71話:ナターレ館襲撃
南門は朝になっても門が開かず、通用口で来る人を迎えている。
北門前に魔物が現れたことが知れ渡ったせいだ。門兵は魔物が来たらすぐに中に入れるよう、城壁の左右を警戒している。
『定時連絡、こちら南門方面。これからジプソフィーラ様の搬送を開始します。報告をお願いします』
『ニンフェアだよ。現在北門前で侯爵軍とにらみ合い状態。一当てしたけど思った以上に強いから撤退したよ』
『バルサミーナです。ニンフェアさん負傷しています』
『言わなくていいのに・・・軽傷だよ。作戦続行には支障なし』
ニンフェアさんが怪我するなんて・・・「迷宮」でも怪我してないのに、侯爵軍は強いんですね・・・。
『こちらクリザンテーモ。館内でオルテンシア様と接触。元の部屋から移動なし。侯爵兵はフラヴィオを入れて30名。正門裏門が10、敷地内に8、館1階に7、3階にフラヴィオ他4名。領主様と使用人たちは1階に軟禁中。オルテンシア様が護衛を引き受けてくださったので、突入に支障なし』
『他は異常ないようですね。では突入を開始します。ニンフェアさん合流お願いします』
『了解』
森の中からゆっくりとソフィー様専用馬車が動き出し、街道に沿って南門を目指します。護衛の影の人やフィオーレ様も馬に乗って馬車を囲みます。
馬車の横に馬に乗ったアレクさんが近づいてきたので、わたしは窓を開け、
「アレクさん、気を付けてくださいね」
「ルカ君・・・ルカさんも気を付けて。危なくなったら俺の後ろに来てくれ」
「はい・・・」
わたしはもう男装を止め侍女の恰好をしています。髪が短いと不審に思われるので付け毛で足して。
「開門!!開門せよ!!」
南門に接近する馬車に先行して、アレクさんの馬が門に近づき開門を迫る。
「ジプソフィーラ様がお戻りになった!門を開けよ!」
アレクさんの声が響き、城門の上から数名の兵士が顔をだしました。
「ジプソフィーラ様!?確かにジプソフィーラ様の専用馬車だ!ご無事だったのですね!!」
「おい!開門だ!ジプソフィーラ様をお迎えしろ!」
別の兵士が門の開閉担当に向けて叫びました。
半月ほど前にエリカの町から出発したまま行方不明だった、ジプソフィーラ様の馬車が帰ってきた。
その知らせはたちまち町中に広がっていったのです。
「町に入りましたね。これで後戻りは出来なくなりましたよ」
「後戻りする気にゃんてにゃいニャ!一刻も早くオルテンシア様の元にニャ!」
馬に乗ったフィオーレ様と御者をしているプルーニャさんが対照的な物言いをしますが、二人から感じる気合は同じように感じました。
ジプソフィーラ様を乗せた馬車は当然中を検められることもなく、町中を進んでいきます。
「きゅ~・・・」
わたしのひざの上に乗せたリロッコが心配そうにソフィー様を見ています。呼吸は落ち着いていますが、未だ体温は高く汗も多量にかき、衰弱していっています。
「リロッコ、ソフィー様を助けるにはあなたの力も必要なの。お願いできる?」
リロッコはしゃべれないけど人の言葉は理解しています。
「きゅ~っ!!」
わたしを振り向いて元気に枝を振り上げてくれます。
侯爵兵はほぼすべて北門に集まっているため、見咎める者もなく順調に館に向けて進みます。時々巡回中のナターレ兵は見かけますが、馬車のナターレの紋章を見て敬礼をして見送ってくれます。
高級住宅街に入り、館まであと少しという所まで来てニンフェアさんが合流しました。
馬車の御者をしているプルーニャさんの横に突然現れると、疲れたようにくたっとなりました。
「お疲れニャ北門はだいじょぶニャ?」
そう言って魔石をニンフェアさんに渡しながら「回復」を使い腕の怪我の治療をしました。
「ありがとう。さすがにこの距離だと”幻想魔法”は消えるけど、他のゴブリンにボクの恰好をさせておいたから、ゴブリン・ロードは健在だよ。それにバルサミーナのオオカミが思った以上に優秀だね。時々ちょっかいを出しながらうまく牽制してくれてるよ。ボクもオオカミが欲しくなったね」
プルーニャさんと話しながら、ニンフェアさんは馬車の中のソフィー様の様子を伺います。
「もう少しですからねソフィー様、がんばって」
館の近くまで来ると、一軒の屋敷の前でクリザンテーモさんが待機していました。
身振りで屋敷に入るように誘導して、馬車が敷地に入っていきます。
「よし!リロッコ準備はいいかい?」
「きゅ~っ!」
リロッコの前に水がたっぷり入った大きな樽が用意されます。二人の影の人が手伝って樽を傾けると、リロッコががぶがぶと飲み干していきます。
根が太くなり幹が膨らんで枝葉が伸び、たちまち2階建ての建物くらいの大きさになりました。
話には聞いていましたが初めて見るとびっくりしますね。
アレクさんが馬車からソフィー様を抱えて出てくると、リロッコの枝が伸びソフィー様を包んでいきます。
「リロッコ頼んだよ!みんなには”幻想魔法”でゴブリン集団に見せかける。これで館に突入するよ!」
「「「「おうっ!!」」」」
ニンフェアさんの号令に皆が唱和しました。
わたしも頑張ります!
どうする?北門はゴブリン・ロードを撃退させたと言っていたが50名の弓兵が負傷したようだ。まだコカトリスとは交戦していないようだが、500名の援軍を蹴散らした化け物だ、200名の騎士でも勝ち目は薄い・・・いや、ない・・・
待てよ・・・コカトリスがこちらに来ているということは、”魔の森”の街道を通れるのではないか?
コカトリスさえいなければ!
ドガンッ!!
「うわああああっ!!」
正門の方向から爆発音と兵の悲鳴が聞こえてきた。
「何事だっ!?」
「フラヴィオ様!正門に魔物の集団が!」
「な、なんだと!?」
まさか、北門が破られたのか!?窓に駆け寄って外を見ると巨大な樹木型の魔物、トレントが正門を乗り越えて館の敷地に入って来たところだった。周りにはゴブリンの集団が・・・トレントもB級クラスの魔物、いや、あの大きさ・・・エルダートレントの可能性もある・・・そうすればA級だ・・・。
「北門の部隊を呼び戻せぇっ!!」
「しかし、北門にはゴブリン・ロードとコカトリスが・・・」
「構わん!!戻り次第魔物を突破して東門から撤退する!」
この町のことなんか知ったことかっ!わたしはこんな所で死ぬわけにはいかんのだ!
トレントはともかくゴブリンどもは蹴散らしておきたい。しかしD級の魔物であるはずのゴブリンに騎士たちが苦戦している。たかが十数匹のゴブリンに何を苦戦しているのだ!!
「ええい!ナターレ子爵の監視をしている者も援護に出せ!」
そうこうしている間にもトレントが館に迫ってくる。この建物を攻撃するつもりか!?
トレントが館の端に移動すると、葉の茂みの中からローブで顔を隠した小柄な二人の女?がドレスを着た少女を抱えて出てきた。
あれは、あの娘はまさか!ジプソフィーラかっ!?
トレントは枝を伸ばし2階の端の部屋に侵入した。
あそこは、確か腕のない女の死体を安置していたはず・・・なぜそんなところに・・・
いや、チャンスだ!ジプソフィーラの身柄を確保して王都に帰還する。騎士が戻り次第館から脱出し、東門から出て北の”魔の森”を抜ける。これでナターレは俺の物だっ!!




