習熟
岡部元信「鉄砲があるであろう?」
朝比奈泰朝「はい。」
岡部元信「鉄砲の破壊力抜群であり、いくさにおいて大いに効力を発揮する。誰もが手に入れたいと考えている。ただ鉄砲には弱点がある事も知っておろう?」
朝比奈泰朝「はい。まず取り扱いが難しい事。一回撃った後、次までの準備に時間を要する事。そして何より雨に弱い事であります。後は……。」
とにかく高額。
朝比奈泰朝「うむ。鉄砲は金食い虫。いくさに使える代物ではありません。」
岡部元信「うむ。だが信長は、今から7年前に……。」
実戦に投入し、成果を上げている。
岡部元信「かつて我らは知多の村木に砦を築き、信長。正確には水野信元に圧力を加えていた。これを取り除くべく信長は、大荒れの海を押し渡って来た。そこまでは別に構わない。砦の北は要害に守られ、残りの三方への備えも問題は無い。信長はその三方から攻め寄せて来た。そこで信長が用いたのが……。」
鉄砲。
岡部元信「砦内から弓矢を放つための狭間目掛け鉄砲を撃ち掛けて来た。しかしまだそれも構わない。さっき其方が言ったように、次の発射までに時間を要するからだ。しかもその間、敵は無防備。その間隙を狙えば確実に仕留める事は出来る。加えて鉄砲を扱うには訓練が必要。誰かが倒れたからと言って、すぐ他の者が扱える物では無い。しかし信長は違った。その鉄砲隊を……。」
分業して来た。
岡部元信「我らが想定するよりも狭い間隔で鉄砲を撃ち掛けられたため、村木の者共は降伏を余儀なくされた。1つの工程を習熟させれば実戦に投入する事が出来る。それだけ短時間で兵を育てる事が出来る。この体制を構築する事が出来るのが信長の本当の強さかも知れぬ。
信長の兵は新参者が多い。故に個々のいくさは必ずしも強くは無い。しかし奴らの大半は農業に従事していない。いつでもいくさをする事が出来る者共ばかり。その連中を常時抱え込めるだけの経済力を信長は持っている。故に本体から消耗品に至るまでとにかく金が掛かる鉄砲を、惜しげも無くいくさに投入する事が出来る。1つの鉄砲に3人も付けて。もし先のいくさで我らの戦い方に脆弱性を見出していたならば、元康であったとしても簡単な相手では無い。」
朝比奈泰朝「ではどのように対処すれば宜しいのでしょうか?」
岡部元信「1つ言える事は、長槍に相対す事が出来るのは長槍。組み打ちに対抗できるのは組み打ち。馬に対抗出来るのは馬であるように……。」




