幕間8話:専用道具
「足の具合はどうですか?」
「あ、オルテンシア様。おかげさまで痛みもほとんどありません」
嘘です・・・結構痛いです・・・でもここまで治してくださったのに泣き言は言えません。
「【鑑定10】・・・炎症起こしてますね。痛いのを我慢しなくていいんですよ。痛み止めを注射しておきますね」
「す、すみません・・・」
バレバレです。炎症止めの飲み薬を頂き、足に注射もして頂きました。あ~痛みが引いていきます。
町は火事で全焼ですが、迷宮近くの石造りの建物を掃除してそこを仮の住まいにしています。オルテンシア様とマスターさんが1部屋、わたしとトゥリパーノさんで1部屋でいいですか?と聞かれましたが、まだトゥリパーノとはそーゆー関係でもないし、2部屋用意してもらいました。
「トゥリパーノとマスターさんは?」
「二人は迷宮に潜っています。マスターの戦闘訓練をしてくださるようで」
「二人で大丈夫なのでしょうか?・・・」
戦闘訓練と言ってもトゥリパーノは弓職ですし、マスターさんは剣?を使っていました。教えることができるのでしょうか?
「マスターは戦い方を知らないド素人ですからね、心得だけでも十分助かります」
「ド素人!?かなり強かったですけど・・・」
恩恵も使われていましたし・・・
「レベルだけは無駄に高いですからね」
れべる?とはなんでしょう。何かの恩恵でしょうか?
「怪我していたとはいえ、マスターに触られて嫌ではありませんでしたか?無理やり協力させてしまい申し訳ありません」
オルテンシア様が頭を下げて謝罪されました。わたしはオロオロして頭を上げてもらいました。
「いえ!そんなことは!・・・わたしこそ助けていただいて感謝しております」
勢いよく頭を下げると三つ編みにしている淡いピンクの髪がわたしの目の前に垂れ下がりました。
えっと・・・聞いてもいい流れでしょうか?
「あの・・・オルテンシア様?」
「なんでしょう?」
何と聞けばよいでしょうか・・・
「えっと、オルテンシア様とマスターさんの関係って?・・・聞いてもいいのでしょうか?」
「そのままですけど?わたしのマスターです」
わたしのマスター・・・マスター!?・・・ま、ままま、まさか・・・オルテンシア様は・・・ど、奴隷・・・なのでしょうか?
「ええええええっと!あ、あの・・・アレですか?ご主人様と、あの、ど、どどどど・・・れ」
「わたしはマスターの専用アンドロ・・・う~ん、ど?・・・専用道具?・・・ですかね?」
ど、どどど道具!?奴隷より扱いが酷く聞こえます!!あわわわ、マスターさんは俗にいう鬼畜さん!?なのでしょうか・・・お部屋も自然にご一緒ですし、まさか夜な夜な・・・
「オルテンシア戻ったぞ」
「おかえりなさいませマスター」
「あ、えっと・・・ステッラさん、具合はどうですかね?」
マスターさんに話しかけられ身体がビクッっと跳ねました。
「ひゃ!ひゃいっ!!だ、だだだダイジョブですぅ!!」
不自然な反応にマスターさんが怪訝な顔をされています・・・誰か助けてええええっ!
「ステッラ大丈夫か?」
マスターさんに続いてトゥリパーノが顔を出しました!トゥリパーノが神様に見えます!
「トゥリパーノォ!!」
わたしは思わずトゥリパーノに抱きつきました。
あれ?ステッラさんってこんな感じの人だったっけ?・・・
ステッラさんがトゥリパーノに抱きついている。なんだなんだ?薬が効きすぎてんじゃないのか?チラッとオルテンシアを見るが、オルテンシアの顔にも?っと出ている。トゥリパーノはびっくりして固まってるし、何かあったのかね~?
3日前に迷宮から脱出してステッラさんの手当をし、町の事情を説明した。
疫病で住民が弱り切ったところに魔物の襲撃があり、町は全滅していたこと。かなり危険な疫病だったため、魔物を倒した後浄化のために火を放った事。
事前準備をしていただけにすんなり話を聞いてくれた。町には顔見知りもいたようなので少し複雑な顔をしていたが、事情が事情なだけに納得してくれたようだ。
ステッラさんは「知り合いだけでも」と言ったので、知り合いの家を探し出し遺骨を埋葬するのだった。
3週間後ステッラさんが松葉杖でリハビリを開始した。
あれ以来、地上では魔物との遭遇はない。トゥリパーノに確認したところ、地上には魔物はいないそうだ。それでよく俺の話を信じたなぁ・・・
「オルテンシア様がそう言ったんだ。それなら魔物が現れたんだろう」
だと・・・オルテンシア教の信徒かよ!じゃあ、あの魔物はいったいどこから?
ステッラさんのリハビリに付き合いながら話を聞いてみる。
「ステッラさんも地上で魔物を見たことがないの?」
3週間でステッラさんの混乱も収まったようで、普通に会話できるようになった。
「ありませんね・・・もし迷宮から出てくるのなら、この大陸のすべての迷宮都市が滅びるでしょう・・・」
迷宮都市?
「迷宮ってここだけじゃねえの?」
「ええ、わたしの知る限りこの大陸に5つあるそうです」
そういえばこの大陸とか国とか何も知らねえな・・・
「ステッラさんはこの近くの産まれ?」
「え!?・・・いえ、わたしは別の大陸から来たので・・・あまり詳しくないのです」
別の大陸か、この世界の技術で渡れるくらいだから割と近いのかな?
「そうなんだ」
「マスター・・・様は、どちらからいらしたんですか?」
「異世界から」
「はい?」
ん~、まあそういう反応だよなぁ・・・この世界の人には「異なる世界」なんて概念もないんだろうし。
「この大陸どころかこの世界のことは何にも知らない」
「えっと・・・その割には言葉が通じていますけど・・・」
「そう!それっ!」
「ひっ!」
おっと、驚かせちゃったか。また3週間前みたいになられても困る。落ち着いて落ち着いて~ひっひふぅ~ひっひふぅ~
「俺も不思議なんだよ。なんで言葉が通じるのか・・・」
俺の読んでいた古代文学によれば、異世界で言葉が通じるのはほとんどがスキルの影響だ。○○語スキルとか、言語読解スキルとか、神様がサービスで理解できるようにしてくれたとか・・・
俺は異世界転移する時に神様には会っていない。転生特典はよくあるのに、転移特典はあまり聞かない。今の言葉が通じることが特典なんだろうか?
スキルの影響以外だと、過去に俺の世界からこの世界に来た奴がいて、言葉を広めたか、だ。
その場合はよほど影響力がないと難しいが不可能ではない。
その他で言葉が通じる可能性は・・・
元の世界と同じ世界か・・・似ても似つかないしそれはないな。




