22話:鼻血
「ダメです!アレクさんさっきの部屋に逃げましょう!」
「くそっ!」
「【火炎2】!」
わたしとアレクさんはガーゴイル部屋から出て地下5階への階段を目指しています。まだいくらも移動していないのですが曲がり角でネズミの魔物と遭遇しました。ネズミと言っても四つん這い状態で高さ1mほどあります。プルーニャさんがここまでで片手間に何度か倒していた魔物ですが、わたしたちには厳しい相手でした。
アレクさんでも力で押されていたので、ネズミの顔に炎を浴びせてひるんだところで撤退しました。
「くっはぁはぁ!・・・」
「はぁ、はぁ、なんとか逃げ切れましたね。大丈夫ですかアレクさん?」
「はぁ、はぁ・・・すまない・・・」
「これでは5階に行くどころか上に逃げることもできませんね・・・」
詰んでいます・・・食料は残り5日分・・・わたしの新しい恩恵が水を出せるのでそちらはなんとかなりますが、ガーゴイル部屋から動くことができません。
「・・・”レベル”を上げるしかない・・・悔しいが俺の攻撃じゃ倒せない、魔物は引き付けるからルカ君が倒すんだ」
「わたしの炎でもここの魔物にはあまり効いてないみたいで・・・」
「・・・そうだ、巨大イモリと戦った時に炎で破裂させたことがあったじゃないか。アレはできないかな?」
そういえばあの時カエルに弾き飛ばされて、イモリのお腹に直接手を付けて炎をだしました。いつもは炎を「当てる」意識でしたが体内で発生させれば・・・
「できるかもしれません」
体力を回復させてから再び地下5階への階段を目指します。しばらく歩くと正面からネズミが現れました。先ほどの魔物かもしれません。
「ルカ君やるよ!」
「は、はい!」
「【聖騎士2】発動!」
アレクさんが青白く発光して戦いが始まりました。ネズミは真っすぐアレクさんを目指して突っ込んできます。アレクさんは初めから倒す気はないので剣をもたず、ネズミを捕まえることに専念しています。アレクさんもガーゴイルを倒してから”レベル”が上がっているようで、両手で捕まえるとなんとかネズミの動きを封じてくれました。
「いまだ!」
「はい!」
わたしはアレクさんの横を通り過ぎネズミの横っ腹に手を付き【火炎2】を使いました。
「【火炎2】!」
ボンッ!キシャアアアアア!!!
アレクさんは力の抜けたネズミを地面に引き倒し腰から抜いたダガーでトドメをさしました。
「はぁはぁ!いけたぞルカ君!」
「やりましたね!」
「この調子でいこう!」
「はい!」
わたし達は調子にのっていました。直後にネズミの断末魔を聞きつけた魔物の群れが来るとは思っていなかったのです。
バササササッ・・・
ん?羽音?後ろを振り向くとわたし目掛けて飛んでくる巨大バッタがいました。
「きゃああああ!」
わたしはとっさのことで反応できず尻もちをついてしまいました。
「ルカ君!くそぉ!【聖騎士2】発動!こっちこいやあああ!」
背後から現れた4匹の巨大バッタはわたしを飛び越し、ロングソードとショートソードを打ち鳴らしたアレクさんに飛び掛かりました。アレクさんは2本の剣を振り回し攻撃しますがバッタの外皮に傷をつけるのがやっとのようです。いけない!わたしがやらないと!
「【火炎2】!【火炎2】!【火炎2】!・・・」
尻もちをついたまま攻撃しますが、3回炎を使った時に頭がくらっとしました。ガーゴイルと戦った時と同じです。どうやらわたしは4回が限界らしく、急いでポケットから魔石を取り出して追加の炎を浴びせました。
いつもと同じように攻撃してしまい2匹にダメージを与えたものの致命傷にはなっていません。
そうだ接近しないと!・・・腰が抜けて立ち上がれません・・・そんな・・・
「ぐあっ!」
「ア、アレクさん!?」
バッタの向こうからアレクさんの悲鳴が聞こえます。助けないと!ポケットの中の魔石がすでになかったので、背嚢をひっくり返し魔石をぶちまけました。急いで魔石を鷲掴みにすると、
「【火炎2】!!」
炎はバッタに届かずわずかに手前でバッタを照らし出します。
「え?」
いつの間にかアレクさんが押されて距離が開き射程外になっていたようです。そんな・・・拘束糸(0回)はガーゴイルとの戦いで使い切ってしまいました。どうすれば・・・
その時わたしに一番近いところにいたバッタが振り返りました。こいつめ!
魔力を抜き取ったカラの魔石をそのバッタに投げつけました。それがバッタの気に障ったのかジャンプしてわたしに飛び掛かってきました。射程内にきた!!
巨大なバッタが迫ってくる絵ずらは恐怖そのものです。アレクさんはこんなことを何度も・・・引き付けて引き付けて・・・今!
「【火炎2】!」
ボンッ!
身体を吹き飛ばすつもりだったのですが、わずかにあせってしまい・・・バッタの頭が吹き飛びました・・・よく考えるとお腹を吹き飛ばしたら上半身が爆風に乗ってわたしに激突していました。頭を攻撃したおかげで下半身はブレーキがかかりその場に墜落・・・結果オーライです!
残り3匹のバッタはっ!?アレクさんの方を見ると地面に倒れている姿が見えました。
「アレクさんっ!!」
アレクさんが死んじゃう!?その時頭の中にある何かのスイッチが、カチッと入りました。
魔石を両手につかむと
「”水よ”!」
わたしの左右に現れた水の塊が槍のようになり猛スピードでバッタに突き刺さりました。倒せてはいないようですがもがき苦しんでいます。もう一発と思いましたが意識が遠のき、座った状態で頭が前に倒れ地面にぶつかりました。その痛みのおかげで目が覚めて顔を起こすと、最後の1匹のバッタが目前に迫っていました。
魔石を拾わないと・・・手が動かない!?・・・ここまでのようです。頑張りましたが、アレクさんを助けられませんでした・・・
「【聖騎士2】!」
ガクンっとバッタの動きが止まりました。この声は!?
しっかりと立ち上がっているアレクさんには怪我らしいものは見えません。”レベルアップ”!?
もがいていた1匹のバッタが事切れたようです。
「ルカ君!今行く!」
アレクさんが走ってきてバッタにロングソードを振り下ろします。何度も剣を振りますがまだバッタを倒せません。わたしがやらないと。手は動きませんでしたがわずかに動く頭で周りを見回し、一つの魔石に目が行きました。これなら届く。わたしは口でぱくっと咥えると。
「”みふよ”・・・」
つたない発音でしたが先ほどと同じ水の槍が現れ、目の前のバッタを下から貫きました。やりました。
アレクさんはもがいていたバッタにトドメをさすと魔石を拾ってわたしの手に握らせてくれました。
ゆっくり魔石から魔力が流れてきて意識がはっきり戻ってきました。
「ルカ君助かったよ」
「アレクさん!よかった!」
思わずアレクさんに抱きつき喜びました。
「ル、ルカ君!?」
「あ、ごめんなさい!」
慌てて身体を離し背の高いアレクさんを見上げた時、赤い悪魔が現れました。
ブッ!
わたしは鼻血を吹いて倒れました。
ルカ君を背負って再びガーゴイル部屋に戻ってきた。今のところ安全なのはここだけだ。
「う、うぅ~ん」
「ルカ君目が覚めたかい?」
「あ、アレクさん・・・!わたし!鼻・・・」
ルカ君の目が覚めてよかった。”スキル”の連発をさせてしまって申し訳ないな。
鼻?ああ、鼻血のことか、疲労をためこみすぎてしまったな・・・
「すまない、たまっていたのにルカ君の身体を気遣ってやれなくて」
「たまって・・・身体・・・ちがうんです!鼻血がでたのはそーゆーことじゃなくて!・・・」
ちがう?何が違うんだろう?ルカ君の欲求がわからない。顔を真っ赤にして怒っている。とにかく謝ろう。
「わかっている俺のせいだ、すまないルカ君を欲求不満にさせてしまって!」
「欲求不満!?えっとえっと、ちがくてですね・・・えっと誤解なんです!・・・」
ルカ君が慌てて後ずさると、
「あっ」
ルカ君が疲労で崩れ落ちそうになった。すかさず手を伸ばし倒れそうなルカ君の腕をつかみ抱き寄せる。
ルカ君の身体が熱い、熱があるじゃないか!頑張りすぎなんだ、無理やりにでも休ませないと。
「もう逃がさないよ。おとなしく寝よう」
「あ、あ、あ、あ、あ、アレクさん!!!ダメえええええええ!!!」
へぶしっ!
俺は気を失った・・・




