夜戦
――――2245年4月29日深夜
ルドウ郊外10キロ
県境付近の戦闘を終えた501中隊はルドウの街を目指して街道を走り続けていた。蒼天に輝いていたシリウスは釣瓶落としに地平の向こうへ隠れてしまい、音も無くやって来た暗闇が辺りを包む。
揺れる装甲車の中でドライレーションとホットコーヒーの夕食をとったジョニーだが、処女戦を終えた後の妙なハイテンションをどう御して良いかわからず、なんとも宙ぶらりんな心境に悶えていた。
車内の壁際に並んだ固いシートの上。手持ち無沙汰で眺める1号車の面々。運転席にはイタリア系のマルコ二等軍曹。車長席にはエディ少佐。照準手席で舟を漕いでいるのは501中隊の最先任曹長で上級兵曹長のドッド。一般席で全員分の食事を用意し、その後片付けをしているロージー一等軍曹。その隣の一般席でエディ少佐とアレコレと話しているアンディー中尉。ジョニーを含め6人しか乗っていない1号車だが、先頭を走るのだから一番危険も多いポジションだった。
「もう一戦したいって顔だなジョニー」
いきなりそう冷やかされたジョニーだが、空っぽになったコーヒーカップへコーヒーを注いだロージーはニヤニヤと笑うばかりだった。
「なんだか…… 彼女と初めてヤッた翌朝みたいです」
「そうだろうな。大体どいつもそんなもんだ。生き残ったって妙な自信で勘違いする。三回目か四回目辺りで手ひどく撃たれて痛い思いをして、運が良いと生き残ってヴェテランに近くならぁね。まぁ、その手痛い一撃で大半が死ぬんだけどな」
カップに残っていたコーヒーを飲みきったロージーは、なんとなく『ドヤ?』と言わんばかりの顔で笑っていた。その姿にジョニーは間違いなくヴェテランの臭いを嗅ぎ取る。
幾多の死線を潜り抜けた者だけが持っている『気の抜き方の極意』とでも言うような物だ。言葉では説明できない絶妙な物事のさじ加減は、場数を踏む事でしか身に付かない。
「そろそろケツの肉が四つに割れる頃だ。狭い車内も飽きただろ?」
「はい」
「まぁ、なんだ」
ニヤリと笑ったロージーがひょいひょいと指差した先。エディは無線機にかじりついて聞き耳を立てていた。隣にはアンディー中尉が居て、揉み手をしながらニヤニヤと笑っていた。まるで遊びに行く前の子供の様に。
「今度は酷い事になりそうだ。間違いなく乱戦になるな」
肩をすぼめ『ウヘェ』と言う表情で笑うロージー。その仕草にジョニーは顔を顰めるしか出来なかった。戦闘拒否と言う選択肢が無い以上、戦闘で生き残るしかない。それ故に頑張るしかないのだが、個人の努力など何の足しにもならないとあざ笑うような酷い戦闘結果を見たばかりだ。
ルドウへ近づくに連れ、軍用無線が賑やかになっているのを見て、ジョニーはだんだんと不安そうな表情を浮かべていた。デジタル通信ではなくオープンのアナログ通信が行われているそれは、普段ではあり得ない荒々しい口調でやりとりする戦闘状態を示していた。
――――ガーダー!ガーダー! Dエリア突入を失敗! チャリオッツ3残存10輌!
――――チャリオッツ3 了解した! ブルーラインまで後退しろ!
――――ケツは俺たちが拭く! 後を頼む!
――――いいから後退しろ! ヘッキーのオルガンが来るぞ! 戦力温存命令だ!
――――……不本意だが了解した!
無線を聞いたエディはターレのコマンダーシートから上半身を乗り出して双眼鏡を覗き込んだ。地平線の向こうに眩い光りが幾つも光り、それが眩い尾を引いてこちら側へと飛んできて、そして遙か前方へと着弾している。そして、その都度に眩い光りが地上で明滅し、遠雷のような低く重々しい轟きが平地を包んでいた。
「遠距離砲撃戦だな」
「あぁ。随分と古式ゆかしい戦争をしている」
無線でアレックスと会話したエディは各装甲車に戦闘準備を命じた。ジョニーは脱いでいたポンチョ型の装甲服にもう一度袖を通し、その上から無線機やら予備マガジンのポーチやらを装着してヘルメットを被った。
防弾バイザーとは名ばかりで直撃を受ければ簡単に貫通するポリカーボネード製のフェイスガードは、細かな破片から目を守る為のモノでしかない。しかし、先の戦闘で経験した通り、有ると無いとでは大きく違うものだ。
しかもその内側には限定的ながらバトルフィールド上における共通戦術状況図が表示され、戦闘全体を俯瞰的に眺めた情報を得る事で、歩兵の戦闘をも支援されるだけでなく、待ち伏せや地雷といった危険情報を得る事が出来た。
つまり、最早これなくしては歩兵すらも安心して戦争が出来ない状況となっているのだが、常に抜かりなくの精神で自動小銃のマガジンを確かめ、残弾を移しフルロードのマガジンを7つほどジョニーは用意した。
最後に無線機のスイッチを捻って天使の歌声を聞き始めたのだが、静寂の中にサーっと言うノイズが流れ、その直後にエディの言葉が始まった。
「推定だか市街地で装甲戦闘車両同士の戦闘をしている。現状では未確認だが、おそらく友軍が押されているだろう。そこへ強行介入しゲームをひっくり返す。混戦になるだろうから各車両は連絡を密にしろ。戦域に突入すると同時に無線をオープンバンドに切り替える。歩兵は装甲服をガッチリ着込め。市街戦で最後の鍵を握るのは何時の時代だって歩兵なんだ」
ニヤリと笑ったロージーはジョニーを指差して楽しそうにしていた。ただ、そのジョニーのほうが手が震えだし、ポンチョのベルクロやポーチのマジックテープを上手く留められなくなっていた。
身体中に付いている様々な装備がカタカタと音を立てて賑やかになっているジョニー。その音を聞いていたドッドやロージーがケタケタと笑っている。
「おぃおぃジョニー! まるでチャイムみたいだぞ」
「そうだ。バッテリーが切れる寸前のスローチャイムだ」
「緊張しすぎたって良い事は何も無い。リラックスしろ」
「難しいだろうけどな」
憮然とした表情のジョニーは深呼吸を一つしてから、少しフテ腐ったように小さな声で「がんばります」と答えた。だが、ドッドはそんなジョニーにむかって喧嘩を売るように酷い言葉を浴びせかけた。
「あの荒地の一本道で初めて会った時のジョニーは世間知らずのいきがった小僧だったが、強気で負けん気があって、おまけになんにでも噛み付く獰猛さがあったんだが、何だそのザマは。すっかり小せぇ人間になりやがって。だらしねぇな」
思わずカチンと来たジョニーの顔色が変わった。音を立てるほど震えていた身体が納まり、チャックのタブを摘んでいた指に力が入った。睨みつけるようにドッドを見たジョニーの顔が高潮する。
「そうだ! その顔だ! なんにでも噛み付く強気のジョニーの顔だ! 良い顔してんじゃねーか! なぁ!」
ハッハッハ!と声を上げて笑うドッド。ロージーも笑っている。そしてそんな場所へアンディーも姿を現した。パワードスーツ用のアンダーウェアを着たアンディーは、筋骨隆々としたがっしり体系の大男だ。手狭な装甲車の中がより一層狭く感じるような迫力が有る位だった。
「良い顔をしているなジョニー。だけど、戦場では氷の様に冷静でいろよ。燃え上がる炎の様に戦うのは良いが、頭の中はいつも冷たく凍る氷の様にしていろ。そしてな、ドンな人間でも恐怖に駆られると怖気付いたり腰が引けたりする。そんな時はとにかく怒れ。怒りを顕わにして腹の底から叫べ。強い怒りは力になる。一番大事なものを思い浮かべて、そして、それを護る為にな。クールでホット。それが良いのさ。戦場を一度でも見たお前ならわかるだろう?」
どこかグツグツと湧き上がる不快感と不機嫌さを抱えていたジョニー。しかし、アンディーの言葉にふと冷静さを思い出した。クールでホットと言う言葉にどこか得心した。
「さて、ジョニーもやる気になった事だし仕事に取りかかるぞ」
最後に現れたエディはジョニーの頭をポンと叩いてからナビゲーターシートに座った。メインモニターに共通作戦状況図と共通戦術状況図を表示させ、友軍戦闘車両が受け取っている情報をワッチしつつ交戦中の存在を確認する。
「アンディー。面倒だがまた先行突入してくれ」
「お安い御用です」
「ルドウの市街地へ入ったらCOPとCTPに支援情報を流し、こちら側からの支援砲撃で巻き込まれないように防護措置を取ってくれ」
「了解であります。久しぶりに金玉の縮み上がる作戦ですな」
「地球へ帰りたかったら砲撃に当たっても良いが、俺の個人的な願望としては生き残って欲しい。故に情報を切っても良いから、まずは生き残る努力をしてくれ」
「では、市街地で散々と踊ってきます。運動不足なんでいつもより多く踊ると思いますが」
「それで良い」
モニターの表示を切り替え各車に状況を送信したエディは、タッチセンサーで作戦の進行過程を説明し始める。
「真ん中から1、2号車が突入。マイクは左手へまわって行け。3、4号車だ。5号車6号車は市街地の外で待機。予備戦力にする。アレックスは状況を確認し戦域情報を各車に通達してくれ」
「あぁ、それなら先に言っておきたいんだが」
「なんだ?」
話をさえぎったアレックスは各車のモニターに衛星撮影情報を表示させた。ルドウの街中に展開するシリウス軍の現況が大まかに表示され始める。兵科色に別れ表示される敵軍状況を一言で言うならピンクで表示される戦車だらけだった。
「シリウス軍はどれくらいの規模だ? 戦車ばっかか?」
「いや、例の装甲パワーローダーが結構いるようだ。ピーピングトムよれば100や200と言う数字じゃ無いな」
大気圏外からこっそり覗き見する情報をいつの間に受け取っているのだろう?
話を聞いていたジョニーは怪訝な顔で話を聞いている。だが、それを質問したところで教えてはくれないだろうし、知る必要も無い事に首を突っ込むのは得策じゃ無い。当たらず触らず距離を取って離れすぎない。そんな気の使い方をしなければいけないのだから、実際はひどく疲れる作業でもあった。
「パワーローダーも戦車扱いなのは良いとしてグリーンやブラウンが目立たないのはおかしいな。まさか、街自体の破壊が目的じゃ無いだろうな」
訝しがるエディを宥めるようにマイクが口を挟んだ。
「むしろ街の破壊だけのほうが都合良いんじゃないか?」
「なんでだ?」
「がっちり撃退したあと、家捜しして歩兵の生き残りを処分する手間が省ける」
「そりゃそうだが…… まぁ、機甲師団がいると面倒だ」
しきりに心配事を並べていくエディ。問題提起を行ってそれに部下が応えるディスカッションは15分ほど続き、最後になってマイクがエディを押し切った。
「まずはダイスを投げようぜ。あとは出た目で勝負しよう」
「俺もマイクの案に賛成だ。最後は出たとこ勝負だ」
アレックスが相槌を打ってエディに決断を促した。そんな二人を頼もしそうに見ていたエディだが、不意にジョニーを射抜くような目で見て、ニヤリと笑った。
「おいジョニー。随分やる気の顔をしているが怖くないか?」
「怖いけど…… その前にやる事やら無いと俺の家がやばいから……」
ちょっと控えめに言ったジョニーをジッと見て、そしてクックックと笑う。
「よしよし、死にたがりじゃ無いと神に祈ろう。アンディー。さっきの手順どおりだ。準備が出来次第に出発してくれ。アンディーたちが突入に成功したら無線をオープンにして友軍に援軍到達を知らせる。そこからは砲撃戦だ。優先目標は例のパワーローダーだ。そして、装輪装甲車や先頭車両は優先的に破壊する。歩兵は可能なら踏み潰せ。シリウス側の重機材を処分したら白兵戦だ。良いな?」
車内にも無線にも返事の声が一斉に流れ、装甲車の後部ハッチを開けたアンディーは車外へ飛び出してからブルーサンダーズを集めてホバー突入していった。その流れを目で追いながら、ジョニーは手をグッと握り締めている。
「マルコ。先陣切って突っ込むんだ派手にやれ。ドッド、照準をしくじるなよ」
「任せてくださいって。なぁドッド」
「おうよ! 纏めて消し炭にしてやります」
ウンウンと頷いたエディはジョニーの背を叩く。
「ジョニーはターレのバスケットに乗れ」
「え?」
「主砲と同軸の機銃がある。そいつをぶっ放して歩兵を見つけ次第片付けろ」
「……イエッサー!」
自動小銃を壁の安全ラックへと掛けたジョニーはメッシュ状になった砲塔部のバスケットに足を乗せた。主砲のある砲塔はその床部分までもが独立して回転し、照準手や機銃手が身体を捻らなくても済むようになっている。
ドッドに遠慮してM2機銃のガンナーシートに座ったジョニーは、ブートキャンプで習ったとおり、初弾をチャンバーに装填した後で射撃準備を整えていた。
「ジョニー。見つけ次第撃って良いが、主砲を打つときは射撃を止めるんだ。良いな? 絶対忘れるなよ?」
「イエッサー!」
ドッドの言葉に大声で答えたジョニーは、M2のグリップをしっかりと握って突入に備えた。被っているヘルメットに戦闘情報が表示されていて、その状況は刻々と変わっていた。戦場へ突入していったアンディー達パワードスーツの得た敵側情報を見ながら、ジョニーは燃え盛る街中へと入っていった。
「さて! おいでなさるぜ!」
ドライバー席のマルコが笑いながらアクセルを踏み込んだ。エンジンが唸りを上げ、市街地へ入り込んだ装甲車は左右から小口径自動小銃で撃たれ始める。だが、その射点を見つけてはジョニーがバリバリとM2を撃ちこみ続け、あちこちで白い血の花が咲き始めた。
「なんだよ! かなり歩兵がいるじゃ無いか!」
ガンナー席のドッドが叫ぶ。
その声に2号車のガンナー席にいるはずのグーフィーが応じた。
「榴弾で建物後と吹っ飛ばそうぜ!」
「それが良いな!」
荷電粒子砲になっている主砲は弾体加速器を使った通常弾も撃てる構造だ。
あまり歓迎はしないと整備中隊から釘を刺されているが、実戦の中で打ち合う側にしてみれば、命の掛かっていない整備中隊が馬鹿な口を効くなと言うのが本音とも言える。
ただ、兵器を整備する者達の不眠不休の努力が戦場の兵士の命を支えているとも言える訳で、表だって文句を言って整備の手を抜かれると困るのだから我慢しているケースが多々あるのは暗黙の了解だ。
戦闘支援モニターのタッチパネルをピアノのキーの如く軽快に叩いたドッドは、あとで整備中隊の隊長が頭から湯気を出しているシーンを想像しながら荷電粒子の加速器を止め、弾体加速器のメインスイッチを起動して自動装填機に瞬発榴弾の装填コマンドを送った。
直径8ミリ程度のパチンコ玉数百発を着弾と同時に半径500メートル範囲で炸裂させる榴弾は、市街戦において建物に隠れる敵兵を処分するのに最適だった。手榴弾よりも遙かに強力な圧でまき散らされるパチンコ玉は、少々の厚さがあろうとも木材やモルタルなど簡単に貫通して対人殺傷能力を失わずにいてくれる。
「COPもTCPも更新されたぜ!」
「アンディのお陰だな。そろそろ始めるか!」
ドッドとグーフィーが砲塔を回し狙いを定めた。
揺れる砲塔の上でM2を乱射していたジョニーは旋回Gで身体を持って行かれ、砲塔から振り落とされ掛けるのだが……
「ジョニー! こっちをぶっ放す! 跳弾に注意しろ。一旦引っ込め!」
「イエッサー!」
砲塔内へ身体を沈めたジョニーはドッドの後ろで360度ビューのモニターを見つめた。夜戦モードになっている液晶表示は自動的に赤外表示に切り替わっていルようだった。
「すげぇ……」
「よく見えるだろ? だけど、これはゲームじゃ無いし、遊びでも無い。こっちがぶっ放したら、向こうで確実に人が死ぬ。だから、撃つ時は間違えないようにな」
「何を?」
「殺していいのはシリウス軍かレプリだけだ」
照準器の調整を終えたドッドはガンナーシートの肘掛けについている安全装置を外した。攻撃目標に設定された照準マークが赤から緑に変わる。砲身を細かく微調整し続けるコンピューターの努力が手に取るように解るなか、ドッドは発射ペダルのカバーを足で蹴り上げて発射段階に入った。
「エディ! ヤるぜ?」
「よし! いけ!」
ドッドが発射ペダルを踏みつけると、砲塔内に耳を塞ぎたくなるような音が鳴り響いた。初弾を撃ち放ったドッドに続き2号車のグーフィーも砲撃を開始した。そして3号車の照準手席に座っているはずのブローも砲撃を開始する。
狭い街中で強力な105ミリ砲を次々とぶっ放していると、市街地の中に崩れ残っている建物があちこちで一斉に崩壊を始めた。砲の衝撃波や着弾した榴弾の威力だけで無く、装甲車自体の接触などによって建物が瓦礫の山に変わっているのだった。
「ジョニー! もういっぺん上にあがれ!」
「イエッサー!」
ドッドに指示を受けジョニーはガンナーシートで再びM2を構えた。崩れ落ちた建物の中から死にきらなかったシリウス兵やレプリが這い出してきて逃げようとしているのが見える。
無意識に狙いを定め引き金を引こうとして、ジョニーは一瞬躊躇った。引き金を引けば確実に人が死ぬ。ここに来るまで何度も引き金を引いていたし、街に突入した最初の時は何も考えずにバリバリと撃っていた。
だが、この時は何故か撃てなかった。心に何かが引っかかって撃てなかった。それが何であるかを考える余裕など無い。だが、現実にジョニーは引き金を引くことが出来ず、逃げ出したシリウス兵は膝から下の無くなった足を引きずって逃げていた。
「ジョニー! 面倒は考えるな!」
ドッドが精一杯でかい声で叫んでジョニーは我に返った。
「キッチンの中でちょろちょろ走り回る奴と一緒だ! 考える前に精一杯ぶっ叩け! 面倒も後悔も力一杯ぶっ叩いてから考えろ! 死ぬぞ!」
死ぬと言う言葉に反応したジョニーが引き金を引いた。混戦になり始めたルドウの街にM2の射撃音が響き、勢いよく吐き出される巨大な薬莢が装甲車のターレの上に刎ね踊った。
「そうだ! それでいい! 面倒は後で考えろ! まともで居るという贅沢は後で楽しめ! 俺たちゃスリルジャンキーなウォーモンガーだ!」
左右を確認しつつバリバリと打ち続けるジョニーは、どこか感覚が麻痺し始めている自分に気が付いた。機械的に敵かどうかを判断した後、迷う事無く弾を撃ち込んでいるのだった。
確実に人が死んで行っている筈なのだが、それに対し罪の意識すらも無くなり始めていた。ただただ単純に『敵を殺す』というだけの存在に成り下がって、そしてふと脳裏にリディアの顔が浮かんだ。笑顔では無く、どこか悲しみに満ちた目をしてジョニーを見つめていた。
――――リディア
ふと、そのリディアの隣にあの自警団のキングが姿を現した。下卑た顔でリディアの顔を舐めようとしている汚らしい獣のような男だ。M2のグリップを握っていたジョニーの手にグッと力が入る。戦争の中で自分の欲望だけを優先している奴の存在をふと思い出した。
――――そうだよな……
何の為に戦っているのかを忘れなければブレる事は無い。宙を泳いでいたジョニーの目に力が戻った。そして、あちこちに見え隠れする敵をしっかり見据えた。
「ドッド! 左手の曲がり角付近! シリウス戦車だ!」
無意識にジョニーはそう叫んでいた。
上官に対する口の利き方じゃ無いのは頭からすっぽり抜け落ちていた。
「よっしゃ! 蒸発して貰う! もういっぺん引っ込め!」
スルリと隙間を抜けて砲塔内に入ったジョニー。
ドッドは砲の弾種を実体弾頭から荷電粒子に切り替え、加速器の駆動電源を入れた。高周波音が砲塔内に響き、戦闘支援モニターに[Charge]の文字が浮かぶ。
「全車注意! シリウス機甲師団! SHI製のM-1重戦車だ!」
戦況分析をしていたアレックスの声が中隊無線に響く。同時にオープンにしてあった無線にシリウス軍とやり合っていた連邦軍の声が入ってきた。
「こちら地球連邦軍第17軍団所属。第131駆逐戦車大隊のブレス大尉だ。貴隊の所属を名乗られたい!」
「了解。こちらは第31軍団所属、第501独立野戦中隊のマーキュリー少佐だ。特務隊としてここに居るが偶然戦闘を発見したので加勢する。問題ないか?」
「少佐殿! 加勢を歓迎します。こちらのE-4重戦車は全てヘッキーのオルガンにやられました。現在は手持ちのパンツァーファウストで応戦中です」
「了解した。我が隊の装甲機動歩兵に貴隊の所在地を送信するので支援を受けるといい。M-1はこっちで引き受けよう」
無線機の前に陣取っていたエディの手が運転席のマルコを叩く。
「M-1の側面へ回り込め!」
「了解!」
「ドッド! 一撃で仕留めろ! 手負いの獅子は面倒だ」
「まかせてくだせぇ!」
中隊指揮席でモニターを睨むエディがボソリと零す。
「なんだ。奴ら全然動かないじゃ無いか」
「勝って気で居やがるぜ!」
不機嫌そうなマイクの声が響いた。
「どっかで酒でも飲んでるのかもな」
アレックスですらも不満を零した。
ただ、それは待ちがいなくピリピリとした空気だった。
ジョニーは思わず生唾を飲み込んだ。
「まぁいいさ。勝った気で居る連中に軍人魂を教育してやるか」
そんなエディの言葉にマイクも『ハッ!』と笑った。
「魔女のばぁさんの鍋に放り込んでやろうぜ!」
装甲車がグンと加速し、瓦礫の積もった街の中を一気に駆け抜けていく。
ニヤリと笑ったエディを見ながら、歩兵である筈のジョニーは戦車兵になった気分でモニターを睨み付けていた。




