドとロージーが支援についていた。その間もシリウス軍側から収束射撃を受け続けているのだが、ジョニー達はとにかく走るしかなかった。立ち止まれば撃たれるとジョニーは思っていた。
「ジョニー! グレネードだ!」
「イエッサー!」
パワードスーツ隊に足止めされたお客さんの人集りに対し、エディとジョニーは遠慮無く手榴弾を投げ込んだ。それに続きドッドもロージーも遠慮無く手榴弾を投げている。
「ハバナイスデー!」
「ハバグッナーィ!」
イカレた声で笑うロージーの手榴弾が着弾し、次々とシリウス軍兵士が挽肉へ変わり始めた。そんな所へマイク率いる2班の収束射撃が降り注ぎ、歩兵が続々と斃れた。銃を構えたまま状況を確認するジョニー。だが、エディは小さく舌打ちしてジョニーのヘルメットを叩いた。
「こっちだ!」
慌ててエディの後を追跡したジョニーだが、つい数秒前までジョニーの居た場所にどこからともなく手榴弾が降ってきた。あと数秒そこに居たら死んでいた。そんなタイミングで走り出したエディは、一体何処を見たんだろう? なんで舌打ちしたんだろう? と、次々疑問がわき起こるジョニー。
だけど、それを質問している暇は無いし、したところで懇切丁寧に教えてくれる事も無いだろう。とにかく自分で考えて自分で覚えるしか無い。人の行いを見て自分の頭で考えるのだ。
「死にたくなかったら走れ!」
エディが再び走り出し、ジョニーは無我夢中で付いて行った。細長い列になって突っ込んできたシリウス歩兵はマイクとアレックスが挟み撃ちにしていて、文字通りのつるべ撃ちにあっている。そんな中、どこかから聞き覚えのあるディーゼルエンジン音が聞こえてきたのだった。思わずジョニーの腕が粟立つのだが、エディは楽しそうに笑っていた。
「ほぉ! こりゃたまげた。ここでも使ってくるとはな!」
離れたところからジリジリと接近してくるシリウス軍は、ここでも装甲型パワーローダーを戦闘に投入してきた。今回は4機。だが、前回の遭遇とは違い、今回は驚くべき兵器をこっちも持っている。
「ドッド! マルコ! 主砲を使え!」
「サー! イエッサー!」
装甲車のターレが旋回し、太い砲身を持つロングバレルの主砲がパワーローダーをロックオンした。一瞬砲口が光り、荷電粒子砲モードになっているのが皆にも解った。
ジョニー達新兵はここに到着するまでに散々と操作訓練をやった代物だ。ガンナーシートに座ったドッドはモニターに映るパワーローダーの指定を行い、自動射撃のスイッチを投入した。
「気合いと根性だけじゃ戦闘には勝てない。一番必要なのは勝ち方へのセンスだ。コレばっかりは経験だ。場数を重ねろ。その為にも死ぬなよ!」
一瞬、耳をつんざく高周波音が響き、直後に装甲車から射撃を警告するクラクションが鳴り響いた。そして、ほぼ衝撃音でしか無い『ドン!』という音を立てて荷電粒子の塊が撃ち出されると、その周囲にいた者達の肌にはチリチリと静電気が走ったような違和感があった。
荷電粒子の塊はパワーローダーの装甲を紙のように打ち抜き、パワーローダーはエンジン部で軽油に引火したらしく火炎に包まれた。パイロットだったレプリが火だるまになって這い出てきて、そのまま燃え死んだ。
ドッドとマルコによって次々に射撃が行われパワーローダーを続々と破壊している。そして、あっという間に4機ほど居たパワーローダーが全滅し、突撃してきていたシリウス兵も手の空いた装甲車からの制圧射撃によって全滅した。数名の指揮官を除き、すべてレプリの兵士だった。
「さて、一段落だな」
エディは状況の見聞を始めた。装甲服を着ずに動き回るエディとマイク。アレックスも着込んで無く、余りに軽装な姿にジョニーは違和感を覚える。だが、実際には腰が抜け気味で、思わずその場に膝を付いたのだった。
「楽しかったろ?」
今更怖くなったジョニーを見てニヤリと笑ったロージー。
そっと歩み寄ってジョニーの頭をグリグリと押さえ込んだ。
「……怖かった……です」
「それで普通だ。怖くねぇなんて奴はどっかイカレてんだよ」
相変わらずヘラヘラと笑うロージーは空っぽになったマガジンを交換し、次の戦闘準備を整えた。
「ジョニー。戦闘が終わったらマガジンを確かめろ。肝心な時に弾無しだと困るだろ? 戦闘の時も、女と遊ぶ時もタマ無し男はダセェのさ。だから準備万端整えておけ。準備しときゃ多少撃たれても怪我だけで済んで死にはしねぇ」
胸を張ってイエッサーと答えたジョニー。
何が何だか良くわからないうちに、記念すべきジョニーは戦闘童貞を卒業したのだった。




