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44話:夜明け前

 今朝起きると昨日までの雨が噓のように止んでいました。3日間振り続けた雨であちこちが被害を受けて、道も川のようになっています。畑の被害が心配なのかお父さんは朝早くから出かけています。

 わたしはお母さんと一緒に朝食のお手伝いをしながら昨夜の夢のことを思い出します。


「昨日のあれはなんだったのかな~?」

「ん?どうしたの?」

「あ、昨日ね変な夢を見たの」

「変な夢?」

「う~ん、夢だと思うんだけど・・・夜中に目が覚めちゃって外を見ていたら、大雨の中一台の馬車が丘の上に向かって走って行ったの。あの雨の夜に馬車が走ってるだけでも変なんだけどね、ランプもつけてない馬車からおっきな木が生えていたの。ユラユラ揺れながら走って行ったんだけど木の枝が不思議な揺れ方をしてて、まるでわたしに手を振ってるみたいだったわ」

「へ~それは不思議な夢ね。でも手を振ってくれたのなら森の神様かもしれないわね」

「神様!?」

「ふふふ、そうだったらいいわね」





「アレクとルカ君の様子はどうですか?」


 昨夜のうちにたどりついた村はずれの屋敷で朝を迎えました。エリカの町と迷宮の町をつなぐ街道から少し離れた村で、ここなら侯爵の軍と鉢合わせになることもないでしょう。

 迷宮内では時間感覚が少し狂ったようで、真夜中に脱出したつもりでしたが外は早朝でした。


「さきほど解毒剤を飲ませて今は落ち着いているよ。じきに目を覚ますはずだ」

「そう、よかったですわ」


 この屋敷は前の持ち主が亡くなった後、影の隠れ家としてジニアが購入したもので、他にもいくつかあるそうです。


「ソフィー様も寝ておいてよ。この屋敷は影が警護しているから安心だよ」

「そうさせてもらうわね。できればその前に湯あみをしたかったけど・・・」

「ボクが用意するよ!ちょっと待っててね!!」


 そう言うとニンフェアが急いで部屋を飛び出して行きました。

 ええ・・・女性同士ですし・・・いつもジニアにしてもらうのと変わらないはずなのですか、なぜか背筋に悪寒が走ります。そうです、プルーニャも一緒に湯あみに誘いましょう。念のために・・・


 なんとか無事に湯あみを終え眠りにつこうとしましたが、精神が高ぶっているのか中々寝付けません。

 迷宮の中にいる時のあの感覚が残っているようでまるで、そう、まるで()()()()()()()()()()ような不思議な感覚があるのです。

 近くに魔物はいませんし(リロッコはペットですわ)そんなことはあるはずがないのですが・・・

 起きたらニンフェアに相談してみましょうか?





『あ~れ~僕たちを召喚した人とどんどん引き離されちゃうよ~』

『そ~だね~ど~しよ~か~?』

『ど~しよ~もないね~僕たちたいした力はないし~』

『そ~だね~ど~しよ~か~?』

『あ、魔物にぶつかっちゃった~えいっ』

『わあ~魔物を倒せるなんてすごいね~僕もえいっ』

『なんだろ~ね~おぼれて死に掛けてる魔物だらけだね~えいっ』

『僕たちみたいな生まれたばかりの水精霊で倒せるなんて弱い魔物なんだね~えいっ』

『だから死に掛けてるんだってば~えいっ』

『ふ~んそっか~まあなんでもい~や~えいっ』

『僕たちは召喚されたんだから~お仕事はしないとね~えいっ』

『そ~だね~えいっ』





「う・・・ここは?・・・」

「お?目が覚めたかニャ?」

「プ、プルーニャさん!」


 目が覚めたら目の前にプルーニャさんがいた。迷宮ではぐれて、あの高さから落ちたのによく無事で・・・涙が込み上げてきてプルーニャさんを抱きしめていました。


「ニャ!?にゃああああああ!ア、アレク落ち着くのニャ!」

「プルーニャさんよかった!本当によかった!うっく・・・」


 あの時、毒に侵されて意識が朦朧としていた。もしかしたら俺の願望が見せた夢かと思ったけど、ちゃんと生きててくれた。プルーニャさんの小さな身体を思いっきり抱きしめて、生きている証拠の体温を感じる。


「アレク・・・お互い無事で良かったニャ。よしよし」


 プルーニャさんに頭を撫でられ急に恥ずかしさが込み上げてきた。いい歳して泣くなんて・・・がばっとプルーニャさんから離れて謝罪する。


「す、すみません・・・うれしさが込み上げてしまって、つい・・・」

「にゃはは、急に抱きつかれたからびっくりしたニャ」


 プルーニャさんに謝罪しながら顔を上げると・・・そういえばフードを取ったプルーニャさんの顔を初めて見たけど、頭の上に・・・猫の耳!?あれ?なんだろう、プルーニャさんの口調と猫の耳が妙に合っていて違和感がないな・・・いやいや、人間じゃないんだぞ!人間以外にも人の言葉を話せる生き物がいたのか!すごいな!びっくりだ!びっくりしたけど、まぁ、プルーニャさんはプルーニャさんだな。うん。


「かわいい耳ですね・・・」

「ニャ!?・・・にゃはははははは!アレクは面白い反応をするニャ!わたしの顔を初めて見て化け物とか魔物とか人外とか言った奴はいるけど、かわいいって言われたのは初めてだニャ」


 プルーニャさんは照れているようです。くねくね動いているしっぽもかわいいな。


「いや、びっくりはしましたけど、プルーニャさんらしいかなっと」

「にゃはは、ありがとニャ」


 こんなに小さくてかわいらしいプルーニャさんが、ソフィー様の護衛ができるくらい強いなんて・・・


「はっ!そうですソフィー様は!ルカ君は無事なんですか!?」

「二人とも無事ニャ、ついでにニンフェアもニャ♪」


 よかった・・・全員無事でっと、ここは?周りを見回すが「迷宮」の外だ・・・宿屋とかではない。どこかの御屋敷の中?


「ここかニャ?ここはどっかの村はずれにあるお屋敷だニャ。ここは安全だから安心してニャ」

「よかった・・・」


 どっかって曖昧だな・・・プルーニャさんも知らないのかな?俺は力が抜けてベットに倒れこんだ。そういえばこうしてベットで眠るのは何日振りだろうか?


「「迷宮」を出られたんですね」


 ベットに横になったまま、顔の横にある椅子に腰かけているプルーニャさんに話しかける。


「周りは大洪水だけどニャ」

「大洪水?」

「「迷宮」も水没しちゃって見張りもいにゃかったニャ」


 それで脱出できたのか。そういえばおぼろげに記憶がある。雨の中馬車に縛り付けられて・・・


「見つかっていないのなら、お尋ね者にはならないで済みそうですね」

「貴重にゃ「迷宮」帰りだからニャ~、お尋ね者どころかソフィーに言えば取り立ててもらえるんじゃにゃいのかニャ?」


 プルーニャさんたちはともかく、俺はまるで役に立てなかった。ただ「迷宮」に入って出ただけだ。大事なガーゴイルとの戦いでも、途中で意識をなくしてしまって、結局プルーニャさんたちが倒したんだろう。


「そんなことはありませんよ。そういえば、ソフィー様のことを・・・その・・・」


 ソフィー様と呼ぶことも畏れ多いのに呼び捨てとは・・・


「あ~わたしとソフィーは「仲間」ににゃったからニャ♪」

「「仲間」?・・・」


 プルーニャさんは多くを語らないが、「迷宮」で別れてから色々あったんだろうな。

 まあ、一介の工兵とお貴族様が「仲間」とかは・・・ないか。ルカ君となら「仲間」になれるかな?


「ルカ君は・・・」

「んに?」

「えっと、言いにくいんですが、その、ルカ・・・さん・・・」

「あ~(おんにゃ)の子にゃのを隠してたことかニャ?」

「気づいてたんですか!?」


 あれ?プルーニャさんがジトっとした目をしてるけど?


「あれだけ一緒にいれば嫌でも気づくニャ・・・」

「ですよね・・・」


 それじゃああの時の言葉は、女だとバレた上で言ったことなんだろうか・・・冗談ではなく・・・


「もう夜も遅いニャ。朝まではゆっくり眠るといいニャ」

「ありがとうございます」


 そう言ってプルーニャさんが扉の向こうに消えた。少し考えてみようか。





「う、ん・・・ここは・・・」


 真っ暗です。身体に力も入らないし、わたしは死んでしまったのでしょうか・・・


 リー・・・リーリー・・・


「虫の声?・・・」


 ここは?「迷宮」の外!?ゆっくり起き上がるとベットに寝ていたことに気づきました。服の裾を持ち上げてみますがお腹に傷はありません。あれは夢だったのでしょうか?顔を上げて振り向くと窓から月明りが入り込んでいます。

 ベットから足を降ろし窓の側まで歩いて外を見ると、雨上がりなのかあちこちにある水たまりに月明りが反射して、まるで夢のような光景が広がっています。長い間薄暗い「迷宮」にいたせいなのか、夜にもかかわらず月明りが眩しくて、なぜか涙が出てきました。


「夢のわけはありませんね。トリフォーリオさんが裏切って殺されかけて・・・アレクさんは無事なんでしょうか・・・」

「無事だよ」

「えっ!?」


 暗闇から返事が返ってきて慌てて振り向きました。手の平を闇に向けて・・・


「それだけ元気ならもう大丈夫そうだね、ルカ君」


 闇から歩いて出てきたのは、


「ニンフェアさん!?」

「朝まで起きないと思ってボクも寝ちゃってたよ」


 あくびを口元に当てた手で隠しながらわたしの前まで歩いてきました。


「ニンヴェアざあああああん!」

「えええっ!?・・・」


 わたしより小さなニンフェアさんに抱きついて泣きました。正直もう会えないと思っていました。トリフォーリオさ・・・の奴も言っていましたが、あの高さから落ちて助かるわけがないって思っていました。まさかまたこうして会えるなんて・・・


「ルカ君も大変だったね。よく生きててくれたよ。ソフィー様の泣き顔を見なくて済んで助かった」


 膝立ちで抱きつくとわたしの頭が小柄なニンフェアさんの胸の辺りにきます。ニンフェアさんはしばらく固まっていましたが、わたしの頭をそっと抱きしめて撫でてくれました。


「ソフィー様も無事だったんですね!プルーニャさんも!?」

「うん。ボクが空を飛んで助けたのさ、この翼でね」


 つば・・・さ?ニンフェアさんを見上げると、顔の後ろに薄緑色の半透明な羽が見えました。背中から羽が生えています!?作りものじゃないですよね?ギュッギュッ


「ちょ、引っ張らないでよ痛いから」

「へ~羽の生えてる人もいるんですね。初めて知りました」


 お伽噺に出てきた「エルフ」という種族なのでしょうか?


「へっ!?・・・ぷっ、あははははは・・・ルカ君は変わってるねぇ」

「そうですか?でもこの羽のおかげなんですね。ソフィー様を助けてくださってありがとうございます!」


 ニンフェアさんから身体を離し、頭を下げてお礼を言います。いつもぶっきらぼうな話し方のニンフェアさんですが、とてもかわいくてキレイな羽を持っていて、とてもいい匂いがしました。


「ボケじゃないんだよね?・・・でも、まぁ・・・・いっか」


 頭をかきながら上を向いて照れ隠しをされていましたが、わたしは構わずもう一度抱きつきました。

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