54話:デーア姉さん
「やっとついたな。あまり街道に近いとマズいから少し西に移動しよう」
「まさか俺たちにこんな大役がまわってくるとはね~」
昨日の夜ジプソフィーラ様に選抜され、この任務を請け負った。急なことでもあり準備に時間がかかるかと思ったが、新しく兵站担当になった「ルカ君」と呼ばれている女性がてきぱきと準備を整えてくれた。
裏の影を担当していたので他の3人も知ってはいるが、今まで話をしたことはない。
「隊長?でいいのかな?森に入る前に食事にしない?」
「わたしも~お腹がすきました~」
今回の任務は俺を含め男が二人、女が二人だ。皆ジプソフィーラ様の「付与魔術」で新しい”スキル”を手に入れていた。影として訓練を積みそこそこの戦闘力はあるが、それほど特別な存在ではない。いつも統領の命令で偵察や諜報を行うのが常だった。その情報を活かすのは別の者だったのだが・・・
「あの先の岩陰で休憩しよう。食事後最終確認をして森に入る」
今や俺たちが情報を得て作戦を行う当事者になった。
食事後、装備を点検している間に声をかける。
「あらためて自己紹介をしておくよ。俺はグラディオロ。ディオと呼んでくれ。【熱感知2】”スキル”を持っている。魔物探知と警戒を担当する。あと一応このメンバーの隊長をやらせてもらう」
短い黒髪をかきあげながら自己紹介をする。なんだか冒険者にでもなった気分で気恥ずかしい。ただの影の一人である俺が・・・俺だけの”スキル”を活かせることに武者震いがする。気を引き締めて、全員生きて連れて帰ることを誓う。
「俺はミィルト・クレスポ。ジプソフィーラ様から【拘束3】の”スキル”を賜った。正直戦闘は得意ではないが魔物の動きは止めてみせるぜ。諜報中はミルの愛称で通している。そう呼んでくれ」
ミルか。一緒に仕事をしたことはないが【拘束3】”スキル”とは、影の仕事でも役立ちそうだな。俺より身長は高いが瘦せ型で、短い金髪碧眼がいかにも盗賊といった雰囲気を醸し出している。
「わたしの番かな?名前はバルサミーナ。名付け親はクリザンテーモだけどね。姫様からは【魔物調教2】をもらったよ。それで、この子が【魔物調教2】で手なずけた部下1号のライム君」
バルサミーナは訓練で何度か一緒になったことがある子で、深緑の長い髪をポニーテールにまとめている。特に目立った所はない子だったが、【魔物調教】という変わったスキルを手に入れたことで影の中で噂になっていた。
「スライムじゃねえか。へ~こんな間近で見たのは初めてだな」
「かわいいですね~」
「本当に調教できるんだな・・・」
ちょっと赤い色をしたスライムだ。点のような二つの目がついているが内臓のような物は見えない。後ろの風景が透けて見えるがこれで生きているのか・・・
「ライム君は【殴打1】と【酸攻撃1】”スキル”を持ってるよ。戦闘でも役に立つからね!あ、わたしのことはミーナって呼んでね」
スライムは武器攻撃が効きにくい。魔物の牙や爪攻撃も効きにくいから案外前衛にいいかもな。
「最後はわたしですね~オルキデーアです~。近所の子供には「デーアお姉ちゃん」って呼ばれているのでそう呼んでくださいね~」
「「呼ばねえよ!」」
なんで影の仕事してて近所付き合いしてるんだ・・・
「え~でもぉ~わたしが一番年上ですし~?」
はっ!?・・・どう見ても10代中頃だけど?
女性にしても低めの身長で一瞬子供か?と思ってしまうが、自己主張の激しい胸が大人の女性だと主張している。黒髪黒目で長い髪は所々跳ねている。眠そうな目をしていて、跳ねている髪も相まって寝起きなのかと思ってしまう。
「ディオ・・・何歳だ?・・・」
「23だ。ミルは?」
「26歳・・・ミーナは?」
「女性に年齢を聞かないでよ・・・でも21・・・」
「32歳ですぅ~」
「「「マジかっ!?」」」
どんなマジックだ・・・20代にも見えないぞ・・・
「ですから~わたしがお姉さんですね~」
ニコニコしながら俺の前に歩み寄ってきたオルキデーアさんは、見下ろすほど小さく幼く見える。胸以外は・・・
「はい・・・デーア姉さん・・・」
「わたしは~ジプソフィーラ様から~【回復3】を頂きました~怪我は治してあげるので頑張りましょうね~」
このメンバーで任務に挑むわけだが、皆いい”スキル”を持っているし大丈夫だよな・・・
「ソフィー様、影からの報告で小さなゴブリンの群れを見つけたらしいよ」
部屋に入るなりソフィー様に報告をする。
「いいですね。侯爵軍にぶつけましょうか。何匹くらいいますか?」
魔物は生き物に非ずと言わんばかりのソフィー様。もうちょっと猫をかぶってもいい気はするけど、まあ害獣だしね。
「数は7匹で、全部普通のゴブリンだね」
「ちょっと少なすぎますね~・・・2、3人の騎士でも厳しいですかね?歩兵は出てこないでしょうし」
う~んと唸りながら顎に手を当てて考え込むソフィー様。前回31人も騎士を倒しちゃったけど、もう少し削ってから突撃したいらしい。とゆうか、ソフィー様がやたら攻撃的になってるけど・・・そこもいいね。
「そういえばナターレ館にいるリッチ侯爵の息子が、侯爵に援軍を頼んだらしいけど?」
「・・・ええ、お父様が教えてくださいました・・・」
まだおねしょのこと引きづってるのか。かわいいなぁソフィー様は。
「そちらは手を打っているので問題ないですが、迷宮に知らせが走ったらしいので最悪迷宮の60人が戻ってくるかもしれませんね」
ナターレの兵が攻撃するのはマズいから、できるだけ魔物に侯爵軍を削ってもらいたいけど、そうそう強力な魔物がうろついてるわけもない。
「迷宮」の60人は精鋭だ。さすがにゴブリンではどうこうできはしない。精鋭が戻ってくるとちょっとやっかいだから駐留軍を先に削っておきたいけど、強い魔物でもいれば・・・
いるじゃないか、ココに。
「ソフィー様、ゴブリンはボクが誘導してエリカの町から侯爵軍を引っ張り出すよ」
「いいですけど、姿は見せないでくださいね」
「まかせておいて」
さて、強いゴブリン様にご登場願うかな。




