惹かれた理由
優斗が朝日に興味をもった。おそらく、深雪がクラス替えをコントロールする、しないに関わらず、この時期には興味を抱いていたのだろう。
深雪は返答に困った。本来の目的通り、二人の関係の邪魔をするのなら「朝日はやめたほうがいい」と止めるべきなのだろう。しかし、深雪は「朝日はやめたほうがいい」という明確な理由を持ち合わせていない。
でまかせで悪口や欠点を挙げて、朝日を下げることも可能だが、信憑性が低かったり周りからの評価との相違だったり、嘘がバレた時の信用の暴落など、リスクが大きすぎる。
「蒼はどう思う?」
今ここで安易な発言をすると、返って自分の首を絞めかねない。
後先構わず行動するか、慎重に行動してチャンスを伺うか。
「望月さんってあれでしょ。成績優秀で、運動神経も良いんだとか…。何て言うか、学校中とはいかないけど、学年中の人気者って感じ?別に霧江に釣り合わないとか、そういうことが言いたいんじゃなくて…えっと、私が言いたい事は__。」
動揺を悟らせないようにするために、捲し立てるように言葉を紡ぐ。返って饒舌になり、深雪の焦燥が見て取れる。
優斗は、顔色を変えずに深雪の言葉を受け止める。深雪も自覚があるほど失礼な発言も混じっていたが口を挟もうともしない。優しく受け止めるように、深雪の次の言葉を待っていた。
「私も望月さんについてあまり知らないから、力になれそうにないな……って」
「そっか……」
深雪は結局選ぶことができなかった。本来、誰かの悪口を言ったり、冷静に物事を判断して適切に処理したりすることは、どちらも深雪らしくない。
他人からの評価を気にして、自分勝手な行動は控える。それが深雪であった。
今回も悩んだ挙げ句、他人を貶める勇気を持てず、安牌を選ぶことしかできなかった。
「ごめんね、変な事聞いて」
「……ッ」
優斗は深雪の言葉を聞いて、肩を落とす。けれども深雪に気を使わせないようにと謝罪する。
そんな優斗の行動に、深雪は胸が痛んだ。仮にも、自分を頼って相談をしてきた友人に心から応援できなかったという事実に気づく。
「そ、相談になら乗ってあげられるから!望月さんの事は分からなくとも、異性として何かアドバイスとかさ…」
咄嗟に出た言葉が、自身の行動と相反するモノだと言っていて気づく。優斗が朝日と仲良くなるのに協力するということは、敵に塩を送る行為に他ならない。
「ありがとう、何かあったら相談するよ」
「うん、応援してる……」
心にもない発言に、言葉にできない気持ち悪さを感じた。
「早速なんだけどさ、どうしたら仲良くなれると思う?」
「一つ、気になってたんだけど聞いても良い?」
「うん」
「どうして、望月さんなの?」
「どうして……。」
深雪がずっと疑問に思っていたことを質問する。
二年になってから優斗と朝日の接点はなかった。深雪が優斗の近くで、朝日の動向を確認していたから間違いない。
それなのになぜ、優斗が朝日に興味をもったのか。その点がずっと引っかかっていた。
「どうして、望月さんの事が気になるの?二人が関わる機会なかったよね?それとも…。」
もっと前から……。なんて最悪の想像が頭を過る。
深雪とて、優斗の過去をすべて知っている訳ではない。小学校からの同級生だが、それ以前の優斗がどういう人間関係を築いていたのか。もしかしたら、深雪の知らない所で、やり直しの効かない所で二人が知り合っていたら……。
二人の関係をどうにかするなんて、深雪にはどうしようもないのだ。
「確かに、望月さんとは関わりはなかったよ。俺が望月さんに興味を持ったのはここ最近のこと」
「そう、なんだ……」
嫌な妄想通りでなくて、安堵する。
「一応、噂は知っていたよ。文武両道で容姿も整ってるから、男子たちの中で一ミリも興味が無い人なんて居ないんじゃない?」
「霧江もその一人ってこと?」
「うーん、全く違うとは言い切れないな。アニメのヒロインみたいだなって考えてたり。でも、大したものではなかったかな。例えるなら、話題のアニメに興味を示してるみたいな?まだ見たいと思う前の段階って感じ」
「なら、どうして興味から見たいに変わったの?」
「……」
優斗が呼吸を整える。深雪は緊張で唾を飲み込む。
「趣味が合うのかなって、そう思ったんだ」
「望月さんもアニメが好きってこと?」
「予想だけどね」
優斗は、照れくさそうに笑う。
深雪は意外に思った。噂で聞く朝日の人物像とは、いわゆるオタク文化とは無縁に見えたからだ。
深雪の偏見に過ぎないが、朝日のような人らを陽キャと分類していた。そして、陽キャはアニメや漫画よりも、ドラマやSNSを見るのが好きな生き物で、自分らとは趣味嗜好が異なるものだと解釈していた。
そして朝日も例にもれず、ドラマや恋リアが好きなザ・女子高生なのだと思っていた。
「意外、望月さんってドラマとかの方が好きなイメージだった」
「俺もそう思ってたんだよね。だけど俺、気づいたの」
「何に?」
「望月さんのカバンに、『シュガー・フレンド』のストラップを付けてることに」
『シュガー・フレンド』とは、優斗が最推しのアニメのタイトルである。シュガフレという略称で親しまれる、王道のラブコメ作品である。
朝日のカバンについたストラップについて、深雪も身に覚えがあった。その時は、意外という感想のみで特に気にも留めなかった。けれど、優斗は違ったらしい。ストラップを見て、趣味仲間を見つけた感覚に近いのだろう。
「霧江が一番好きな作品だっけ。そのストラップを望月さんが、ね…」
「俺も気づいたときはびっくりしたよ。あの望月さんが!?って」
優斗にとっても朝日は、キラキラとした青春を送る、自分とは相容れない存在であった。そんな高嶺の花が、自分と同じものを好きかもしれない。そんな夢のような状況に心が躍っているのだ。
そんな状況は、深雪にとっては不都合である。朝日の真意は分からないが、優斗が朝日に興味を持ち、関係を深めたいと考えている。そしてその先にあるのは、二人が結ばれる未来が待っている。
二人が知り合えば、二人の関係は一気に加速してしまうのは目に見える。
「ただ……、キャラの見た目だけで付けてるかもよ?アニメなんて知らないかも…」
わざとネガティブな言葉を口にする。深雪の視線は下を向いており、優斗が今どんな表情をしているか分からない。
朝日のことを悪く言ったのを怒っているかもしれないと、怯えて優斗の言葉を待った。
「それでも、きっかけが作れたらそれだけで十分だよ。キャラを気に入ったなら、アニメも勧めたら見てくれるかもしれない。それに、ただ黙って遠くから見てても疑問は晴れないから」
(なんで。どうして……。霧江は趣味仲間が欲しいんじゃなかったの?本当は朝日が目的で、話すきっかけが欲しかっただけなの?)
優斗の決意は固く、深雪のネガティブな言葉では動じない。
深雪は思考を巡らせる。どうしたら二人の関係を邪魔できるのか。どうしたら優斗は朝日に興味を無くすのか。どうしたら、優斗を自分に繋ぎ留めておけるのか。
「私も……、」
「ん?なに?」
消え入りそうな声で深雪は言葉を紡ぐ。
「私も見たよ。その、アニメ……シュガフレ」
一周目、暗い部屋の中で見たアニメの記憶を引き出した。今まで一度も優斗の前では明かさなかった話を。
投稿期間が開いて申し訳ありません。新学期で少しバタバタしていました。
今後はあまり期間が開かないように投稿したいと思っていますので気長にお待ちください。




