(24)4日目、ジニア兄様
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クリソベリル・ジニア 第4王子とのお話です。
「_おはよう、ルピナス。」
「………。」
「朝_というより、もうすぐお昼だよ?」
「………?」
「うん。」
「………っ。」
ガバッと起き上がり、メニールはカーテンの開けてある窓の外を見た。確かに西に太陽が…しかしこの景色は東…?
「……夕方?」
「ここは反対の棟だから、お昼前だよ。」
「……お、はよう、ございます。」
朝からキラキラとした笑顔の人に、メニールは少し後ずさった。何故なら_
「ジニア兄様_。」
一番、年の近い兄が目の前にいたからだった__。
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「…ジニア兄様が一番お父様に似ていらっしゃいますね。」
「…心外だよ。どこが似ているの?」
額にシワを寄せるジニアに、メニールは小首を傾げて言う。
「朝、いきなり部屋に入り込むところですかね。」
「…。」
王のこれまでの行動を知っているのか、ジニアのシワはさらに深くなった。
どうやら心当たりがあるようだ。
「お昼ももうすぐだし、一緒にお昼ご飯作らない?」
「え、でも…」
メニールは約束していた。お昼は自分で手作りする、と。
しかしジニアは分かっていたかのように、にこりと頷いた。
「一緒に作るのも、ボクの過ごし方だよ。」
そう言うと、メニールを引き連れて台所に立ち、包丁でリズムよく野菜を切り始める。
「持ち運びやすい料理にして、温室で食べようか。」
「はい。…ところで、香辛料はどこですか?」
調味料の場所にはなく、手が右往左往しているメニールに、ジニアは苦笑して、
「あー、うん。後で説明するから、とりあえず作っちゃって。」
「はい…。」
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温室のテーブルにテーブルクロス代わりの布を敷き、作った食事を並べると、ジニアはメニールを椅子へエスコートした後、席に着き手を合わせた。
「ジニア兄様、それは…?」
「翡翠の故郷で、食事前の挨拶らしいよ。」
「……。」
何かに反応したメニールだが、動揺を悟られまいとジニアを見よう見まねで手を合わせる。
「_いただきます。」
「い、いただきます…?」
食事を始めるとさっそくジニアは料理中、後回しにしていた話題を持ち出した。
「香辛料のことだけど…。あれ全部、毒を中和させるためのものばかりでしょ?」
「そう、です。何故お分かりに?」
「一応、ボクは研究者だからね。ここの温室はボクの仕事場でもあるんだよ。」
そう言われ、メニールは周りを見渡した。
よく見ればどれもここでは見られない薬草ばかりが並んでいる。全て毒物を中和したり、治療できるものだ。
「ボクの仕事は薬の開発。ボクはそのためにいるんだし、そのために王子でいるんだ。また、同じような被害者を出さないためにも、ね。」
毒、王子、被害者、に結び着くのはメニールが知っている中で一人しか思い浮かばない。
「キース様の、二の舞にならないため…ですか。」
「メニールだってそうでしょう?毒をいつも警戒して香辛料の強いものを食べている。」
お茶会や晩餐の前後には、中和剤代わりの香辛料を口に含んでいたことを、ジニアは知っている。
ラナンや王にも聞いていたが、メニールの作った食事は香辛料の効いたものだったらしい。
「でも、大丈夫。」
「え…?」
ジニアはにっこりと笑うと席を立ち、背後にあった棚に手を掛けた。そこには沢山のビンがところ狭しと並んでいる。
「新しい毒が作られない限り、この緩和剤で治せるから。翡翠の時のことを考慮して作ったんだ。」
からからと笑ったジニアだったが、途端に笑みを消して俯いた。
「ジニア、兄様…?」
「__ごめん、ちょっと嘘。」
苦笑するジニアの表情は何か隠すように何処か暗いものだ。
「ボクの、名前の由来……話してもいい…?」
「…はい。聞きたいです。」
ジニアは困ったかのような笑みをこぼすと、メニールから離れて杖を何処からか取り出した。
腕から手首くらいまでの短い杖だが、柄は握りやすいようになっていて、先っぽにいくほど太く反対は逆に鋭く細い。太い方には、クリソベリル_ジニアの宝石が美しく光輝いている。
メニールはそれに似たものを見たことがあった。
「これはボクの杖。ルピナスは知ってるよね?
_杖は魔法使い最高位の証、って。」
「それが、ジニア兄様の名前の由来…?」
「正確にいえば、これも名前の証。」
そう言うと、ジニアは杖を振った。
それは幻影の魔法で、幼い子供が映しだされる。
「これは、ボクが10才の時のお話だよ。」
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~ジニアside~
僕は色々と周りの都合によって、10才が初めての宝石の選定の儀式だった。
『クリソベリル…。』
『かあさま?』
『あなた…この子に希望を持たせましょう。』
『そう、だな。__ジニア。お前の名前はジニアだ。第4王子として良く国に励みなさい。』
『…?はい…。』
この時から、始まったんだ。ボクはルピナスが戻って来るためのいわば守り石みたいな役目だったんだよ。
『弱い父で…すまない。ルピナスさえ連れ戻すことが出来れば…っ!』
『とうさまは、悪くないのです。』
後にお父様はボクにおっしゃった。また、お前も犠牲者なのだ。犠牲者にしてしまった、と。
『ジニア…ルピナスが早く帰って来るように、魔法を勉強しましょうね。』
お母様はいつもルピナス、ルピナス、と何かことあるごとに言ってた。6才の時に一度しか見ていないたった一人の妹に、早く会いたいとボクも一生懸命頑張ったんだ。
『まぁ!ジニアは天才ね。』
お母様がボクは大好きだった。
褒められるのが嬉しくって、何でもやった。
『ジニア、辛いならやめていいんだぞ。』
『そうだよー。』
『…ボク、お母様が大好きだから、今のままでいいんだ。』
『_何かあればすぐに助けるからな。頼れよ。』
ラナン兄上だけボクの考えを尊重してくれていて、その時はとても助かったよ。ボクは勉強を苦と思うほど勉強嫌いではなかったから。
でも、いつからか気付いてしまった。
お母様が一番好きなのはルピナスで、ボクはその次にすぎないって…。お母様はボク達に愛情をくれるけど、ルピナスへの愛情はもっと何かが違う気がする。
ボクはそれが欲しかった。
最上級魔法を使えた時。
『お母様、見てください!』
『まぁ、すごいわね。』
成績でオール満点を取った時。
『お母様、一番ばっかりです!』
『ジニアは頑張りやさんね。偉いわ。』
国の一番になった時。
『お母様!魔法使いの一番に立てました!』
『まぁ!ジニアは私の自慢の息子ね。』
そんな中、一番褒められたのが毒薬の中和剤だった。
『お母様…!!ボク、やりました!』
『っ…ジニア、あなたは本当に自慢の息子。あなたが生まれてきてくれたことによって、救われる命が沢山増えたわ…。
いつもありがとう…。お母様が弱いばっかりに、あなたに負担や重石をかけてしまって…。大好きよ、私の愛し子_。』
『っ……!!』
たとえ、ボクの存在が利用されていようとかまわない。
だからボクはこの地位にいるんだ。
「クリソベリルの石言葉には、希望、守護、許し、聡明というものがあるんだ。
そして__ジニアの花言葉は、不在の友をおもう、注意を怠るな。
翡翠の故郷では《百日草》とも言うらしいよ。名前の通り、花が咲き誇る時間が長いらしい。長く生きられますように…ってね。」
きっとこれはルピナスへの思いだと思うけれど…
ボクの大切な名前。お母様が希望を込めてつけたボクの証。
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「__ということで、この中和剤達はボクの私利私欲のために作られたものだよ。どう?」
「…素晴らしい、です。」
「そうだろう、そうだろう。こんな不純な気持ちで作った薬なんて不誠実…………へ?」
まぬけな顔をしたジニアは、疑いの目でメニールを見ている。メニールはそれを見て、にっこりと笑う。
「私利私欲だって何だって、ジニア兄様は人の役に立つことを沢山成し遂げていらっしゃるのですよ?素晴らしいことこの上無いではないですか!?」
「…沢山の、人…」
メニールの言葉で思い出した。母_王妃の言葉を。
『救われる命が沢山増えたわ…。』
ジニアは母のためだけに今までを生きてきた。
自分が沢山の命を救っているだなんて思ってもいなかった。
自分が未熟だったばかりにキースは毒で亡くなったのだ。
母を泣かせてしまったことに、何故あの時思い付かなかったのかと何度、後悔を重ねたことか……。
『お母様…泣かないで……っ。』
植物に囲まれ、隔離されたこの温室で手を震わせながら作るものは、あの時欲しかった毒薬の中和剤。
何でも出来るのに、いつも遅く、母を泣かせてばかりだ。
この…自分の鈍さが嫌いだった。
『凄いわ。さすがね。』
母だって思ったはずだ。いくら今作ったところであの時なければ意味はなく、死者は戻らない。
ずっと…そう思っているのだろうと怖がっていた。
けれど違ったのだ。
「っ…ありがとう、ルピナス。思い出させてくれて。ボクは忘れていたよ…。いつもお母様は…ボクの頭を優しく…笑顔で撫でてくれることを…。お母様が過去を後悔しないことを…っ。」
「っはい。お母様はきっと、ジニア兄様が大好きですっ。」
「悔しいけど…ルピナスのこともお母様は大好きだよ。明日はめいいっぱい、お母様と楽しんでおいで。」
ジニアの瞳には、嫉妬と羨望とどこか晴れ晴れとした気持ちが映っていた_。
その日の夜__。
コン コンッ
「?はい。」
部屋で新しい研究の資料を読んでいたジニアのもとに、来訪者があった。
「_ジニア、入るわね。」
「っ?!お母様!!」
入って来たのは、目尻を下げて憂いの表情をした王妃。
いきなりの訪問には慣れているが、これが母ともなると格段に違う。
しかも今日は、ルピナスに母への自分の思いを暴露したのだ。顔が合わせずらい。
「どういたしたのですか…?」
「あら、母が子に会うのに理由は必要かしら。」
「…っいえ。」
ジニアの心の中は、嬉しい気持ちでいっぱいだ。
たとえ自分が一番でなくてもいいから、自分が一番大好きなのは母というのは変わらない。
「と、いうのは嘘になるかもしれないわね…。」
「っえ……。」
やはり用事もなければ母は来ないのかと絶望した。
「_今日、温室で偶然聞いてしまったの。」
「?悪い噂でも掴みましたか…。」
「っ違うわ。」
「え…では……っわ!」
言葉が途中で途切れたのは、王妃がジニアを抱き締めたからだ。
ジニアはわけが分からず、首を傾げて母を見た。
「っ……?!」
ジニアの視界に入ったのは、母の頬をつたって流れる涙。
王妃は__泣いていた。
「ごめんなさい…あなたがこんなに悩んでいるなんて、知りもせずに今までいた自分が許せないわ…っ!
ジニアが目の前にいるというのに、いつもルピナス、ルピナスと言ってばかりで、あなたの気持ちも思わずに…。
王族や価値者どころか、母親失格よ…っ!
ダイヤモンド家のことをとやかく言える立場ではなかったわ…。」
つまり、王妃はジニアとメニールの話を聞いてしまったのだ。
しかしそんな事実よりジニアを動揺させたのは母の涙だ。
「お母様…泣かないで、ください…。」
ジニアの声が震えている。
「あぁ、ごめんなさい。みっともないわよね。」
「っ違う!!」
抱き締めていた腕を放した王妃が涙を拭うと、ジニアが顔を上げる。
その瞳には__怒りと喜びと、涙が滲んでいた。
家族の前ではめったに泣き顔を見せることのないジニアは、まるで泣くことを我慢する幼い子供のように、声を圧し殺して泣いている。
そんな息子に王妃はまた、今度は優しく抱き締めた。
「っ……!……」
「ジニア…こんなになるまで、ごめんなさい…。今は、泣いて良いのよ。」
「っ……っ!」
「__今まで、ありがとう。これからも、全ての人達のためによろしく、ね。」
ジニアはしゃっくりが出るのを抑えて、母の瞳をはっきりと見た。
それは、ジニアの大好きな色。
いつも追いかけ、憧れていたもの。
大切な守るべき人。
そんな人のお願いなんて__
「っ喜んで……っ。」
受けざるを得ないではないだろうか__。
ここまでありがとうございます!




