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翻弄

「ユウリちゃん?やっぱり体調良くないの?顔も赤いし具合わるそうだよ」


 自分でも分かっています。ただ、動揺しているだけです。だから、触れないで下さい…。


 ランバートの言葉は、私が自分の大人ピンクな色の妄想に身もだえて胸に手を当て机に手をついて俯き途中で中断したタイミングでかけられたのだった。だから指摘されて嫌になるのも仕方ないだろう。

 心配をかけたかもしれないけれど、ギクリと音を立てたかのように私は驚き恥ずかしさに堪えていたのも限界だ。


 本やドラマの筋書で胸が高鳴るのとは訳が違い、自分の妄想で熱くなった両頬を慌てて両手で押さえる事になり胸中は複雑だ。

 今なら自ら喜んで落とし穴にだってはまれる。もう手の平の冷たい温度だけが心の支えとなっている。


 前はこんな妄想じゃなかったはずなのに…。

 生々しすぎる。もしかして噂の欲求不満か?


 BLとともに、その手の情報豊富で経験済みのクラスメイトの話はいつも興味深々でドキドキしながら聞いていたので知識はある。

 その子に本も借りたが、感想を聞かれたり私に話をふられると、何も無いからこそ訳も無く居心地悪く曖昧にしていた。


 家でも団欒の時間にドラマでそういうシーンになると、瞬時にヤバイと思ってしまい、テレビから目線を反らし違う事を始めるか席を立っていたのに…。


 経験もまだ無いままだったのに…。あるとしても、少女漫画を読んでたまに一人だけで気持ちが盛り上がった時に、いつか出来るだろう彼氏の為に縫いぐるみ相手に一人芝居してキスを練習し経験しかなかったのに…。


 そういう行為の知識や興味はあれど、不安と怖さも入り混じっていた私だ。

 クロスとのなんちゃってファーストキスを経験した今では、虚しく思える。やっぱりあれはノーカンだ。


 濃いスキンシップ文化を体験して私の乙女の純真がくすんできてしまったんだろうか。いや、私がまた荒んできたからかもしれない。

 けれど今、私の溢れるやるせなさをランバートに素直にぶつける訳にはいかない。


 しかも、ランバートは自分が濃い妄想していた人物だ。ただでさえ、本人を目の前にして気がつかれるなんて、二度目とはいえやましさが倍増だ。

 この走り高跳びバーのような高さを越えると、純粋に楽しめるのかもしれないけれど私には無理だ。


 バーの高さに怯みながら、まだテーブルに片手をついて深くうなだれたまま私は渦巻く思考に翻弄されていた。


「本当に…どうした?」


 しまった。これでは怪しすぎる。

 ロイズにまで心配されてしまった。けど、ここでばれる訳にはいかない。


 我にかえってみても濃い妄想は何故か後味が悪く、まだ頬も熱いから赤くなったままなのだろう。二人に言われなくても分かっている。

 このまま倒れる振りをして終わりにしたいけれど、心配をかけるだけだから出来ない。

 なんとかしようと、オヘソの下に力をいれて立ち直り背筋を伸ばすと二人に向き直った。


 けれど、そこにいるランバートはいつものように飄々とした雰囲気のままだ。

 ロイズは本当に心配そうに様子を伺ってくれているのに、その違いにすぐに負けてしまった。


 こ、これだから訳もなく妄想を掻き立てるような美形は嫌なんだよ。ここには数も多いし。私の周りは異性も多いし。もう近付かないでほしい。

 ごく少数の美形をたまに見かけたり、わずかな接触があるからこそ美形の価値もあがるってもんだ。

 それが多数になって初めて分かったけど、多数だから何回も身構えたり妄想したり私は色々としんどい事になるんだ。

 慣れて普通になんて今は出来ない。

 ならば、もうロイズ意外は顔を見ないようにしよう。けど失礼のないように美形は顎を見て話そう。そうだ。顔を見るからいけないんだ。


 濃いスキンシップ文化もそうだ。正直、抵抗がある。

 ここの文化だからと思って受け入れようとしたけど、これからは誰にもさりげなく1メートル以内近付かないようにしよう!

 そうしたら、濃いスキンシップにも触れず一々ドキマギさせられずに済むかもしれない。


 まずは、自己防衛だ!

 よし!これで一気に解決だ!

 賢いぞ私。お利口さんだ。あとは頑張るだけだ。負けないぞ!


「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。なんでもないです。さぁさぁ、お茶をどうぞ。暖かいうちに召し上がれ」


 浅く方向が定まらない闘志を燃やしながら、頭を切替え手早くお茶を整える。どこか感じる罪悪感は頭の隅に押しやった。

 そして、飲食店の店員のような愛想笑いを張り付けて、妄想した謝罪の気持ちも込めて丁寧にお茶を配膳していく。


 これで何事もなく大丈夫だ。私はファーストフードの店員になれてるはずだ。


「ユウリちゃん?」


「えっと、あ、そういえばさっきクロスさんは何をしてたんですか?」


 そのまま何事もないようにさりげなく距離を取り、一人掛けのソファーに座ってみたものの、こういう時は話題を変える事しか思いつかなかった。そんな問いに訝しがりながらもランバートの顎は上下に動き答えてくれる。


「ああ、あれね。

 魔力ってさ、自分の持つ魔力が高いほど、相手の魔力量や施されている術を読み解きやすいんだ。自分の力が大きければ大きいほど見やすい。

クロス隊長レベルだと相手の魔力の質を知っていたら、誰のものかもわかるはずだよ。精霊使いは難しいだろうけど。

 だからユウリちゃんの魔力量は誰でも分かるだろう。ロイズも分かるだろ?」


 ランバートの隣のロイズは、お茶飲みながら安心した様子で頷いていた。


「そんなユウリちゃんが、名のある名工の言語変換と伝達と変幻とクロス隊長の防御の魔具をジャラジャラつけていてごらんよ。しかも精霊のお守りの気配も感じる。それくらいは、人より高い魔力を持つ僕にもわかる事なんだ。

あ。安心して隊長達の不在時は僕らに任されてるから、全て聞いてるから」


 私がさりげなく出した話題は間違えていたらしい。

 世間話のつもりで話を振りお茶に集中して聞き流してしまっていた。もはや意味不明だ。もっと軽い話題にすればよかった。


 幸い最後の魔力がない事は分かったので驚きもあり言葉にして、つい質問してしまう。


「じゃ、じゃあ、私に力がないのが分かってたのに疑われたの?何で?」


「え?怪しすぎたからじゃない?

 ユウリの年で魔力を持たない事が稀有だからね。そんな振りして何か術を隠して纏っているかもしれないじゃないか。

 生まれ立ての子にはたまに無魔力はあるけれど、それでも成長するうちに魔力を器に吸収してユウリちゃんの歳くらいには、ある程度の魔力は備わるものなんだよ。だから、ユウリちゃんは余計に怪しまれたんだろうね」


「それだけじゃないだろう。そもそも場所が悪かっんだ。ジュリア様の部屋は入室困難な場所だからね。

 けど、裏路地に一人でいたよりは、ましだったと思うよ。裏は危険だから」


 ロイズのフォローには素直に頷けた。確かに魔力の無い私だと死んでいたか、見世物か売られていただろう。そう考えると始めの扱いにも怒りは小さくなる。


「そうだね。裏路地だと今頃どうなってたかわからないよ。

 今は疑いも晴れているし魔石があるから、探らなければ一般的より低い魔力くらいは感じるようになってるから安心して。たまにある魔力量だから。

ユウリちゃん自身が術を使つ事は出来ないだろうけど、もし魔力自体がない事がバレたら今の立場なら危険が増すんだ。

だから、防御の魔具はの意味はわかる。けど、言語変換や伝達や変幻となると訳が違ってくる。そんな希少な魔具や特殊な魔具を着ける人種は限られてくるからね。

 だから、目立つ事を危惧してクロス隊長は魔石に自分の魔力を込めて強化して術を加えて隠したんだ」


 ランバートってそんなにクロスを熱い語るほど好きだったのは分かったんだ。けど、ごめん。あとは意味がよくわからないや。


 この困惑のままでいるより早々に話を切り上げてもらい部屋を出ていってもらおうと、視線をさ迷わせていると楽しそうなロイズと目が合った。


「あのね、これからユウリちゃんは更に注目されるんだ。

王女の勝手に巻き込まれた珍しい無魔力な異世界の人って事を秘密にしていても…。

 だからこそ、無魔力でも異世界の人でも暮らしやすいように、色々な魔具を周りは与えたんだよ。

 何も魔具を持たないユウリちゃんは、ここでは普通に生まれたての赤ちゃんよりも弱い存在だったんだ。器も無いから遥かに弱いかもしれない。防御の魔具もも危害を跳ね返すだけじゃなく生きる為の魔具なんだよ。この世の魔力自体すら跳ね返す特殊な物なんだ。

 もし、最初からそれが無いままとなると、良くて今頃は無魔力で器も無いユウリちゃんは、自然界や城に使われている魔力に当たって体調を崩してベッドの上だけの昏睡した生活だったろうね。

 それが、元気でいてくれて何よりだけれど、残念な事に立場は正体不明の王族の客人だ。しかも特殊だったり珍しい魔具を沢山着ける事は良いばかりじゃなくて、ユウリちゃんを余計に目立たせてしまう事にもなってしまうんだ。

 何も手を打たないままでいると、いつか誰かが理由に気がついてユウリちゃんを利用したり存在を探るかもしれない。自分勝手な計画にまた取り込もうとするかもしれない。だから、そうならないようにクロス隊長は魔具の力はそのままに存在を隠したんだ。

今のユウリちゃんは、さっきよりも安全になるように守りを固めたんだよ」


 幼子に話すかのように、ゆっくりとした口調でかみ砕いてロイズは話してくれて私も意味が少しわかり頷けた。


「始めての日にはね、疑いながらもディン隊長は急いで魔力無効の厳重な結界を施した留置室に入れたり、クロス隊長が防御の魔具を手配したり術をかけたりしていたんだよ」


 疑ってるのにおかしいよねとロイズは笑っている。


 話を聞かなかった事を反省したい。ロイズが賢い人だと感心だけしていたい。


 けれど、どうやら私はチートと真逆だと言われたらしい。だから手を打ったら両刃の剣だったらしい…。


 どこをどう取っても私に良い事はない話に、ここにさえ来なければそんな悩みも無いまま、普通に平凡でいられたのにと凹んでしまう。


「術にも色々あってね。生活に便利なものや、治癒力を上げたり良い所もあるんだよ。そんな悪い事ばかりじゃないんだよ」


 けれど、ランバートは見守るようなロイズと凹む私の空気と違い明るいままだった。


「なにか困る事があったら、いつでも僕が力になるよ」


 ランバートの言葉はクロスとは違い私の心を変えるものだった。




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