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転章 託された白い影

 夕焼けが街の屋根を赤く染めていた。

 ふと足を止めて、私は空を見上げる。


 (……行っちゃった、ね)


 軽口を叩いて、笑って、でも時々、ふと寂しそうな横顔を見せる。

 それが“アスラン”だった。


 けれど——

 その瞳の奥に、決して消えない覚悟の光が宿っていると気づいたとき。

 私はもう、目を逸らせなかった。


 彼が何者かなんて、正直、どうでもよかった。

 王子でも旅人でも、記憶を失った誰かでも。

 私にとっては、今ここにいて、迷いながらも歩き出そうとする——

 そんな彼自身が、ただ大切だった。


 「……ん」


 ふいに足元で動く気配がして、見下ろすと、ふわふわの白い毛並みが揺れていた。

 子犬が、私の足にそっと顔を寄せてくる。


 そのぬくもりに、胸がきゅっとなる。

 まるで、彼の面影が残っているみたいで。


 あのときの、彼の言葉がよみがえる。


 ————————————————


 「……あの子、君に懐いてるみたいだ」


 ベッド脇に座った彼が、子犬の背に手を置きながら、静かにそう言った。


 「私がここを離れたら、きっと寂しがる。けれど……君がいれば、大丈夫だと思うんだ」


 そのときのまなざしは、アスランの軽さではなく、

 ディアル様としての——真摯で、まっすぐな瞳だった。


 「ハルカ。君に、託したい」


 「……いいの?」


 「もちろん。……いや、願わくば、君にしか任せられない」


 私の膝に顔をうずめてきた子犬のぬくもりが、胸に染み入る。

 まるで彼の想いごと、抱きしめているようだった。


 「名前……まだ、つけてないんでしょ?」


 そう尋ねた私に、彼は少しだけ笑って、目を細めた。


 「君が決めてやってくれ」


 「……うん。じゃあ……“スフレ”って、呼んでもいいかな。ふわふわで、甘くて、あったかいから」


 「……ぴったりだ」


 その微笑みに、また胸が苦しくなる。

 きっと、どこかで別れを感じ取っていたから。


 「君になら、安心して任せられる。……スフレも、私も」



 ————————————————

 


 囁くようなその声は、

 夕焼けよりもずっとあたたかくて——

 私は、涙が出そうになるのを、ぎゅっと堪えた。


 

 * * * * * *


 

 ふと、思う。

 

 モブのはずの私なのに、これって……主人公補正?

 ご都合主義すぎる?

 そんなことを考えたりもする。


 それに、いつ終わりが来るのかもわからない。

 

 でも、ひとつだけ言えることがある。


 ゲームじゃなかった——

 実際に“彼ら”と出会えて、動く姿を見て、声を聞いて、

 そして、心に触れることができた。


 痛みや覚悟、孤独や願い。

 画面越しでは気づけなかった想いを、私は今、ちゃんと感じている。

 

 私はこんなふうに、これからもたくさんの人と出会って、

 きっとまた、心を動かされてしまうんだろう。


 それって、いけないこと?


 いいや、違う。

 だって私は、あの頃とはもう違うから。


 かつては、誰かに守られることで精一杯だった私。

 でも今は、誰かと一緒に前を向いて、歩いていきたいと思える。


 “誰に恋するか”じゃなくて、

 “誰と並んで進みたいか”。


 それを決められるのは、私自身なんだって——

 ようやく、そう思えるようになった。


 迷うことも、揺れることもあるだろう。

 でも私は、もう立ち止まらない。


 この気持ちは、誰かのルートじゃない。

 私自身が進む、私だけの物語。


 だから、胸を張って進んでいこう。

 あの日、あの人たちがくれた、すべての“想い”を抱きしめながら。

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