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幕間15話:初代女王アサガオ・マスダ

 わたしたちの前には「魔法陣」が9つ並んでいます。

 この「魔法陣」に乗るとどこかに転移することができるそうです。どこに行くかは分からないそうですけど・・・


「みんないいか?」


 わたしも含めて全員が頷きます。残りの食糧とお水の事を考えるとこれ以上下層にはいけませんし、地上に戻れば1000人の軍隊が待ち構えています。無理をすればオルテンシア様は1000人の軍隊にも勝てるそうですが、無傷ではすまないので転移で他の場所に行くことになりました。賭けですけど。

 9つのうちどれを選ぶかはリーダーであるマスターさんに任せることになりました。そしてマスターさんが選んだのは一番右端です。


「それじゃいくぞ!」


 マスターさんがジャンプして「魔法陣」に入りました。わたしはトゥリパーノにそっと手を伸ばします。するとトゥリパーノがわたしの手をギュッと握ってくれて引っ張って行ってくれます。


「ステッラいくぞ」

「う、うん!」


 そしてオルテンシア様が最後に「魔法陣」に乗り、


「何をしているのですか?マスター」


 着地した姿勢のまま動かないマスターさんにオルテンシア様が声をかけます。


「入った瞬間転移すると思っていましたね。魔力を流さないと起動しないに決まっているではありませんか」

「や・・・やかましい!」


 顔を真っ赤にしてマスターさんがふんぞり返ります。ふふふ、4つ下のわたしの弟にそっくりですね。


「それじゃ起動するぞ!転移!」


 マスターさんが気合の声と同時に魔力を流します。

 景色が変わりません。そっくりな所に移動したのでしょうか?


「はぁ、マスターでは魔力不足ですね」

「お、俺は前衛なんだ!魔・・・「転移」」


 マスターさんの言い訳の途中でオルテンシア様が魔力を流しました。目に見える程濃い魔力の渦が足元の「魔法陣」に吸い込まれ地面が光ります。そして一瞬の浮遊感の後景色が変わっていました。


「・・・力が少なくたって・・・」


 マスターさんの声から力が抜けていきました。転移したようです。

 一見同じような部屋ですが壁の色が違います。後ろを振り向くと同じように9つの「魔法陣」がありました。真ん中の「魔法陣」だけが点滅しています。先ほどまで居た迷宮の「魔法陣」のようです。


「ここも、どこかの迷宮なのでしょうか?」

「【鑑定(バリュータジオーネ)10】・・・外にでなければどこかは分かりませんが、ここが迷宮の20階層であるのは確かです」


 ということは。


「この部屋の外は20階層のボス部屋ですね。おそらくあの「魔法陣」はすべて他の迷宮の20階層と繋がっているのでしょう。となるとこの世界の迷宮は全部で10か所」


 10か所・・・帝国の現女王、お姉さまが()()()()()()()()()迷宮の数と一致しています。


 わたしのお姉さまはヴィユノーク帝国の第50代女王、マニョーリア・デル・ヴィユノーク。

 初代女王アサガオ・マスダ様が、わたしたち子孫のために残された古代装置と様々な技術の集大成、それが「迷宮」です。


 古代装置の製造にはアサガオ・マスダ様の血を受け継ぐ女性の魔力が必要でした。装置自体はアサガオ様が完成させ、代々の女王が魔力を注ぎ続けました。そして50代目のお姉様の魔力で装置が起動したのです。


 起動した古代装置は「迷宮」の製造装置で、正式には「てらふぉうみんぐましん」だったと思います。

 この世界には魔力溜まりと言う人の住めない地域が多く存在します。そういった地域は砂漠になったり魔の森と呼ばれるようになり、人の浸入を許さない土地になりました。そのため町や村は魔力溜まりの薄い地域に点在することになり、「迷宮」はその魔力溜まりを吸収し人の住める状態に戻す役割を担っています。


 魔力溜まりさえなくなれば、作物を作れる耕作地は広がり、飲み水の奪い合いで争うこともなくなるのです。


 ひとつ問題があるとすれば、迷宮が吸収した魔力が「魔物」と呼ばれる怪物となり、それを倒さないと浄化が完了しないことでしょうか?

 わたしは女王の妹ですが管理者ではないため詳しいことはわかりませんが、魔力を吸収した精霊が暴走した結果生まれるのが魔物だそうです。

 実際魔物を倒すと魔力は霧散し、死体は残らず精霊に戻って目に見えなくなります。時々倒した後に残る魔石やアイテムは謎ですが。


 話が逸れました。


 お姉さまが造った10個の迷宮、その中にはお姉さまの失敗作も紛れ込んでおり、魔力吸収力の違いで弱い魔物しか出ない迷宮や、人間では太刀打ちできないほどの魔物の出る迷宮もあるとか・・・ここはどのランクの迷宮なのでしょうか・・・


「オルテンシア、今度は先に教えろ!ここのボスの情報は!?」

「ゴブリンです」

「は?・・・」


 マスターさんが呆気にとられた顔をなさっています。


「正確にはゴブリンの二つ上の上位種、ゴブリンリーダーですね。その他にホブゴブリンが5匹、ゴブリンが20匹です」

「まさか、こっちの世界のゴブリンは強敵なのか?ワニ頭以上の・・・」

「雑魚です」


 一刀両断です。ゴブリンは決して弱いわけではありませんが、それは一般人から見たらであって、わたしやトゥリパーノでも普通のゴブリン5匹くらいなら何とでもなります。

 いえ、昨日20階層のボスとの戦いでレベルがものすごく上がってましたし、10匹くらいはいけるかもしれません。


「どうやらこの迷宮は相当弱い魔物しかいないようですね」


 ゴブリンが20階層のボスと言うことは、おそらくこの迷宮は帝国にある「第2迷宮」ではないでしょうか?お姉さまが魔力吸収量を最小に設定してしまった、6番目に作った最弱迷宮ですね。ちなみに1番目は地域設定を忘れて作ってしまい、どこにあるのかも分かっていませんが。


「次いこうぜ・・・」


 マスターさんがやる気を失ってしまい他の「魔法陣」に向かいます。結果としてそれは無駄でしたが。

 一度「魔法陣」を使うとボスを倒さないと再使用はできない設定らしく、マスター一人でゴブリン16匹を殲滅して戻ってきました。


「さて、気を取り直して他の迷宮に行くか」


 今度は一番左の「魔法陣」に乗りオルテンシア様が続きます。


「ステッラ?どうしたんだ、行こうぜ」

「あ・・・うん」


 トゥリパーノに手を引かれ再び「魔法陣」の上に乗ります。


 わたしはその前にわたしの知っている迷宮のことを話しておくべきでした。


 話してしまうとなぜ知っているのか?、その理由も話さなくてはならなくなります。


 わたしが女王の妹であることを、迷宮と魔物を作った張本人の妹であることを。


 争いをなくすため、人々が食料やお水の確保で争うことがないようにと作った迷宮ですが、浄化のためとはいえこれまでに多数の被害者が出てしまっているのも事実・・・

 それを知ってからわたしは帝国を出て冒険者になりました。せめて、少しでも浄化のお手伝いができるように、と。


 話しておくべきでした・・・最弱の迷宮があるように、人間では勝つことが出来ない最凶の迷宮があることを・・・


「転移」


 オルテンシア様が魔力を流して「魔法陣」が起動します。


 トゥリパーノと、マスターさんとオルテンシア様との冒険が終わりを迎えようとしています。


 黙っているなんて、わたしはひどい女です・・・


 そして地獄が始まりました。

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