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1-11.ゲームの始まり 湊 藤堂

 おかしい。

 こういった白いクリームをぶっかけられる役はワイやなくて、そこのベッピンさんか百歩譲っても顔のええあんちゃんのはずや。

 藤堂はそう思ったが、ま、ええかと気を取り直した。


「で、ここからが本題や。ワイら3人で手ぇくまへん?」

「条件次第だな」

「どういうこと?」

「言葉のままや。さっき言った通り、願いが叶ったとしても、次以降の願いで台無しにされる可能性があるやろ。それだけやないで、誰かが世界の支配者になりたいみたいなことを願った時、それを無かったことにするためにも”祝福”が必要や」

「わかった! あたしたちの誰かが最後のひとりになればいいのね!」

「そうだな。どこかの誰かが人類全体に害をなすような無体な願いを叶えてしまったら、俺たちで防いだり、元に戻す必要がある」

「なるほど、超絶ピンチの時、奇跡の力で大逆転ってわけね。うん、あたし全人類に誓うわ! もし、この世界が邪悪な者に支配されそうになったり、自分が大ピンチで死にそうな時になったら、『奇跡を起こして』って願うって。えへへ、これなら頭の悪いあたしが良いアイデアを思いつかなくても神様がなんとかしてくれるでしょ」


 天に向かって両手を広げ、地球のみんなに届けとばかりに蜜子は宣言する。


「ま、奇跡で何とかなればええけど、どうしようもない時はそのアイディアもええかもね。で、どうや? あんさんは」


 この”祝福ゲーム”で警戒すべきはこっちやと言わんばかりに、声のトーンを落として藤堂は凛悟へ問いかける。


「協力することに異存はない。だが順番と最後の願いを決めてからだな」

「せやな。それは重要や。ワイの案やけど、最後まで”祝福”を持っておくのはミッコはんで、ワイとあんさんはのどちらかが先かは臨機応変でどうや?」

「あたしが最後!? えへへ~、責任重大だな~」


 まんざらでもなさそうに蜜子は笑う。

 その姿に藤堂はちょろいもんやと思った。


「いいだろう。ただし、緊急回避の時には各々の判断とさせてもらおう」

「ええで、それで」


 ふたりは見つめ合い、軽く笑いを浮かべるが、その心は笑っていない。

 他の祝福者が自分達の利益を脅かす願いを叶えた時、それにどう対処するかは各々のチキンレースだと気付いているから。


「なら、あとはミッコはんが叶える最後の願いやな。金でもええけど、ワイはそんなに金に困っとらんしな」

「藤堂さんはお金持ちなんですか?」

「こう見えても億り人(おくりびと)なんよ」

「なるほど、ご実家が葬儀屋なんだ」


 蜜子の言葉に藤堂の顎が肘からガクンと落ちる。


「ちゃうねん! そっちじゃなか!」

「えー、じゃあ、どっちのなの?」

「蜜子、藤堂の言う億り人(おくりびと)とは株や金融商品で億の財産を築いた人のことだ」

「億!? おっかねもちー!」


 蜜子の羨望のまなざしに藤堂はフフンと胸を張る。


「そうゆうこっちゃ。ここのおごりくらいなんてことなか。ヒルズのセレブたちともお友達とよ」

「いいなー、あたしもお友達になりたーい」

「よかよ、よかよ、ミッコはんみたいにカワイイJKは大歓迎や」

「ダメだ蜜子。お前には似合わない。騙されるのがオチだ。それより話を元に戻すぞ」


 ”祝福ゲーム”の本筋から脱線しそうな気配を感じ、凛悟は軽く咳晴らしをする。

 

「最後に蜜子が願うことだが、『俺たち3人に幸福に満ち溢れた人生を』というのはどうだ? 金も悪くはないが、要らぬトラブルに巻き込まれる可能性がある。この願いなら俺たちは幸福に人生を送ることが出来る」

「センパイ冴えてるっ! そうよね、お金があってもトラブルは嫌よね。ねぇ、藤堂さんもそれでいいでしょ」

「ええで、妥当な所や」


 藤堂の見立てでは蜜子は少しチョロい感じがするが、悪い女ではない。

 首尾よく、蜜子が最後のひとりになったとして、その願いを反故(ほご)にすることはないだろう。

 藤堂が間をおかず賛成したのは、自分の幸せが約束されているのに、そこから藤堂だけをのけ者にして悦に入るような女ではないという判断からだった。

 なによりも藤堂の内心には次の一手があった。

 ふたりには秘密の一手が。


「……あれ? でも?」

「どうした?」


 少し考える素振りを見せた蜜子に凛悟が尋ねる。

 

「センパイ、センパイの最初の考えに戻っちゃうんだけど、こうすればいいんじゃない!? 『あたし以外の祝福者全員から、この祝福の権利を奪い取って!』って願えば!」


 あかん、この娘はチョロいんじゃなくって、アホの子や。

 かわええけど、あかん、思考が小学生や。

 短慮(たんりょ)としか言いようがない蜜子のアイディアに藤堂はさっきまでの甘い考えを捨てた。

 隣では凛悟も同じように険しい顔をしていた。


「止めろ! 死ぬ気か!」

「やめとき! しぬで!」


 ふたりの剣幕に蜜子は「ふぇぇ」と涙目を浮かべた。


「どうして? なんでおこられるの? センパイ、あたし間違えてませんよね。あの暗い所で神様みたいなひとが言ったのは『祝福を誰かに渡すという願いは、”渡す”と”誰かの願いを叶える”になっちゃって、叶える願いの総数が増えるからダメって言ってたよね」

「その通りだ」

「じゃあ、あたしの『みんなから”祝福”を奪って!』てのは成り立つわよね」

「ああ」

「じゃあどうして? どうしてあたしが死ぬの?」

「答えはシンプルだ」

「言ったれ、あんちゃん。このアホ可愛い嬢ちゃんにデスゲームの何たるかを教えちゃれ」

「あー、あたし良く言われる。ミッコちゃんって天然よねって」

 

 藤堂の『アホ可愛い』を天然系カワイ子ちゃんだと勝手好意的に解釈し、蜜子は少し気を取り戻す。


「もし、1番目から4番目の願いのどれかに『これからの願いが誰かの死を望んだり、己の欲望に満ちた犯罪行為に類するものであったら、その”祝福者”が願いを言い終わる前にその命を奪ってくれ』というのがあったらどうなる?」

「理解しました。あたしは死ぬ」

「せやな、この数字が24ならミッコはんの願いで勝ちや。でも今は20や。リスクが高すぎや」

「で、でも、そんな願いを言う人っている? 自分がなーんにも得しないのに」

「蜜子、人はそう捨てたものじゃない。俺も同じことを一瞬考えた。こう願っておけば、悪人は次々と死んで権利が移動し、善良な願いしか叶わなくなるからな。そして無欲そうな人物もあの場に居合わせた」

「シスターの姉ちゃんにばあさんやな。特に『願いを渡せるか?』って言ってたばあさんは言いかねん」


 あの座での出来事を思い出し、蜜子はなるほどと手をポンと叩く。


「だからセンパイはお金じゃなく『幸せな人生』って言ってたのね」

「そう、既に4つの願いが叶えられている。欲のある人間ならじっくり考えるだろうが、この早さは無欲な者の可能性が高い」

「せやから、願いは慎重に考えんといけん」

「そうね! キング様がどんな物が欲しいか、ちゃんと考えないと! いっしょにがんばりましょ!」

「うむ! ひとりよがりになってはいけないな!」

「せや! まずは”祝福”を使わずとも出来ることから始めよか。キング様ファンクラブの立ち上げや!」


 店の外からキング様を(たた)える声が響き渡る。


 「「「「「愛すべきみんなの王! その名はキング様!」」」」」


 と。


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