75話:1対1
「・・・”付与魔術”を9種も・・・ありえん・・・何かの間違いだ・・・」
エスポジートが尻もちをついて喘いでいる。確かに聞いたこともないが・・・現実を見ろ!
「実際に9つ使っている。それは認めろ」
「ですが!今まで確認されているのは「力」と「体力」のみ!わたしの秘蔵の「加速」を入れても3種だと言うのに・・・」
手の内をすべて晒す奴がどこにいる。おそらく他の者もいくつか使えるのだろう。しかし、9つとなると他にはおるまい。なんとしても欲しい人材だ。フラヴィオにはもったいないな。叔父上にお願いしてわたしの妻に頂こう。
「落ち着け。確かに脅威だが、所詮”付与”だ。弱いものをいくら強化しても強者には勝てんよ」
「ロレンツォ大尉・・・」
しかし・・・こいつら本当にゴブリンか!?連携が取れてるし、人語をしゃべっている。ゴブリンの上位種なのは間違いないが、どいつもこいつもキングクラスだ。特に強いのが・・・盾持ちのキングゴブリン・・・指示を出している、ロードか?それとシャーマン、いやドルイドか。それが2匹。中隊長3人でないと倒せそうにないな。ロードは俺がやるか。
「中隊長3人は!盾持ちとドルイド2匹をやれ!」
「「「はっ!」」」
「そのほかの者は残りのゴブリンを包囲殲滅しろ!」
その時、ジプソフィーラが顔を出した部屋から小娘が二人飛び降りてきた。
「みんにゃ大丈夫ニャ?」
「ソフィー様は無事だよ」
人間・・・じゃないな。こいつらもゴブリンの仲間か、ワーキャットと羽の生えている人外か・・・
ワーキャット、こいつはロードより強そうだな。
「副隊長、指揮をしているロードをやれ」
副隊長には指揮をまかせるつもりだったが、ロードと渡り合える者が他にいない。
「・・・わかりました」
俺はコイツだ!
「ニャ!?」
ガキンッ!!キンッキンッキンッ!!
「みゅ、やるニャ・・・」
「生意気な!」
俺の横薙ぎの一閃を身体を沈めて躱すと、ダガーで右腕の腱を狙って振りぬいてきた。すかさず膝蹴りを繰り出すと手の平で叩き軌道を変え、逆手に持ったダガーを俺の腿を目掛けて振り下ろす。俺は構わず膝を伸ばし、つま先から飛び出したナイフで眉間を狙うと、ワーキャットは身体を後ろに逸らし、バク転で距離を取った。ワーキャットの頬に一筋の赤い線が浮かぶ。躱されたか・・・
「ふぃ~あぶにゃいあぶにゃい」
たかが魔物がこれほどの技術を持っているのか・・・エドアルドより強いぞ・・・
「驚いたな・・・”付与魔術”で底上げしているとはいえ、ここまでやるとは」
「アンタもやるニャ~上にいた3人も強かったけど、アンタの方が強いニャ」
上にいた3人?フラヴィオの護衛をしていた親衛隊のことか・・・4人いるはずだが、コイツが3人もやったのか・・
「アンタは強いけど、ソフィーの付与魔術を受けたわたしには勝てにゃいニャ」
「なんだと!?魔物風情がっ!!」
俺の激しい連撃をワーキャットは紙一重で躱していく。小さな傷は無数に出来るがすべてギリギリで躱される。出し惜しみしている場合ではないな・・・
「”飛べ斬撃”!」
「みゅ!?」
俺の斬撃をギリギリで躱そうとしていたワーキャットは、ダガーを振り上げ真空の刃を叩き落とした。見破りやがったか・・・ならば!
「”火炎剣”!うらああああっ!!」
「わっ!あちち」
燃え盛る剣で連撃をお見舞いする。袈裟切り、車切り、片手打ち、払切り、撫切り、下切り、立割り、梨子切り、唐竹割り・・・
「くっ!はぁはぁ・・・なぜ当たらん!!」
「髪が焦げちゃったニャ・・・」
・・・おかしい、これしきの事で息が切れている・・・それなのにワーキャットはまるで消耗していないように見える・・・9つの”付与”の効果か?力、体力、俊敏、器用、英知、脳力、魔力、加速・・・吸収・・・吸収!?なんだこの”付与”は!?吸収・・・何かを吸収されている・・・!?
「まさか・・・体力を!?」
「やっと気づいたかニャ」
ワーキャットはニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「【雷撃2】!」
「ぬおっ!”我を守れ”!」
ビシャンッ!!
なんだコイツの恩恵の威力はっ!ワシの防御恩恵が一発で崩壊するなんて・・・脳力がべらぼうに高い・・・おそらくAランクか・・・脳力はそのまま恩恵の威力・・・
「しぶといね。君がみんなに”加速の付与”をかけたのかい?」
「だったらどうしたっ!」
「いや・・・ね、遅い加速だと思って」
ワシを挑発しているのか!・・・人外が!切り刻んでやる!
「”風よ吹き荒れよ”!」
「【短距離転移1】」
消えた!?一体どこに・・・マズい!!
「”我を守れぇぇぇ”!!」
咄嗟に背後に向かって防御の恩恵を発動させた。
「【爆発3】!」
ボンッ!!
「くぅっ・・・」
なんとかダメージは防げたが風圧で数歩たたらを踏んだ。
「ほんと、しぶといね。その防御すきるだけはたいしたもんだよ」
羽のある人外は余裕の笑みを浮かべ拍手をしている。舐めやがって・・・ぜぇぜぇ・・・
「”不可視の矢よ!敵を穿て!”」
無数の見えない風の矢が四方八方から人外に迫る。
「学習しなよ。そんなの意味ないよ。【短距離転移1】」
また消えた!?何度も同じ手を・・・
「”我をまも・・・げふっ!」
背後を振り返ろうとした時、真上から蹴りを食らった。今度は頭上か・・・吹き飛ばされ地面を転がる。急いで起き上がると人外は腕を組んでこちらを見ている。まるで起きるのを待ってるかのように・・・おのれええええええっ!!・・・くらっ・・・
「うぉ!?・・・立ち眩みか・・・」
急に眩暈がして片膝をついた。立ち上がろうとしたが膝が笑って立ち上がれない・・・
「まさか・・・体力が尽きた・・・!?」
「やっと効いてきたかな?」
羽を羽ばたかせて人外が宙に浮く。悪魔の笑みだ・・・
自然に魔力回復させるには時間がかかりますね・・・オルテンシア様の隣に座り直し、魔力の回復を待っています。魔石があればよかったのですが・・・
「まだ精力増強剤はありますよ?」
「いえ・・・もう結構です・・・」
片手を上げて固辞する。だって・・・注射は苦手ですもの・・・
付与は9つ出来ましたのでプルーニャやニンフェアなら問題ないと思いますけど、人数差がありますので出来れば残りの2つも・・・
ドカドカドカ・・・
何だか廊下が騒がしくなってきましたね・・・侯爵兵が上がってきたのでしょうか?・・・困りました、護衛がいません・・・
「ここかっ!」
扉を蹴り開けて2名の侯爵兵が入ってきました。
「ノックもなしに無礼ですよ。出直してきなさい!でないと・・・」
精一杯の虚勢を張って兵士に向かって怒鳴りました。いざとなれば「必中のナイフ」があります・・・人に向けて使ったことはありませんが・・・
「ジプソフィーラだな?こっちに来い」
「イヤです!あ・・・」
拒否した途端、オルテンシア様がわたしを抱き寄せ、その・・・豊満なお胸に顔を押し付けられました。むぎゅ。うらやましくなんてないです!
「警告はソフィー様がなさっています。排除」
ピシュン
「「ぎゃああああああっ!!」」
なんとか顔を上げると、オルテンシア様の目から赤い光が伸びていました。その先には・・・
「レーザートーチでも人は殺せますよ?歩ける内に退去しないのであれば、命の保証はできません」
「ひぃっ!たすけてくれぇ!!」
「化け物だああああっ!」
・・・わたしに、見せないようにしてくださったのですね。床にはかなりの量の血溜まりが出来ていました。
ガキンッ!ドガッ!ガキンッ!ガッ!
「いいかげん倒れろ!キングゴブリン!」
「俺の名前はアレクだ!覚えておけ!」
アレクの盾職同士の戦いは膠着状態。
ボンッ!ジュワッ!ドガガガッ!
「コイツめ!”炎よ舞い踊れ”!」
「【水流1】!お返しです!【火炎3】!」
「ぐあっ!”風よ逸らせ”!」
「【大砲2】!そんな風じゃわたしの大砲は防げませんよ!」
「接近戦に持ち込めば!斬撃!」
純粋魔法使いルカ君とフィオーレ様の相手は魔法剣士2人。一進一退。
キキン!キキン!
「やるな、名乗るがいい」
「・・・ゴブリン・ロードに!くっ・・・名乗る・・・名などない!」
「ナナ・ド・ナイか・・・良い名だ」
「・・・ふざけるな!”烈風よ切り裂け”!」
「我が名はクリザンテーモ。冥土の土産に覚えて行け!」
クリザンテーモさんの熟練と大隊副隊長の才能の戦いは、決着のつかない高速戦闘。
他の影のみなさんも満身創痍となりながらも、なんとか五分に渡り合っています。
体力の付与から18分。
よしっ!いけます!
みなさんおまたせしました!
決着をつけましょう!




