43話:迷宮からの脱出
一夜明け「迷宮」周辺は洪水で水没した。
俺は夜の見張り番だったが、膝まで水が来た時点で職場放棄して高台に非難した。こんな状態で「迷宮」に入るやつなんかいない。10人いた見張りも今は誰も入り口前にはいない。1人逃げ遅れたらしいが・・・
「雨が止む気配がないな。ここも危ないかもしれない・・・」
「迷宮」周辺は盆地になっておりすぐに水が溜まってしまう。話には聞いていたがよくこんな所に町なんか造るもんだ。
周りの建物を見ると高床式になっており水が来ることは承知しているらしい。それほどまでしても「迷宮」の富が魅力的なんだろう。それでも今回の洪水は予想外のもののようで床上浸水している建物も多く、建物の横に常備されている小舟もいくつか流されている。念のため流れてきた小舟の一つを引き上げてロープでくくっておく。
上からは迷宮の門を閉ざし、出てくるものはすべて捕らえよと言われている。持ち場を離れることも厳禁だと・・・しかしこの状況では致し方あるまい。命あっての物種だ。一度「迷宮」の入り口を見てみるが扉の半分以上が冠水しており、水圧で扉が押し開くのではないかと思ってしまう。どうやら人の手で押さないと開かないらしいが不思議なつくりだ。
「ここまで水が来たか・・・」
ちょっとした高台なので足元まで水が迫ってきている。仕方ない小舟で避難しよう。オールが流されたのか見当たらなかったので、近くで使えそうなものを探すことにした。
その時背後の迷宮の扉が内側に開いていくのだが俺は見ていなかった。
やっと1階に到着です!ここから出口までたしか走って30分くらいでしたね。歩いても1,2時間もあれば出口に着くでしょう。でも焦ってはダメです。わたし以外の3人はアレクとルカ君を背負って疲れているのです。
「ここで休憩にいたしましょう。ニンフェアは疲れていますし、わたしがご飯を作りますね」
「いや、大丈夫だよ。食事の準備くらい・・・」
あいかわらずニンフェアはわたしを特別扱いします。仲間、になったのですから少しはわたしに頼ってほしいですね。
「いいから休んでいてください。わたしも少しは役に立つようになったのですから」
「いいんじゃにゃいかニャ?「迷宮」最後の食事だしソフィーの手料理食べてみたいニャ」
「た、たしかに・・・ソフィー様の手料理か・・・」
納得してくれたみたいなのでウサギ肉を調理し始めます。
お父様にも振舞ったことのないわたしの手料理です!おいしいものを作りましょう♪
見様見真似ですがいつもニンフェアの料理を見てましたし、ルカ君の作る料理も覚えています。確かウサギ肉にコショウをまぶして叩いていましたね。コショウはこの黒い粉でしょうか?たぶんそうですね。この干物は・・・ああ、ダシとか言うやつですね。
初めて料理というものを作りましたが、少しづつ形になっていくのを見るのはとても楽しいですね!
「さあどうぞ、召し上がれ」
ニンフェアとプルーニャの前に紫色になったウサギ肉が盛られています。
ルカ君やニンフェアの作った料理とは少し色が違いますが、問題ないでしょう。ただ、材料配分を間違えてスープは大量に作ってしまいました。余ったものは迷宮を出てから飲んでもいいですね。
わたしは煮込んで液体になった紫色のスープをアレクの口に運んであげます。なぜかアレクが汗を噴出させてうなされているようですけど、栄養を取らないと持ちません。無理やり口に突っ込みました。
ふとニンフェアとプルーニャの方を見ると二人とも寝ています。食事中に寝るなんてと思いましたが、重たいアレクをここまで運んだのです。疲れていても仕方ないですね。
最後にルカ君にも食べてもらわないとね。
「よいしょっと」
スープのお皿を持ってルカ君のもとに向かいました。なぜかリロッコが離れていきます。どうしたのでしょうか?ルカ君も中々飲んでくれないので、無理やり口に突っ込むことにしました。少し身体がビクンっと跳ねましたが、おいしさに身もだえしているのでしょうか?これで体力つけてくださいね。
ニンフェアとプルーニャが疲れているようなので毛布を掛けてあげようと近づくと、二人が泡を吹いて倒れていました。疲れすぎるとこうなるものなのでしょうか?
暫くしてニンフェアとプルーニャが起きてきましたが、まだふらついています。
「二人とも大丈夫ですか?」
青ざめた顔をして口元を押さえています。疲れた身体にはウサギ肉は脂っこ過ぎましたかね・・・反省です。
「ええ、大丈夫ですよソフィー様・・・」
「にゃんかヴァルホルが見えた気がしたニャ・・・」
プルーニャは夢でも見ていたのでしょうか?ヴァルホルは死んだ後に行くとこですよ。まだ行かないでくださいね・・・
「あまり召し上がらなかったようですけど、まだ余って・・・」
「さあ、もうすぐ出口だよ出発しよう!」
「そうだニャ!早くアレクたちをお医者さんに診せにゃいと!」
もう少し食べてもらおうと声をかけましたが、ニンフェアもプルーニャも元気いっぱいです。お料理で元気がでたのですね!よかった。
仲間想いの二人はアレクとルカ君の為に急ごうとしています。それなら!
「わかりました。急ぎましょう!」
出口までもうすぐですね!アレクとルカ君のお世話でわたしが食べ損ねましたが、スープはたくさんあるので外で食べることにしましょう。
『毒耐性が仕事しないって・・・毒じゃないのか・・・』
ニンフェアとプルーニャの小さな呟きは足音にかき消されました。
それから2時間後ついに迷宮の入り口に到着したのです。
「やっと戻ってこれましたわね」
入るときはゆっくり眺める暇もありませんでしたが、細かいレリーフが彫刻された重厚な扉です。
何か文字のような物が見えますが、これは古代語でしょうか?レリーフに触ろうと手を伸ばすと。
「ソフィー様待って」
ニンフェアがアレクを降ろして扉に近づきます。耳を当てて外の様子をうかがっているようですね。
「ちょっと試してみるよ。【短距離転移1】」
ニンフェアの姿が消えました。転移魔法ですわね。と、すぐに戻ってきたニンフェアはずぶ濡れです。
「どうしたのですか?」
「外は大洪水だよ」
「えええええ!?」
何があったのでしょう?確かに雨の降る季節ですが・・・収穫が終わったら堤防の補修をすると言う話がありましたが、まさか堤防が決壊して?
「でもおかげで入り口に見張りはいなかった。脱出するなら今だね」
チャンスのようです!強行突破するしかないと思っていましたが、洪水様様ですね。いや・・・領地の民が困りますけど・・・
「念のためにロープで縛っておくかニャ?」
「そうだね。全員と、どこか縛れるところがあればいいんだけど・・・」
ニンフェアとプルーニャがてきぱきと自らの腰にロープを巻き付けていきます。その後ニンフェアがわたしの腰にもロープを巻き付け、アレクとルカ君もプルーニャが結んでいきます。
「きゅ~!」
「ん?」
リロッコが何か言ってるみたいですけど・・・さすがに言葉はわかりませんね。
「仕方ない全員を縛ってなんとか耐えてみよう」
リロッコにもロープを巻き付けわたしが抱っこしました。
「じゃあいくよ!」
ニンフェアが扉を引くとその瞬間大量の水が押し寄せ一気に押し流されました。足が浮き水の中でもがいていると、耳に手があたりイヤリングが流されてしまいました。
「ああ、水精霊の加護が!!」
その瞬間水の精霊が大量に現れ・・・そして流されて行きました・・・
そんなことに構っている暇はありません。数十mは流されたと思いますが、急に水流が弱くなり足が地面につきました。あれ?っと思うと目の前に巨大な幹の樹木がそびえていました。地面に根を張り微動だにしません。リロッコ!?
「ふ~、そうか水を与えると大きくなるんだったね」
「!なるほど、リロッコありがとうございます」
「きゅ~!」
巨大化したリロッコに巻き付けていたロープはちぎれてしまいましたが、リロッコがみんなを繋いだロープを手・・・だと思う枝に引っ掛けて流されないようにしてくれています。
太い枝にまたがったニンフェアとプルーニャがわたしを引っ張り上げ、3人とリロッコも協力してアレクを引き上げました。重すぎです・・・ルカ君は、運がいいのか悪いのか巨大化したリロッコのてっぺんに引っ掛かっています。降ろすのが大変そうですね。
「ルカ君とアレクの背嚢が流されてしまったけど仕方ないか」
二人の荷物は手に持っていたため咄嗟に離してしまったみたいです。わたしの荷物は背中に背負っているので流されることは・・・
「ああ!わたしの作ったスープも流されてしまいました!」
「「ああ、うん・・・」」
背嚢の口が開いており、一番上に置いていたスープの入ったお鍋がありません・・・残念ですけど仕方ありません。脱出を急ぎましょう。
「リロッコ外に出られますか?」
「きゅ~!」
ゴゴゴッっと太い根が動き水流に逆らってリロッコが外に向かって歩き出しました。みんなはリロッコの枝や幹にしがみついて落ちないように必死です。バサバサっと入り口をくぐるときに葉っぱが散りますが、水を得て再び葉が茂ります。やがて外にでたわたしたちは、リロッコに乗せてもらって高台に移動しました。
「リロッコ大活躍だニャ」
「ああ、見直したけど・・・外に出られるのか・・・」
「どーゆーことニャ?」
「リロッコは「迷宮」の魔物だよ。階段を昇れたことも不思議だったけどましてや外に出るなんて・・・」
そういえば魔物は階層の移動はできないのでしたね?隷属しているせいでしょうか?
「隷属していることが関係しているのでしょうか?」
「わからないけど、ほかの魔物との違いはそれしかないかな?」
そんな話をしていると、
「ん?きたニャ」
「きたね」
スッとリロッコの前に人が現れました。
「ジプソフィーラ様ご無事で!?」
「見ての通りだよ」
「無事帰還したニャ」
「え?あ、はい」
どなたでしょうか?ニンフェアたちは知っているようですけど。
「馬車を用意しております。こちらに」
そう言って恭しく馬車のある方へ誘導してくれます。
「影の一人だから安心してニャ。ジニア様の使いだニャ」
「医者の手配を頼むよ。毒にやられてる」
「了解した」
歩きながら説明していると馬車が見えてきました。わたしが迷宮まで乗ってきた馬車です。馬車には御者の男性が1人と、中にメイド服を着た女性が1人いました。
「よくご無事でジプソフィーラ様、どうぞ中へ」
「あ、はい・・・どうも」
女性はわたしをすばやく中に招き入れ着替えさせてくれます。この方も影の人なのですね。あ~・・・やっぱり人見知りが治りません・・・何を話せばよいやら・・・
着替えが終わると「ありがとうございました」と告げるのがやっとです・・・
その後ニンフェアやプルーニャ、ルカ君を中に入れ、入りきらなかったアレクは仕方なく御者席に座らせることに・・・
アレク、ごめんなさい・・・落ちないように椅子に縛り付けておきますね・・・




