67話:なけなしの付与魔術
「援軍が来ない!?どういうことだ!」
「はっ、”魔の森”を抜けようとした時魔物の襲撃を受けたらしく、2個連隊はほぼ壊滅とのこと・・・」
「なんだと・・・」
ゴブリン・ロードに大隊が壊滅させられエドアルドは戦死、迷宮探索部隊は戻ってこない。迷宮へ伝令を送ってもその者も戻らず、援軍を頼めば魔物に壊滅させられる・・・ここは呪われているのか・・・
「【念話】で連絡を受けた通信兵によれば、ナターレ側出口にコカトリスが現れたと・・・」
「コカ・・・A級の魔物ではないか!?」
どうしてこんなことになったのだ!ゴブリン・ロードだけでも手が回らないのに・・・コカトリスだとっ!?
どうする?・・・こんな状態だが子爵令嬢捜索部隊をだすのか?いや、コカトリスまで出たとなればここの守りを薄くすることは出来ない・・・ならば・・・撤退・・・
「フラヴィオ様いかがいたしましょう?・・・」
「今考えておる!静かにせいっ!」
撤退などできるかっ!何のためにこんな田舎まで来たと思っている!撤退するにしてもジプソフィーラの身柄を確保してからだ。そうすればナターレには代官を送り込んでわたしは王都にいればよい。
やはりジプソフィーラを捕らえるしかないか・・・ん?そういえば、
「おい!コルニオロはどうした?」
「はっ、それが昨日の朝町を出られたまま戻っておらず・・・」
「A級冒険者がみつかったのか?」
「分かりませんが目撃した者によれば、二人の子供を連れていたらしく・・・」
「子供だと!?」
ええいっ!コルニオロは何をしている!こんな時の為の参謀だろうに!
守りを固めるか・・・捜索部隊を出してジプソフィーラの身柄を押さえるか・・・そもそもジプソフィーラはなぜ行方不明になっている?館から出ることはあるにしても護衛もいるだろうし、ナターレ領内で行方不明になりそうな所と言えば・・・まさかっ!!迷宮か・・・!?
どこかで今回の、迷宮王都直轄領化の情報がもれていたのか?・・・それとも神力や恩恵目的か?・・・
まさか、迷宮部隊が帰ってこないのも、伝令が戻ってこないのも、ジプソフィーラの手の者にやられた!?・・・
ナターレ子爵に謀られたかっ!!
「おいっ!今すぐナターレ子爵を拘束しろっ!!」
「よしっ!準備はいいね!出発するよ!」
出発は結局昼になってしまった。影の招集に時間がかかったのだ。馬車の御者席にボクとプルーニャが座り、馬車の中にはソフィー様とリロッコ、看病役のルカ君、護衛にアレクがいる。馬車は「迷宮」に行くために使用していたソフィー様専用の物だ。白に金色の縁取りがされたナターレの紋章の入った綺麗な馬車で、一目でソフィー様の馬車と分かる。出発してすぐに周りの偵察をしていた影の一人が戻ってきた。
「統領!バルサミーナが戻ってきました」
「ん?”魔の森”に派遣していたはずだが、何かあったのか?」
バルサミーナか、確か【魔物調教】をもっていたね。遠くにオオカミにまたがったバルサミーナが見えた。周囲を飛んでいるのは鳥?調教した魔物かな?一応警戒しておくかな。
「全員停止!」
暫くしてバルサミーナが到着した。オオカミからひらりと飛び降りクリザンテーモの前に跪く。なぜか肩に赤いスライムが乗っている。
「バルサミーナ、只今戻りました」
「ご苦労。報告を」
「はい。侯爵軍を撃退したことは伝わっていると思いますが、調教した魔物が倒した侯爵兵の経験値が、すべてわたしに入りまして・・・。”レベル”が大量に上がってしまったのでジプソフィーラ様に【魔物調教】を上げていただけないかと」
なるほどね。でも今は・・・
「話は分かった。しかし今はそれどころではなくてな・・・」
クリザンテーモも言い淀む。説明してる余裕もない・・・
その時バルサミーナの頭に鳥の魔物が降り立つ。魔物か・・・そうだ!
「バルサミーナ、魔物調教で使役できる数の制限はあるかい?」
「ニンフェア?いや、今んとこはないと思うけど・・・」
「クリザンテーモ、バルサミーナに魔物軍団を作らせてエリカの町を攻めさせれば・・・」
「・・・侯爵兵をおびき出せるか・・・館の兵を少しでも減らせれば・・・」
エリカの町までにはいくつか森がある。そこなら少しは魔物がいるはず!
「ニンフェアさん!ソフィー様が!」
突然ルカ君が馬車の扉を開けて叫んだ。ボクは反射的に馬車に飛び込みソフィー様の様子を見る。
「ソフィー様!!」
呼吸が荒く、よだれを垂れ流し、眼もうつろになっているソフィー様が、震える手を上げてボクの手を掴む。
「はぁ・・・はぁ・・・付与・・・うぐっ!・・・」
「無茶しちゃダメだ!」
眼の焦点が合っていないけど、その眼にはまだ力を感じた。
「・・・魔術:情報・・・」
「ソフィー様・・・バルサミーナ!こっちに早く!!」
扉の隙間から顔を入れたバルサミーナに向けて、ソフィー様の手を持ち上げて向けさせる。
「操作1・・・」
虹色の光がソフィー様の手の平から飛び出しバルサミーナに吸い込まれる。
なけなしの体力を振り絞ったソフィー様が再び昏睡状態になった。
「ありがとうございますソフィー様・・・」
「ジプソフィーラ様!?どうなさったんですか!?・・・」
「バルサミーナ!時間を無駄にしないで!付与魔術が効いてるうちに【魔物調教】を!」
「え、ええ!?」
バルサミーナも心配そうだったけど、時間がない。一刻も早くオルテンシア様の元に!
「ソフィー様・・・【応急措置1】・・・」
「【回復2】ニャ・・・」
プルーニャも意味はないと分かっていながら回復魔法を使う。その気持ちは分かる。何もできない悔しさは「迷宮」で嫌というほど味わった・・・それを救ってくれたソフィー様。今度はボクたちがソフィー様を助ける番だ!
「さあ!急ぐよ!」
再び馬車が出発する。移動しながら「魔物」を使った作戦を練り直す。




