1-12.第5の願い キング・オー・サマー
世界中の人々から愛される王、キング。
King・O・Summerとは彼の芸名。
その姿はふくよかで愛くるしく、屈託のない笑顔は好印象であるが、それ以上のものはもたらさない。
職業はコメディ系映画やドラマの端役。
どこにでもいる人のよさそうな男性、それがキングという男の全てだった。
そんな彼が神の座を訪れたのは3分ほど前。
「神様! 願いを決めました! 私のお願いを聞いてくれますか?」
「その問いに答えよう。いいとも、言ってみたまえ」
神の返事にキングはたるんだ腹の肉をポヨポヨさせながら軽いステップで喜びを表現する。
「神様、僕はよく考えてみたんですよ。嫌なプロデューサーを見返してやりたいとか、一度でいいからハードボイルドやアクションヒーローの主役を張りたいとか」
「それが君の願いかね?」
「いやいや、僕は僕自身のことをよく知っています。自分はそんなキャラではありません。誰かが不幸になるような願いは良心が痛みますし。ヒーローなんて役者不足です。僕はみんなから笑われても、それでその人が楽しんでくれればそれでいいんです」
「なるほど、君は善き人であるな」
神の姿は相変わらず光の塊であったが、その声と表情は和んでいるように思えた。
「そんなに褒められると照れちまいます。でもね、僕にだって欲というか願いというか望みはあるんですよ。それこそ世界だって変えてしまうような大望が」
「是非、それを聞かせて欲しい。我はどんな大望でも叶えてみせよう」
「ありがとうございます。それでは願わせて頂きます!」
つま先をピッと立て、左手を胸に一礼をしたのち、願いを叫んだ。
「世界中の人々から愛されるキングになりたい!」
「よろしい! その願いを叶えよう!」
光が広がり、再びキングが目を開いた時、世界は一変していた。
いつもなら、売れ残りのトロピカルピザを割引で買って帰る家路。
誰にも注目を浴びない存在。
それが彼の日常。
だが、今晩は違った。
一歩歩けば、視線を浴び。
二歩歩けば、指をさされ。
三歩も歩けば、拍手喝采、雨あられ!
「キング様だ! キング様がおでましになられたぞ!」
「本当! 生キング様よ! フラッシュクロス!!」
「みんな集まって! 王の凱旋を祝いましょう!!!」
夜のニューヨークにパレードが始まろうとしていた。




