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9話 日常は終わりを告げる

また夢を見た。


化け物が父さんの体を貪っている。ボリボリと骨を噛み砕く音が聞こえる。ちぎれた腕に噛みつき、引っ張る。肉がのどを通過する感覚を楽しみ、歓喜の声を漏らす。


一通り楽しむと、その場から立ち去る素振りを見せる。


こちらに背を向け、暗闇に歩いていくその後ろ姿は、人間のものだった。




ピピピピッ、ピピピピッ、ピピ―――ッ。


七時にセットしておいたアラームの電子音が部屋中に響き渡る。


鈍く重たい体を持ち上げ、起き上がり、アラームを止める。


その止めた傷一つない人間の手を見て、昨日のことに思いを巡らす。


初めてのバリアーズのミッション、夏音との再会、非現実的な化け物、その化け物になる俺、そして化け物をバラバラに解体した綾辻さん。


あまりにいろんなことが起きた。化け物に噛みつかれ、命の危機を感じた。あの夜の傷は、化け物から人間に戻った時にはもうなくなっていた。


正直この抱えきれないほどの問題を抱えて学校に行きたくはないが、日常への恋しさから、学校への支度を始めていた。


焼いたパンを食べながら、テレビをつけると、生放送のニュース番組が流れていた。


驚くべきことに、そこにはボンバー藤田が出演していた。昨日の恐怖の出来事など微塵も感じさせない様子で振る舞う姿に一種のプロ根性を感じた。


その姿を見て、自分に気合を入れ直す。


薬を2錠ケースに入れる。毎朝飲んでいたが、発作が起きてからではないと効果がないと昨日身をもって思い知った。


「よし! 行ってきます」


藤田さんに勇気を貰ったことで、父さんの死を聞いてから一番の明るい声が出た。





学校に着くと、綾辻さんの席を確認する。まだ来ていないみたいだ。


その後は、たまに話すくらいの間柄の人に、今日提出の課題を聞かされ、黙々とそれに取り組んでいた。


ホームルームが終わり、一限の準備を始めるが、綾辻さんの姿はまだ見えない。


結局、綾辻さんが登校してきたのは、四限の途中からだった。


「どうした、綾辻にしては珍しいな」


英語担当の小森が、ハンズアップをしながらオーバーに問いかける。


「すみません、朝、体調が優れなかったので病院に行ってました」


ロペスさんの話だと綾辻さんは2m越えのセリオンにタイマンで戦ったらしい。それならば何らかの怪我や後遺症があっても仕方ないと思った。


「一人暮らしが大変なのは分かるけど、連絡はちゃんとしてくれよ」


先生のその言葉に教室中がざわつく。どうやら誰も知らなかったらしい。


その後は綾辻さんも席に着き授業は問題なく進行された。


キーン、コーン、カーンコーン。


四限の授業が終わり、今から昼休みだ。小森が教室を出ると、十数人の生徒が綾辻さんの席に群がる。話題はもちろん一人暮らしについてだ。


俺は俺でバリアーズについて聞きたかったが、今の状況では無理だと判断し、席を立とうとする。


「岩橋君、ちょっといいかな」


そこで声がかけられる。声の主は席の集団から抜け出し、俺の目の前まで移動してきていた綾辻さんだった。


「うぇ、はい」


驚きと、戸惑いで一瞬変な声が出るが、何とか返事をする。


おそらく、教室中の視線が俺たち二人に集まっている。方や学校中のマドンナ、方や友達ゼロの根暗だ。この場で俺に断る権利も勇気もなかった。


「ついて来て」


そう言うと綾辻さんは背を向け教室を後にした。一瞬茫然としていた俺は我に返ると慌ててその背中を追いかけた。


その間クラスメイトのほとんどは俺と同じく茫然として、事の成り行きを見ていた。


俺が教室を出てしばらくすると、突然爆発でも起きたように、静まり返っていた三年二組の教室は騒がしくなった。


廊下の先の綾辻さんの背中を追いながら、俺はその喧噪を聞かないようにすることで現実逃避を繰り返していた。


剛力山(ごうりきざん


NO.33

BRー17


ロペス・レノフィード


NO.25

BRー16

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