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リベルラ・ロッサ  作者: わをんわをーん
2章
17/21

脱出

「くぅうう!」


 ソリーソの左脚は、ビームの直撃により大きくえぐれていた。


 体全体に目いっぱい力を込めても、うまく踏ん張れない。立ち上がることもできず、逃げながら迫るニンを見上げる。


「もう無駄です」


 膝行し後退るソリーソを見つめ、ニンは言った。


「……どうして殺さないのよ」

「お前そっくりのゴーレムを作らなくてはならないんでな。そいつに魔協本部には何もあやしいところはなかったと報告させる」

「そんなこと……」

「サンの仇もあるが、殺せない、はがゆい」

「いったい何体いるのよ」

「三つですよ」


 その時、

「ソリーソさん!応援連れて来たよ!」

 ファレナに続いてロッサとチュウが部屋に入ってきた。


 ソリーソの惨状を見て驚くファレナとチュウ。そしてロッサは抜刀、足の抉れているソリーソの姿に驚きながらも、置かれている状況から二ンに迷わず斬りかかった。


 二ンはソリーソの首をがっしと掴むと向かってくるロッサに放り投げる。

 ロッサは驚いて、慌てて両手でソリーソを受け止めた。


「ノゲさん!これはどういうことかね!?」

 チュウが詰問する。


「どうしてファレナちゃんを誘拐なんて!?」

「チュウ博士、あと、どこのどなたか存じませんが」

 ニンがロッサを見ながら言った。


「厄介ごとに首を突っ込んだご自分の浅はかさを反省して死んでいってください」


 ロッサは剣を構える。一気に間を詰める。


 ニンが目からビームを放射した。


「わぁ!」


 予想だにしない事に、声にならない声を上げバランスを崩し倒れる。ニンのビームが容赦なく襲い掛かる。


「ぬぐぅ!」


 背中にビームが放射された痛みに跳ね起き、ロッサは距離を取った。


 二ンは少し驚いてロッサを見ていた。

 背中から心臓を貫いていたはず。それなのに目の前の敵は全くと言って良いほどダメージを受けていない。


(気付かなかったが処刑人か……)


 二ンはビームを放射しながら少しずつロッサとの距離を縮め始めた。

 ロッサは鋭い眼光で睨む。剣気を飛ばし牽制、気を研ぎ澄まし攻撃の機会をうかがっていた。



 ロッサは半歩後ろへ下がり、距離を開く。

 二ンがゆっくり半歩距離を縮める。

 ロッサはそれに応じて半歩距離を開く。

 半歩距離を縮める。

 半歩距離を開く。


 そうやって、いつの間にかロッサはドアから外へ出てしまったのを、二ンは機転を利かせた。

 ロッサへ突進すると、ドアを閉め鍵をかけ、ロッサを締めだしたのだ。

 一人廊下に出され、ぽつねんと佇むロッサは状態を理解し、


「開けろー!」

 と叫んではドアを激しく叩く。しかし、分厚くはあるが木製のドアであるはずなのに、何度斬り込んでも、その木製のドアは傷一つつかない。魔法障壁がかかった扉はうんともすんともしなかった。


 部屋の中で二ンは、ファレナとチュウに振り向く。


「ファレナちゃん」

「えっ!?ああ……何、チュウ爺さん」

「わしの後ろに居な、この男はわしが相手をしよう」


 チュウが白衣を脱ぎ捨てた。

「じゃあ、ノゲさん、全部嘘じゃったんか?」

 部屋の中でチュウは二ンに尋ねた。

「チュウ博士、あなたの功績は素晴らしい。騙した真似をした事をここで謝罪します。しかし、もはや気づいてしまっては口を閉じさせてもらうしかありません」


 チュウはショックを受けた様だった。ただ突っ立って二ンを悲しい目で見続けている。


「ファレナちゃん」

 とその時、チュウが、

「わしが戦っている間、そこの魔協の女の子を連れて部屋の隅に退避しててくれ」

 そう言った。

 ファレナはチュウを望むと、チュウは決意を固めた表情で鋭く二ンを見つめている。


「シュッシュッ」

 チュウはシャドーを始める。


「お若いの、わしが教会にその首差し出してやる」

「容赦はしませんよ」


 ニンが言った。


「来い!」

 チュウは自分に気合を入れる意味も込めて叫んだ。


 勝負は、一瞬であろうと、チュウはおもっている。


 試合のようにダメージが蓄積して決まる勝負などないことは経験上知っている。こんな時のために、一撃で敵を殺める術を体得したのだ。


 チュウはモンスター族である。人より筋力も俊敏性もあらゆる面で優れ、強い。が、様々な魔法を駆使する人間相手に、若きチュウはずっと苦戦を強いられてきた。


 沢山の仲間が死んでいった。人間との和平は成立し、自由都市パルティーレに来て科学の凄さに感動したのは、まだチュウの体毛が黒かったころの話。


 それ以来、発明家として役に立ったり、立たなかったり、死者を出しそうになったり、四回ほど逮捕されたりした日々の中でも、夜な夜な太極拳の鍛錬だけは欠かさなかった。


(……互いの一撃目がそのまま致命傷となるじゃろう)


 最初に、その一撃を与えた方の勝ちである。


 それは別に命を奪うという事ではない。片目を潰しても良い、腕を折っても、はたまた指を一本を折るでも良い。それは大幅な戦力ダウンとなり、相手を倒すと言った話はそれからである。


 ビームを打った、その際の隙が致命となる。ニンは理解していた。斜に構え、チュウの出方を見る。


 チュウも斜に構え、両拳を正中線に置き、ぢりぢりと近づいていく。


 脚の小指分動くのに数秒かけながらの接近、しかし、二人は、客観的な距離の縮み方とは裏腹に、距離がみるみる縮まっていく感覚にとらわれていた。


 ついに二人が互いの間合いに入った。


 瞬間、チュウの左脚が二ンの右膝に向け槍のように伸びていく。

 しかし、二ンはそれより早く、間合いに入る寸前にすでに動いていた。

 空気を切り裂かれる鋭い音が、ソリーソを運んで離れていたファレナの耳にも聞こえた。


 二ンのビームがチュウの喉元に向け伸び。


 チュウが上体を反らした。

 躱しながら、チュウは横蹴りでサンの右膝を狙った。


 ウサギのような脚をグンと伸ばし、二ンの右膝をあらぬ方向へ折り曲げた。


 右膝を砕いた左横蹴りを戻さずそのまま踏み込んで、二ンの息がかかるほど近くに瞬時に接近する。


 折れた右脚でどうやって動かれよう、最初の一撃を加えられた。もう相手は自由に動けまい、躱す間もない。チュウは勝負を決めに来たのである。


 この慢心が歴戦の戦士のブランクであった。


 チュウが接近した瞬間、二ンは折れた右脚で踏み込み、左膝蹴りを繰り出す。


 腹部に想定外の衝撃をもらいチュウの体はくの時に折れ曲がった。


「……なんじゃい……こりゃ……ゴーレム?」

 チュウは驚いた。


 ニンの作り物の体に痛覚はない、筋肉もない、骨もない、多少曲がっても難なく動けた。


 ニンはビームを放射する。


「ぬぅっ」


 チュウはくるっと体を捻り躱すと、その捻りは同時に攻撃への予備動作になっていた。


 渾身の三日月蹴りが炸裂した。


 その鍛錬を積んだ蹴りは鋭利な刃物と化して、二ンの体を、ガードしようとした腕を水晶ごと真っ二つに断ち切っていく。


「ぎゃあああああっ」


 ニンは悲鳴を上げ、目からビームが噴火するように照射した。


「これれで動力源を絶った、もう動けまい」


 目から噴射されるビームが部屋の隅に退避していたファレナたちに迫る。


「危ないっ」


 チュウがニンに体当たりした。


 ニンのビームが。ファレナたちのすぐ横の壁を焼き、体当たりされて体勢を崩したチュウに直撃する。


 ドスッドスッと床に落ちるチュウの体。


 左腕と左脚が、胴体から離れ床に転がった。


「チュウ爺さ――」

「これ持ってお行き」

 とチュウは育児嚢を取り外しファレナに渡した。

「形見だ」

「ああっ、どうしよ、チュウ爺さんっ、体が体がっ」

「早く行くんじゃファレナちゃん、わしはもう駄目だ」

「そんなっ、嫌っ」


 叫んでチュウの体に訴えるファレナだったが、チュウの耳には届かなかった。


 すでに息絶えていた。

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