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二度目の夜明けを <第3章スタート>  作者: ret_riever
1章 革命の残り香 *1話〜15話

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新兵

ルッツ16歳。共和国軍の新兵訓練所に入所します。

共和国軍第三訓練所。首都の北に位置する、石壁に囲まれた施設だ。


 門をくぐった瞬間、空気が変わった。ここは学校ではない。人を兵士に作り変える場所だ。


 新兵は五十人ほど。全員が十五歳から十七歳で、男女の比率はおよそ三対一。荷物を抱えて整列した新兵たちの顔は、緊張と期待が入り混じっている。


 エミルが隣にいた。目を輝かせている。この男にとって、ここは夢の入口だ。


「ついに来たな、ルッツ!」


「ああ」


「やるぞ。俺たちで共和国を守るんだ」


 エミルの声には、あの日の教室での亀裂など最初からなかったかのような明るさがあった。同じ道を歩いているという事実が、彼を安心させているのだろう。


 俺はそれに合わせて頷いた。


          ◇


「俺の名はグスタフ・ヘルマン。お前たちの教官だ」


 訓練場の中央に立った男は、五十代の巨漢だった。左頬から顎にかけて古い刀傷が走り、右手の小指がない。革命戦争を最前線で戦い抜いた古参兵であることは、傷跡が証明している。


「お前たちは今日から兵士だ。共和国の剣であり、盾であり、旗だ。革命の先人たちが命を懸けて作ったこの国を、お前たちが守る。その覚悟はあるか」


「はい!」


 五十の声が重なった。俺も声を合わせた。


 グスタフ教官の目が、一瞬だけ俺の上で止まった。何かを見定めるような目だった。


「訓練は三ヶ月。その間に基礎戦闘術、新式魔法(ノイエ)の戦闘運用、部隊行動、野外生存を叩き込む。脱落者は容赦なく落とす。ついてこれない奴は、今のうちに門を出ろ」


 誰も出なかった。


「よし。では始める。まず走れ。訓練場を二十周」


          ◇


 訓練は過酷だった。


 だが前世を含めて四十六年分の人生経験がある俺にとって、きついのは肉体だけだ。精神的には余裕がある。


 前世のコンビニ勤務を思い出す。深夜シフトで八時間立ちっぱなし、翌朝は倉庫のピッキング、午後は配達。体力的には今の訓練と大差ない。違うのは、ここでは体を鍛えることに意味があるという点だ。前世の労働には、自分を成長させるという実感がなかった。


 同期の兵士たちを観察した。


 エミルは最上位グループだ。火系統の魔法に明確な才能があり、体力も技術も抜きん出ている。教官からの評価も高い。


 他にも様々な人間がいた。


 理想を持つ者。「共和国を守りたい」と本気で信じている者。エミルのように革命の家系に生まれ、軍人になることを使命と感じている者たち。


 出世を望む者。軍で功績を上げ、元勲会に近づきたいと考えている野心家。彼らの目は鋭く、計算高い。


 他に選択肢がなかった者。家が貧しく、軍に入れば衣食住が保障されるから来た者。この手の人間の目は、前世のコンビニの同僚とよく似ていた。「ここにいるのは、ここしかなかったからだ」という目。


 俺は三番目に近い。ただし理由が違うだけだ。


 訓練の中で、俺は意図的に目立たなかった。成績は中の上を維持する。上位に入れば注目される。下位に落ちれば脱落の危険がある。真ん中よりやや上。前世の職場で培った「波風を立てずに仕事を覚える」技術が、ここでも機能した。


 日中は新式魔法の戦闘訓練をこなし、夜間に一人で別の訓練をした。


 旧式魔法(アルテ)の技法の組み込みだ。


          ◇


 消灯後の訓練場。月明かりだけが照らす石畳の上で、俺は掌に魔力を集めた。


 新式の火弾(かだん)を放つ。赤い光球が夜空に飛ぶ。


 次に、同じ火弾を旧式の制御法で放つ。魔力の圧縮過程を精密にし、放出の瞬間まで制御を手放さない。


 違いは明白だった。


 新式の火弾は威力があるが、拡散する。五メートル先の的に当たる頃には、魔力が三割ほど散逸している。


 旧式の制御を加えた火弾は、威力はやや落ちるが、散逸がほぼゼロだ。五メートル先でも十メートル先でも、放った瞬間の魔力がそのまま届く。


 遠距離では旧式制御の方が実質的な威力が上になる。


 さらに実験を進めた。新式の圧縮速度で魔力を集め、旧式の精密制御で形を整え、新式の速度で放出する。


 三回に一回は暴発した。二つの術式体系は根本的な設計思想が違うから、無理に組み合わせると矛盾が生じる。


 だが三回に一回は成功した。


 成功した時の火弾は、新式より速く、旧式より強い。どちらの長所も取り込んだ第三の形だ。


 まだ安定しない。実戦で使えるレベルには程遠い。


 だが可能性は見えた。


 レナに教わった旧式の基礎。学校で叩き込まれた新式の実技。この二つを融合させることが、不可能ではないと証明された。


「面白いじゃないか」


 独り言が漏れた。前世では、何かに熱中したことなどなかった。面白いと思える対象がなかった。


 今は、ある。


 月明かりの下で、もう一度掌に魔力を集めた。

勢いに乗って今日中に1章終わりまで行こうと思います

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