第4話 僕/君を取り戻す計画
一生懸命魔法の特訓に励む晴人。
彼がルフーンの魔法を覚えてから数時間の時が経過した。
日が傾き、木々の間から差し込む西日が彼らに終わりの合図を伝える。
「だいぶ魔法についての理解が高まった様子で何よりっス。それで、途中から見てなかったんスけどどのくらいの魔法まで習得できたんスか?」
「いや、見てなかったっていうか普通に寝てたよね」
「あはは〜それほどでも無いっスよ」
ラセイトはニカっと笑いそういう。
全くもって褒めてはいなかったのに、やはり能天気な人なのだなと晴人は思う。
「…まあそれは置いといて、ラセイトから教えてもらった魔法の初級は一通り、イーリスとルフーンは中級まで習得したよ」
すると、ラセイトは少々驚いた様子で
「おぉ…短時間で全基本属性の初級魔法を習得するとは…」
「いやぁ、実はどうせどこかで躓くと思ってたからかなり多めというかたくさん教えておいたんスよね〜」
「ええっ!?そ、そうだったんだ…って、それ普通に途中から寝るために多めに教えてただけだよね」
「そういう捉え方もできなくないっスね〜」
そんな他愛もない話ではあるが、その節々でレーシュと言う人物の天才っぷりが垣間見える。
中身が違ったとしても、身体に刻まれた動きと言うものは自然と覚えているもの。それは魔法の発動のような異世界ならではの動作でも例外ではなかったのだ。
「さて…ちょっと真面目な話になるんスけど、前にも言った通りこれから別人さんは所長を演じなければならないっス」
ラセイトの顔が少しだけ強張る。
晴人もそれを察し、真剣に返答する。
「うん、もちろんわかってる」
「それでなんスけど、研究所に戻ったらわたしの部屋で作戦会議をしようと思うっス。時間は深夜の1時、今日修得した認識阻害魔法を使って絶対に誰にもバレないようにして来てくださいっス」
「うん…わかった」
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かくして2人は作戦会議を始める。
深夜の1時という事もあり、深い静寂が部屋を包み込む。
「…さて、これから今後の作戦会議を始めて行きたいと思うんスけど…」
「あは…あはは〜」
ラセイトは晴人に何かを問い詰めるように見つめる。一方で晴人はラセイトの目を逸らし、それを誤魔化すように空笑いをする。
「別人さん…本当に所長の演技するつもりあるんスか!?!?」
「いやぁ…ちゃんと演技しようとはしているんだけど…」
「それはなんとなく伝わるっス…でも幾ら何でも空回りしすぎというか…はっきり言って所長と180°真逆の性格くらいの勢いで演技が下手っス」
「シュン…」
見ず知らずの人間を演じることは難しい。それも自分とは世界が違う人間となればより一層難度は上がる。
しかし、それ以上に根本的に晴人の性格とレーシュの性格は真逆すぎるというのも大きな要因のひとつだろう。
「まあどうしようもない部分もあるとは思うっスけど、もう少し所長に寄せる努力をしてくださいっスよ?」
「すみませんでした……」
「…多分っスけど、他の研究員にバレるのも時間の問題だと思うっス」
「そ、そんなぁ…」
ラセイトの辛辣な一言は、晴人の自信とプライドを大きく抉る。
俯いてしょぼんとしている晴人にラセイトはある提案をし始める。
「そこで、ひとつこの状況を打破する方法を思いたっス」
「おぉ!それは是非とも聞かせていただきたいです!!」
「ズバリ…所長の魂を見つけて元通りにするんス」
「魂…ってなにそれ?」
ラセイトが自信満々に発言した作戦だが、晴人はまだその作戦の本質を理解することはできない。
なぜならここにきて『魂』という新たなる概念が出て来たためだ。
もはやこの日で晴人の脳内キャパシティは限界を迎え掛けているが、それでも諦めないのは晴人の妻や子供への愛情によるものなのだ。
「まあそれも含めて細かく作戦の内容を話して行くっス」
「最初に魂についての説明からっスね。魂って言うのは簡単に言うとその人の記憶とか心とかが具現化した存在っス」
「多分なんスけど、所長の魂がなんらかの原因で器から離れたと思うんスよね。それは多分別人さんも同様っス」
「そして所長の魂は器を離れて彷徨い、別人さんの魂は所長の欠けた穴を埋めるために所長の器に入り込んじゃったって言う読みっスね」
「あー…要するに、レーシュの魂を頑張って取り戻して器に戻す。そしたら私の魂もいい感じに器に戻るかもしれないねっていうことで良い?」
「そうっす、その通りっス」
ラセイトの案に晴人は少しだけ黙り込み、疑問を提示をする。
「……思ったんだけど、それって所長の魂は戻るとしても私の魂が戻る確証ってあるの?」
その疑問にラセイトはまたも顔を強張らせて答える。
「…まあ、確定で戻るとは言い切れないっス…ここからはわたしの考察になるんスけど…」
晴人に緊張が走る。
この作戦は晴人の運命をかけた大事な選択の場でもあるからだ。
もしも元の世界…いや、妻と子供の元に戻れないのだとしたらただただ自己を犠牲にレーシュという存在を取り戻すための生贄すぎないのだから。
そして、一瞬の静寂が訪れた後にラセイトは口を開く。
「この世界には『魂の神殿』というものがあるんスよ。大体の場合、器から抜けてしまった魂はそこへ行くっス」
「だけど、別人さんの魂は異世界から来たからか、それともまた別の要因があるのかはわからないっスが魂の神殿には行かず所長の器に入り込んだっス」
「ここから考えられる事…それは別人さんの魂は器を求める魂質ということっス」
「従って、所長の魂を元通りにしてまた別人さんの魂を解き放てばまた誰かの器に入り込むと思うんスよ」
「…まあ、1発で戻れる可能性は低いかもっスけどこれを繰り返して行けばいつかは戻れるっていう算段っス……」
ラセイトが自論を述べると再び静寂が訪れる。
本日3度目の静寂、その静寂は今までで1番深い静寂だった。
正直、晴人はその説明にどう回答すればいいのかが分からなかった。また『魂の神殿』とかいう新たな語句が出てきてなんとか耐えてた脳内もパンク。
しかし、これを断ったところで事態は何も動かないということは理解していた。
答えは『はい』か『YES』の2択にまで迫られている状況だった。
「………………」
「明日、答えを聞こうと思うっス。時刻と場所は今日と同じでよろしくっス」
「…わかった」
こうして、晴人の異世界生活1日目は幕を下ろしたのであった。




