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もふもふギルド

 

 ギルドの訓練所を借りて俺たちはじじいとスバルっていう黒い男を尋問しようとしたら、いきなりじじいが泣き出した……。


 しゃーないから、俺達はじじいが落ち着くまで待つことにした。

 スバルと抱き合っているじじいの横ではマリサが寝ている。

 アリスが回復魔法をかけたからしばらくしたら起きるだろう。マリサに尋問するのはそのあとだ。


「……もういいか? 俺の話を聞いてくれるか?」


 俺がそう言うと、スバルが膝を付いて俺に頭を下げてきた。

 ゼンジもその横で頭を下げている。


「……はっ、拙者は敗者の身。この命があるだけでも奇跡的な事。多大なる温情感謝しております」


「はっ? いやいや、おかしいっしょ!? んだってそんな対応になるんだよ! っていうか、俺を殺そうとしたんじゃないのかよ! あんた女神教でしょ!」


「……拙者は母親が洗脳されて……無理やり女神教信者として動いておりました。……マサキ殿を攫って女神教に王系スキルを差し出す予定でしたが――」


 スバルが俺を見つめた。キラキラした目がとても怖い。

 俺は目を逸らそうと、横にいるヒカリを見たらアリスをもふもふしていた……。


 スバルが話を続ける。


「拙者は女神教を出し抜いてマサキ殿の力を奪い、その力を用い女神教に反逆をするつもりでした……、ですが、その力は拙者程度の者には到底扱えるものではなく、取り込めば魂の器が壊れてしまいます」


 なんだろう……、すごくペラペラ喋ってくれる。まあ、楽だからいいけどさ……


「ていうか、女神教は俺のスキルを使って何がしたいの? マジ意味わかんないんだけど」


「……大司教であるフルーチェは王系スキルを用いて、女神の復活を目論んでおります。女神の教えである世界の混沌を引き起こすつもりではないかと……」


 王系スキルは超絶レアだ。

 死んだ両親が偽装するだけの事はある。伝説級のスキルと言っても過言ではない。

 そんなスキルを用いて、邪悪な女神を復活させるのか……。ていうか、どうやって復活させるんだよ……。まあ、考えてもわからん。


「壮大な話はいいや。ねえ、女神教の幹部が集まる施設ってわかる?」


「……正確な場所は拙者では……、あっ、そこで寝ているマリサ殿なら……、むむっ? な、何故マリサ殿がここに?」


「ああ、学校襲ったからぶちのめした」


 スバルが驚愕して目を見開いた。


「な、なんと……、マリサ殿は隠密である拙者よりも戦闘に特化した司祭……それを軽々と……、恐るべき力……、さすがマサキ殿……」


「いや、みんなでぶちのめしたからね? そこ間違わないで……。まあいいや、えっと、スバルさんだっけ、そのくそじじいを連れてどっか行っていいよ。あとはマリサに聞くから」


 スバルが一瞬考え込むように目を閉じた。

 そして、目をカッと開く――強烈な意志の力を感じた。


「――拙者は女神教を裏切った存在。……そして我が身はすでにマサキ殿のモノ。マサキ殿に一生仕える所存でありまする」


 そ、そんなキラキラした目でみるんじゃねえよ!? くそ……、昔っから人の頼み事は断れねえんだよな……。くそ面倒だ……。


「はぁ……、俺に一生仕えるとか面倒だから……、まあ、女神教の本部に出入りする時は一緒に来るか? それまでこのギルドで働いてろよ。人手不足だからな。後でギルド長のリュータロウさんに言っておく。あっ、リュータロウさんは、ぱねえから絶対喧嘩売るなよ? マジボコられんぞ」


「お、おお……、ありがたき幸せ。……改めて、拙者の名は『スバル・スカーレット』、異世界人とダークエルフの末裔と言われている忍び族を束ねる者。そっちの爺は『ゼンジ・パープルグレー』と申す。拙者の従者であり……父親代わりみたいな者だ。今後ともよろしくお願い申し上げる」


 ……微妙に名前がかっこよくない? まあいいか。面倒な事はリュータロウさんに任せよう。いい労働力が出来たって喜んでくれるだろう。まさかこのギルドに攻め込む馬鹿はいないだろうしな、帝都の常識だ。


 そんなこんなで今後の事をスバルと話していたら――マリサが起きた。



「――う、うーん……、ふがっ……、あ、あれ? ここはどこなのさ……、ま、まさか敵の秘密基地に連れ去られて――美少女である私を弄んで……、あーー!? お前は私の頭を潰した奴――。……あれ? 頭が妙にすっきりしてるのさ。あれれ? なんだって私は女神教なんてやってるのさ? ……あれれ? ぐすっ……、ママはどこなの、さ……、こ、怖いのさ……、お腹空いてたおれそうなのさ……、ひぐ……、学校でいじめられてて……、遊びで寂れた教会に置き去りに……、ひぐぐっ……、嫌だよ……、私の事ぶたないでほしいのさ……、遊びたかっただけなのさ……。こ、殺すつもりはなか……」


 スバルが俺に耳打ちをする。


「……マサキ殿の覇気に当てられて、女神教の司教による洗脳が解けて混乱しているのかと思われます」


 なんだよ……、それ。意味わかんねーよ。こいつはただ利用されていただけなのか? 

 逃げられないから自爆させられそうになったのか?

 いたいけなチビガキを戦場に放り込んだのか? 

 どう見ても中等部にしかみえねえじゃねえか?

 ガリガリの身体に無理やり力を詰め込んだ感じだ。


「マリサ――」


 マリサは身体をびくっと震わせた。怯えた目が胸に突き刺さる。

 俺がよく知っている目だ。

 俺はアリスを手招きする。


「きゅきゅ?」


 首を傾げるアリスを抱いてマリサに近づく。

 マリサと同じ目線になるように座り、優しい声で語りかける。


「……マリサ、ここには誰もお前の敵はいない。……だから安心しろ。ほら、可愛いうさぎさんがいるぞ? 少しだけもふもふしててくれ、その間にご飯の準備してやるからな――」


 マリサがアリスを見つめる。その表情は子供のそれであった……。

 アリスがぴょいっと俺から離れた。


「……きゅきゅ、こっち来るのね。特別にわっちの身体をもふもふしていいのね」


 マリサが恐る恐るアリスに手を伸ばす。

 アリスが「きゅっ」っと言いながらマリサに優しく突進する。

 マリサは両手でゆっくりとアリスを触ろうとした。


「……ひぐっ……、もふ、もふなのさ……」


 マリサの泣いていた顔がほんの少しだけ笑顔になった。



 マリサの事はアリスに任せて俺は立ち上がった――

 ヒカリが俺の顔を見てため息を吐いた。


「あちゃ……、マジでマサキを怒らせちゃったよ……。マサキ、子供がいじめられるのが大嫌いだもんね」


「ちげーよ。……あれだ、俺のスキルを狙ったのがムカついたんだよ。……女神教……ぶち壊してやるよ」


「うんうん、そうだね。あっ、早くご飯作ってあげよ! 牛丼でいいかな?」


「馬鹿、こういうときはお粥がいいだろ? ったく、俺が作るぜ」


 この場をビビアンに任せて俺とヒカリはギルドの台所へと向かった――

 子供は怒りに敏感だ。だから……今だけは怯えさせないように……。



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