閑話 ディンの困惑
第一部隊の巡回月で城内にいた時に聞こえてきた侍女の叫び。慌てて声が聞こえたジュリア様の部屋に走り、不審者のユウリを取り押さえた時には正直驚いた。
ユウリは、奇妙な服装で小さくて細くて幼い女。床に押さえられるがままで震えて静かに泣くだけだ。抵抗も無く睨みつけてくる訳でもない。
何故、こんな奴が城内のジュリア様の部屋にいる。俺が感じる違和感にジュリア様は、苦しい言い訳をして部屋を慌てたように出て行ってしまった。助けられたと言っていたのに、この状態で置いて行くかと内心呆れてしまう。
ジュリア様に置いて行かれたユウリは、捩り上げた肩をかばい首から血を流しながら腰が抜けて立てないと泣き顔で訴えて涙を流すだけだ。演技かもしれないので気は抜けないが、間諜にしても何かを企んでいるとしても情けなさすぎる。
「私が付きます。魔力も無いに等しい」
クロスの言葉に後を任せ、俺は陛下の部屋に向かった。
次にユウリに会った時には、顔を青くして気を失われた。俺は何もしていないのに。まぁ、捩り伏せたのが俺だから仕方がない。
それより、泣いて腫らした瞼に赤い鼻に注意が向き、どこの子供かと思ってしまった。いや、子供でも性別が女であればこんなに丈の短い衣類は着ない。いったい何者かと疑問が深くなるばかりだ。軽々と抱き上げられる身体と女としては短い髪。髪の色も涙をこぼしていた瞳も珍しい黒だ。
陛下の部屋でのジュリア様の様子を思い出し、これからこじれるかと面倒になりながら居室に運んだ。
それがだ、居室で起きて俺の手から薬も水を飲む時も感情を素直に顔に出しながら飲んでいたユウリは、まるっきりガキなクセに俺の立場をおもんばかるような事を言う。柄にもなく苛立った。お前に何がわかる。知った風にいうな。
軽く睨みを聞かせてもツンとした態度で洗面所に行く。
不審者の疑いがある為、抱き寄せて確かめるように必要以上に撫でた身体は華奢だ。誘いをかければ逃げ、俺の話を真面目に聞いていたかと思えば、顔色を変え大慌てで下着の心配をする。
ロイズやクロスに懐き、俺の動きに身体をびくつかせてるくせにハッキリものを言う。世話を焼けば傷つけた俺にも素直に礼も言う。
なんなんだアイツは。誘いをかける様にからかえば気がつかないかないだけで無く、理解した途端に初な反応。
俺の手から果実を食うの姿は餌付けするようだった。俺の用意した水が美味いと言い喜ばせる。
弱い奴かと思えば体調が悪く辛いはずの長時間の事情聴取も、陛下の探りにも耐えていた。探られるのは、普通の魔力のある人間でも叫びたい位なのに、魔力の無いユウリが声も漏らさず耐える強さを見せた。
クロスには、俺が先に目をつけてたから狩ると言ったが、俺が逃げもしないユウリを追いかけ始めているだけだ。
それは興味からか?女として見ているからか?手荒すぎる真似をした事からの罪悪感か?
ユウリが異世界人として陛下に認められた今、これから少しずつ暮らしに慣れて俺達から離れて行くだろう。俺も、明日から一週間辺境の怪しい動きを探りに行くから当分会う事もないだろう。
そんな事を窓の外を見ながら考えていると、ユウリは俺を見ているようで見ていないのに猫の様に笑い頬を染めている。他の男の事でも考えているのか?
クロスが俺がユウリにつけてしまった傷を治して、ちょっかいをかけている事もピアスの穴を開けた事もどこか気に入らない。
クロスは、初めからユウリに興味を持ち事情聴取を担当していた。けれど、これからはジュリア様の中庭の棟の準備や滞っている仕事で忙しくなるはずだ。アイツは好き嫌いがハッキリしているし、仕事に手を抜かないから魔術師団団長と二人で完璧な牢が出来るだろう。
さっきまで笑っていたユウリの溜め息が聞こえ、つい散歩に誘ってしまった。俺が城を出て、クロスが城内にいるからか?
俺の言葉に目を輝かせた後にあからさまに気落ちしたユウリを庭に連れだす計画が、頭の中で組み立てられていく。ユウリがまだ人目につかない方が、これから働きやすいと俺は分かっているのに。
俺は、どうした……。
ユウリの名を呼んだ時に「悠理」だと怒ったように言われ、名さえ呼べなくなっている。正しく呼んでやりたいとばかり思っしまう。
客室のベランダで戸惑いながらも、手は窓を叩き俺の存在をユウリに知らせる。中から反応はないが、散歩の話を出した時のユウリの嬉しげな顔が頭から離れず立ち去れない。
暗い部屋の中に一人でいるユウリに音が届くように願いながら繰り返し叩いていた。




