第9話「真実」
9話やってきました!
ほんの一部、いやほとんどの人が楽しみにしていないと思うけど、書きたいから書きました!
甘い部分があったら教えてください。
私の名は天宮蓮奈。私は今なぜかロウタイドで葛原家とお父さん、お母さんから頭を下げられている。どういうこと?ちょっと軽くパニックを起こしている。
「これから話すことは粕男についてだ」
粕男?そうだ!粕男!あいつがこの場にいない!ていうかいつの間にいなくなってるの!私は一気に冷静になれた。
「まず、俺達葛原家は蓮奈ちゃんには偽名を使っていたんだ。爺さんは虎太郎、父さんは鷹司、叔母さんは猫子、俺は豹一郎、美月は美鶴、涼美は雀朱。そして粕男は鹿鴉雄。これである程度は察することができたかな?」
美代子さんが猫子……、そっか!だからキャットというコードネームなんだ!
「分かりました!皆さん名前がコードネームになってる。だからバレないように偽名を使っていたってことなんですね?」
「そういうことだ。つまり、俺達葛原家は全員裏稼業の一家なんだ。といっても婆さんと母さんは違うんだけどな」
「それはどうしてですか?」
「葛原家は愛する者を護るという使命があるんだ。爺さんは婆さんを、父さんは母さんを護ってきた。もちろん今も護っている。これで鹿鴉雄が誰を護っていてそれがどういうことか分かってもらえるだろ?」
その瞬間、私の中に一筋の風が走った。
「そっか、粕男がカラスでずっと私のことを想って護ってきたってことだったんですね……」
「葛原家はもちろん、天宮家も全員が知っていたんだ。蓮奈ちゃんだけが知らなかったことなんだ。だから謝った」
「どうして……、どうして黙ってたんですか!?教えてくれてもよかったじゃないですか!?」
「じゃあ聞くが、あいつは蓮奈ちゃんのためだけではないがたくさんの命を殺めてきた。手を汚してきたんだ。もしそれを蓮奈ちゃんが知ってたらどうしてた?」
「絶対止めてました。私なんかのために手を汚すなって……」
「爺さんも父さんも蓮奈ちゃんの前ではちゃらんぽらんな態度だっただろ?あの姿は昔、真実を知らない婆さんや母さんにもやってたんだ。愛する者を護るために。それを悟らせないために。蓮奈ちゃんを護るためならあいつは何でもやるんだ。その覚悟でこの20年近くやってきたんだよ」
粕男……。今ようやく理解できた。
「私、どうやらその護ってくれていた粕男のことが好き……みたいです」
「だから言ったろう?近からず遠からずってな」
確かにマスターは言っていた。私は無意識の間に私を護ってくれていた粕男に恋をしていたんだ。
「それで?それで今粕男はどうしてるんですか!?」
「今日の天宮商事の襲撃事件があっただろ?あの時カラスはずっと屋上で戦ってたんだよ。葛原家の分家の者とな。そして今、あいつは単身で分家と決着をつけに行っている」
「本来は儂と鷹司も乗り込むつもりだったんじゃ。じゃがな、カラスが全てを背負ってくれたんじゃよ」
「どういうことですか?」
「これは葛原一族の話になるんだが、あいつは一族の掟を守るために全てを背負ったんだ」
「掟って何なんですか?」
「『血の掟』と言ってね、一族同士で殺し合いをしてはいけないというルールが決められているんだ。今回その掟を分家が破った。そうなると分家は一家断絶となってしまう。だけどカラスはそうならないようにあくまで血の掟に従って分家と決着をつけに行くことを俺に告げたんだ。あいつは蓮奈ちゃんだけじゃない。俺達葛原一族、裏社会の全てを護ることを決めたんだ。最強の名に賭けてね」
私は未熟だ。大学を出て社会人として頑張って、そして天宮商事の次期トップになることを目指してきた。それだけでいいと思っていた。でも粕男はもっともっと大きいものを背負っているんだね……。
「それと言い忘れてたけど、なんでロウタイドにいるかっていうと、実はその分家が天宮家と葛原家を襲撃することになってて、おそらくもう襲撃自体は終わったんじゃないかな?多分家はボロボロになっていると思う。だから避難のためにここに連れてきた」
こうやって話を聞いてると本当に何も知らないことだらけ。こういうことをずっと粕男をはじめ、葛原家の皆さんはやってきたのね。
「はー、やっと溜まっていたものを吐き出せたよね!これで蓮奈ちゃんが本当のお姉ちゃんになる日が来るんだ!」
「……蓮奈お姉ちゃんが本当のお姉ちゃん……。鼻血が出そう」
「蓮奈ちゃん、全てを聞いて今どういう気分だい?」
「私は色んな人から支えられて生きてきたってことが分かりました。その中でも粕男が一番私のことを想ってくれていた。だから私もそれに応えたい。だから帰ってきたら粕男ときちんと話をしたいと思っています」
だから粕男……、無事に帰ってきてね。私待ってるから。
※
Side???
蓮奈に全てを打ち明けていたころ、カラスは単身で東原建設が分家のために作ったアジトに乗り込んでいた。蓮奈を護るために。祖父と血を分けた叔祖父一家を護るために。そして裏社会のバランスを保つために。
カラスはトップギアで自分に襲い掛かる敵は「瞬雷」で容赦なく打ちのめしていった。中にはコードネームを持つ葛原分家の者もいたが、そんな相手のことを考えることもなく圧倒的な力でねじ伏せていた。
「つ、強い……」
「あ、あれが……最……強……」
血の掟を破ったため、本来であれば殺されているところだ。しかしカラスは掟を破った証拠を一族に流さないようにヒョウに頼んだ。あくまで血の掟に従って象次郎を圧倒的な力でねじ伏せ降伏させるために全員を殺すことなく戦闘不能にしている。
パン!パン!
カラスの「瞬雷」の着地点に合わせて銃声が鳴った。しかし弾道が見えるカラスはひょいひょいと避けた。
(どうやらそこそこやれる者が現れたってことだね)
「俺の銃を避けるとは……。お前尋常じゃないぞ」
「そう思うなら身を引いた方がいいよ。痛い目を見たくないでしょ?」
「爺さんのところへは行かせない!たとえ勝てないと分かっていても引けない戦いがあるってことは理解できるだろう?」
「そういう言葉は軽々しく使うものじゃないよ。本物の覚悟を持っている人間はそんなこと言わないからね」
パン!カキン!
「へえ、弾を相殺できるぐらいのレベルではあるんだね。やっと一人前ってとこか」
「な、なんだと!相殺できるのはベテランの域だろうが!」
「本家じゃあそれができて一人前なんだよ。僕の妹でもできるよ?じゃあこういうのはできるかい?」
パン!パン!
カラスは一発目を分家の者に。もう一発を明後日の方向に向けて撃った。
カキン!
分家の者は自分を狙う弾は相殺したが、明後日の方向に向けて撃った弾は無視をした。
「うがっ!」
もう一発の弾が分家の者の肩を貫いた。
「覚えておくといい。これが跳弾だよ」
パン!パン!
分家の者のもう片方の肩と右太ももを撃ち抜き、カラスは歩を進めた。
「くっ、くそー!」
分家の者は名を名乗ることもできず、そしてカラスに聞かれることもなく、ただ圧倒的な力に歯が立たなかったことに悔しさを覚えながら痛みに耐えるしかなかった。
再びトップギアで次々と相手を薙ぎ倒しながら最上階にいると思われる叔祖父を目指した。
(よくもまあこんなレベルで血の掟を破ってまで本家を潰そうと挑むなんて愚かなもんだ)
確かに下っ端のレベルもそこらへんの組織と比べれば能力が高いし組織力もある。しかし結局は数で圧倒することしかできないのであって、カラスのような圧倒的な個の力の前では通用しない。
(これじゃあ不動組の連中と変わらないじゃないか……。葛原一族のレベルが落ちているってことだ。一族のレベルの底上げが課題だね)
そんなことを考えられるくらいに差があるとは思ってもいない分家の者達とその下っ端どもを片付けていき、最上階手前の階へ辿り着いた。
「久しぶりだなカラス!まさかここまで一人で来るとは思わなかったぞ!」
「お久しぶりですウルフ。まさかも何もここまでレベルが低いとは思いませんでしたよ」
コードネーム「ウルフ」——葛原幻狼のことである。
「なんだと!?」
「天宮商事を襲撃した時はここまでやるかと思いましたけど、こうやって乗り込んだら結局は数でしかものを言わせないレベルかと思うと情けなくて」
「虚仮にするのもいい加減にしろ!」
「いや、こっちの方こそ虚仮にするなと言いたいです。本家を舐めすぎです」
カラスは刀を鞘に納め、抜刀の構えをとった。
「本家の秘伝を披露してあげましょう。次、目が覚めるときは病院ですからね」
ズバーン!
絶対に見切ることができない神速の居合い抜き「鬼殺し」。刀を抜かずに鞘だけでウルフの持つ刀をも破壊し、左わき腹に強烈な一撃を与え、一瞬にして勝負を終わらせた。
「本来であれば死んで二度と見ることもない必殺の一撃です。見れてよかったですね」
白目を剥いて倒れる従叔父の横を通り過ぎ、最上階へ上がると象次郎——コードネーム「エレファント」がマシンガンを携えて待ち構えていた。
「死ね!カラス!殺してやる!」
ズドドドドドド!
マシンガンをぶっ放し、煙を上げながら打ち続けるエレファント。煙が充満し、部屋の中が見えなくなってもひたすら打ち続ける。
(叔祖父の様子がおかしい。何故こんなにも必死になってるんだ?)
すでにエレファントの背後にいるカラスはその異常さに疑問を感じていた。背後にいることすら気づかない。エレファントであれば背後に存在を感じることなど造作ないはず。
(これはもしや催眠?だとしたら納得がいく。兄ちゃんに頼むしかない)
峰打ちでエレファントを気絶させたカラスはヒョウに電話をかけた。
「兄ちゃん?終わったよ。ただ一点気になることが。うん。叔祖父が催眠にかけられているかもしれない。調べてもらえる?え?蓮奈が大事な話があるって?うん、分かったよ」
※
私は豹一郎さんに粕男から連絡があったので、言伝をお願いしてロウタイドで粕男が来るの待っている。マスターにも引き払ってもらい、今ここは貸し切り状態。
「お~い、蓮奈~!一体どうしたんだ~?」
いつものふざけている粕男がやってきた。
「粕男、いや鹿鴉雄。もうふざける演技はしなくても大丈夫よ。全部、話は聞いた」
一瞬「え?」って顔をしたけど、あの慈愛に満ちた目でこちらを微笑んだ粕男。
「その顔が見たかったの。それが粕男の本性なんでしょ?」
「うん、そうだね。この状態で蓮奈と話すのは初めてだね。この状態が僕の本性というか素の状態だよ」
「粕男と鹿鴉雄、どっちで呼んだ方がいい?」
「鹿鴉雄の方がいいかな。まさか蓮奈に本名で呼ばれる日が来るとは思わなかったよ」
私は鹿鴉雄の胸に飛び込んだ。鹿鴉雄の体はびくともしない。鹿鴉雄は私を受け止めてそっと抱きしめてくれた。
「なんで今まで黙っていたの?私が鹿鴉雄を心配してカラスとしての活動を止めようとすると思ってたから?」
顔を見るために見上げると優しい表情の鹿鴉雄がいた。
「違うよ」
「じゃあ理由を教えてよ?」
「それは蓮奈の問題だからだよ。僕がどうこうできる問題じゃないからね」
「どういうこと?ちゃんと言って!私、ちゃんと覚悟を決めて鹿鴉雄を待ってたの。今の私は自分のことをちゃんと理解できてると思ってる」
「本当に?じゃあちゃんと恋愛について理解できてるの?」
「もちろん!ていうか鹿鴉雄が粕男を演じてて、ややこしくなってただけだからね!」
「どういうこと?」
「私は今みたいにそうやって優しく包み込んでくれる鹿鴉雄が好き。ふざけて演じていた粕男は大嫌いだったけど、ふざけててもちゃんと私を見てくれてたんだなって思うと今は許せるかな。だって他の女の子のことばっかり見てたんだもん。もっと私を見てほしいって思ってた」
「どんな時でもずっと蓮奈のことしか見てないよ。粕男を演じてても蓮奈のことをずっと見てきたよ?信じてもらえないかもしれないけどさ」
鹿鴉雄の抱きしめる力が強くなった。
「君を好きになってから僕はどんなことでも頑張れた。人を殺めるのだって本当はしたくないよ。でも蓮奈が幸せならどんなことだって我慢できた」
「できた?」
「うん、今はもう無理だね。だって蓮奈を離したくないって思ってしまっているんだ。僕みたいな手を汚してしまった人間が言うことではないかもしれないけど、僕が蓮奈を幸せにしたいって思ってしまった。そうしたらもう蓮奈のこと、誰にも渡したくないよ……」
「鹿鴉雄……」
私は鹿鴉雄の背中に手を回してぎゅっと抱き着いた。
「私はずっと天宮家の一人っ子だから跡を継がなきゃって必死だった。でも今は違う。鹿鴉雄といられるなら私、跡を継がなくてもいい!好きって気持ち、こんなすごいんだね。跡継ぎなんてどうでもいいくらい鹿鴉雄のことしか考えられない」
「蓮奈……。ありがとう。じゃあ蓮奈、僕と……」
「待って!ここからは私に言わせて。カラスに依頼したいんだけどいいかな?」
「うん、いいけど何を依頼するの?」
「一生私を幸せにしてほしいって依頼!報酬は私!どう?受けてもらえる?」
「はははっ!いいよ!その依頼、カラスが引き受けた」
「あとね、もう粕男を演じるのは辞めてほしいんだけど、だめ?」
「辞めるのはいいけど、会社ではあのキャラだからね。いきなり素の僕を見たら混乱しちゃうんじゃない?」
「それに関しては私にいい案があるの!それならもう鹿鴉雄が粕男を演じる必要はなくなるよ?」
「その案、聞かせてもらえる?」
「じゃあ耳貸して」
鹿鴉雄が自分の耳元まで私を抱き上げてくれた。私はこそこそと囁いた。こういうのやってみたかったのよね。
「なるほど、それはいい案だけど、蓮奈は覚悟ができてるってことだね?」
「ええそうよ。これまでずっと私を護ってきてくれたんだもん。今度は私が応える番。ずっと一緒にいてね!」
恥ずかしかったけど、私は鹿鴉雄に口づけをした。人生初めてのキス。
「蓮奈、ありがとう。それとごめん。実はこれから2つほど仕事があるんだ。一つは一緒にいても大丈夫だけど、もう一つは手を汚す仕事だから蓮奈には見せたくない。どうする?」
「じゃあ一緒についていく!手を汚す仕事っていうのは鹿鴉雄のこと考えて帰ってくるのを待ってる。それでいい?」
「ああ!それじゃあ一緒に病院まで行こう!」
※
Side???
ここは裏稼業の者達が利用する闇の病院。そこに鹿鴉雄と蓮奈がやってきた。
「おっ!早速カップルでお出ましか。やっとくっついたか。長かったな!」
「本当に長かったよ。まさか僕の恋が叶うなんてと思ってもなかった。それで叔祖父はどうだった?」
左に目をやると意識を失ったエレファントがベッドに横たわっていた。
「お前の言う通り、催眠がかけられていた。幾重にも催眠がかけられていたみたいでな。回復までには時間がかかるみたいだ」
「じゃあ催眠を理由に血の掟の件は回避できそうだね」
「ああ、そうなる。誰がどのようにして催眠をかけたのかは叔祖父が目覚めてからだな」
鹿鴉雄はホッとした。これで葛原の分家が一家断絶せずに済む。そして分家を失うことで裏社会のバランスが崩れるのを防ぐことができたのである。
「分かった。じゃあ僕はこれから東原建設に行ってくるよ」
「ああ、その件だが鹿鴉雄が行く必要はなくなったぞ」
「え?なんで?」
「爺さんと父さんが現役復帰することになってな。早速二人して飛び出していったよ」
「虎太郎さんと鷹司さんだっけ?名前がいっぱいで訳が分からなくなりそう!」
「はははっ!そうだね。蓮奈はしばらく混乱するだろうね。鹿鴉雄も家族だけがいる時はいいけど、他人がいる時は粕男だからね」
「え~!粕男だとあのふざけたイメージがあるから嫌だな~」
「蓮奈ちゃん、それはうちの婆さんも母さんも嫌だけど我慢してるんだ。だから多少は我慢してくれ」
拗ねる蓮奈を慰めながら夜は更けていった。
そして次の日、東原建設の社長が謎の死を遂げたことがニュースで報じられた。しかし、北斗商事、南条開発と同様、真相は闇に葬られることとなるのであった。
次話で第1章は終わりです。
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