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お土産2


 鏡に映る私の黒髪と黒い瞳が明るい茶色のに変わっただけなのに、いつもとは違う活発な印象をうけた。


 これなら、せめて目も長い睫毛で縁取られた綺麗な二重になる変幻もあったら可愛く見られて良かったかも。

 今までカラーリングもした事がないので自分の変身が嬉しく浮かれた気分で頬も緩み髪を弄って楽しんでいると、ふとどきな欲まで浮かんでしまう。


 例え私の美への願望の一歩が叶えられたとしとも、変幻は変幻。ただのまやかしだ。あまり可愛く変わりすぎても、元の姿に戻ったり明かす時に、不満や悩みや戸惑いが生まれ困ってしまうだろう。自信が出るだけでなく、今の美形に囲まれた状態で更にコンプレックスと願望が強まり元の姿が嫌になってしまうかもしれない。それが私の世界でも続いてしまうかもしれない。

 物凄く元の姿が嫌な訳でも二重にこだわっている訳でもないから今くらいが調度いいんだ。

 椎名さんみたいに元が凄く可愛くて変幻をとくと、更に魅力的に変わるのだと気楽で良いかもしれないけれど。


 いいんだ。目立つ美人や可愛くないだけで、私は平凡な日本人顔なだけだ。こんな私でも、ナチュラルなお化粧して清潔にしてコツコツ真面目に生きていたら大きな変身がなくても、いつか好きになってくれる人に巡り会えるはずだ。


「この色が一般的な色なんですね。綺麗な色になって嬉しいです。これでいつもベールもつけなくて良くなりました。ありがとうございました」


 慣れない変幻の魔法について深く考えるにつれて気分も段々と下降してしまった。今以上に深く考えてこれ以上自分を慰める事がないようにディンに振り返り、第一印象だけ素直な感想を伝えて感謝の気持ちで頭を下げた。

 椎名さんにチクリと言われた気になっていた黒目黒髪を隠せて、気分が軽くなった事も、慣れないベールも煩わしく思っていた事は確かだから。


 そんな私の耳にディンは無言のまま真面目な顔をして手を伸ばすとピアスに触れ変幻をといた。


「陛下に容姿が変わる変幻の魔具と、管理されている伝達の魔具もお前が使うと使用許可は得てあるから安心して使うがいい」


 え?そんなに大変な物なのか?


 王の許可を得るのは私だかららしいが、基本的に魔具は魔力を増幅させる物なので一般的で無いものは城内では申請する物らしい。そして危険なものは禁止されている。

 そういえば、クロスのくれた魔具も王の指示があったからの物だった。


 神妙にディンの話しを聞いていたが、話している本人の顔は厳しさが段々と増してきて何だかこちらが不安になってきてしまう。

 そんな顔をされたら使いにくくなってしまうだろう。


「だが、俺の前では、いつものままでいい。いや、その方がいいからそうしてくれ」


 なんで?使う為にディンがくれた変幻の姿も嬉しかったのに?


 首を傾げて疑問に思う間に伸ばされた手は背中に、もう片方は膝裏にまわされ抱き上げられバランスを崩したくましい首にしがみついてしまった。


 いわゆるお姫様だっこだ。

 これを経験してみると、見ている分には恋人の二人の仲良さに歓声をあげてしまうが、恋人の熱さもない私がされてみても、いつもよりいきなり目線は近い距離で合うし、高くなる視線に慌ててしまう。体温を感じる密着に、自分の体重と身につく柔らかい余計なお肉を考えると恥ずかしくなり早く降ろしてたまらなくなる。

 あまり無い事だけど、少しずつ慣れてきしまっているスキンシップと共にやめて欲しい一つなのに。


 そんな賑やかな私の心の呟きは「あの…」と、戸惑う一言でしか口に出せず、そのままラグに胡坐で座るディンの膝に降ろらさてしまう。


 こんなに誰かと近い距離になる事じたい幼い頃以来なのに、異性らしいディンのしっかりと固いディンの足の感触と体温が共に私のお尻に伝わってきて更に恥ずかしくなる。

 逃げようとすれば、反対に長い腕に囲われてしまった。それだけでなく片手はお腹に周りこみ、反対の手は足先からスルスルとスカートをあげようとまでしている。


 短いスカートで出している足はかまわないけど、長いスカートをめくり上げられ見られるのとは、感じ方の意味が違う事を実感しながらディンを見上げながら身をよじり、また逃げようとした。


「ちょ、ちょっと……」


「アンクレットを付けるだけだ」


 体育の授業意外で異性と手も繋いだ事もない私には、ディンの手の動きもとても恥ずかしくなるだけのものだった。

 半ばパニクりながら顔を赤くして抵抗を口にしたのに、単純なディンの説明にセクハラからと思った自分の勘違いがわかり更に顔が赤くなってしまう。


 その間に、ディンの小さな傷痕が残る大きな手は器用に私の左足首にアンクレットを付け終えた。


「これも何かの魔具なんですか?」


「いや……俺の土産だ。自己満足の為の。丈夫で外れはしないだけのようなものだ。たいした物じゃない」


 たいした物じゃないと言いながら、自由に外せないと聞いただけでたいした物だ。何か抵抗感を感じてしまう。そんな意味の分からない物を付けていたくない。


 同じアンクレットでも好きな人からの贈り物なら何も聞かず考える前に喜んで付けて外したくなくなるだろうけれど、ディンの意図も魔具がどうかも分からなかったので慌てて外そうとしたけれど外れない。

 よく見ると二連の細い鎖に、いくつかの小さな綺麗な石と紋様と家紋のようなものが両面にある直径1センチほどの小さなメダルが通されている一目で気に入ったアンクレットなのに。普通ならもっと良かったのに。


「嫌か?ただのお守りだ」


 足元なら隠せるから外す事も人目につく事もないだろうと呟きながら、ディンは外そうとする私の手を片手で握り止めると反対の手でアンクレットを撫でる。


「好きですけど、でも……」


 私からは何も返せない事が心苦しいんです。


「お礼をしたいんですが」


「それを気に入ってくれたなら、それだけでいい。気にするな。こうしてここに居るだけでいい」


 そう言うとディンは更にスカートを上げると膝頭に優しく数度口づけた。


 私の世界の出来事なら、お菓子やお守りを買ってお礼ができたのに。それが出来ないから、こんな風に口づけられても顔を赤らめながらもそれがお礼になるならと静かにするしかできなかった。


 この世界で私ができる事は解説つくりだけなのに、王が関係しているとはいえ、クロスにもディンにも貰ってばかりだ。おかげで耳は私の世界にいたら想像出来ない程の派手なピアスばかりだけれど、とても有り難く感じるだけだ。

 けれど、もしこれから何か貰ったとしても濃いスキンシップでお礼をする事は恥ずかしすぎて困る。

 物語みたいに刺繍を練習してハンカチや心を込めてお守りを贈るとか、もっと現実的に解説を頑張ろうと心に決めた。


 ディンは俯いて言葉通りに大人しくしていた私の足を撫でたりアンクレットを軽く引っ張ったりしていたが、そのうち大きく息を吐いた。


 それがいつものディンと違いすぎる気がして見上げると、始めはにあんなに恐れていた印象と厳しい顔つきがどこか弱っている気がした。


「お疲れですか?」


「あぁ。少し気疲れだ」


 ディンは余程黒髪が気に入っているのか私の髪をすくようにして何度も撫でている。


「どうしたんですか?」


「最終日に実家に寄ってな。

実家とはいえ、そこにいる夫婦の子ではない。その家の母は俺の叔母にあたる。母が亡くなり実家に引き取られたからだ。

家督は叔母の子。俺にとっての義理の弟が継ぐ事が早くから決まっていたから気楽な立場なものだ。

俺も継ぐ気は無いから、早くから城の騎士になる為に宿舎に入った。父と義母に別に悪く扱われていた訳じゃない。教育も歳の近い弟と同じように受けさせてもらっていたんだが、どうも居心地悪くてな」


 私から目を反らせながら自信なさそうに話すディンは、そこで私のように居場所を見つけられなかったのかもしれない。


「大丈夫ですか」


「大丈夫に決まっている。当たり前だろう。宿舎に入り始めは苦労もしたが慣れれば良い場になった。お前も待つ間にそういう場ができる。必ずだ」


そうだろうか。

 それが出来る事は嬉しいけれど、居心地良すぎて城から離れがたくなっても困るんだけどな。


 もしかしたら、初日に怪しい私に剣を突き付けたディンの勤めを謝れないかわりに、私もそんな居場所を見つけ待ちやすくするする為に二種類の魔具をくれたんだろうかと思い至った。


 嬉しい気持ちの中に、そんなに長く待つ事になるのかという複雑な心境になり伺うようにディンを見上げた。


「その場が俺の膝の上ならいいがな」


「膝の上って……猫じゃないです!」


 しんみりとした私をからかうようにディンに背中を撫でられながら言われて、急に恥ずかしくなり慌てて膝から降りた


「お前は巻き込まれた。だからといって我が儘ばかり言って良い訳でもないが、我慢ばかりしていてもだめだ。後ろ向きになったり、諦めてばかりでもだ。自分でどう動くか少しは考えてみれば、気楽に待てるかもしれないぞ」


 降りた私の両肩に手を置き、灰色の瞳を濃くして低く話すディンを見ていると不平不満ばかり考えていた私は何と答えたら良いか分からなくなってしまった。




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