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Act.9 イベントをこなしましょう




「さて、授業は全て終わりましたよルシルさん。」

「素が出てますよリナリーさん。」

「令嬢の喋り方って疲れない?偶に私喋ってて笑いそうになるんだけど。自分が気持ち悪くて。」

「あー…まあ言いたい事はわかるかな。私口悪い方だったから。」



 放課後、リナリーと共に裏庭へ集合した。

 さっさと作戦会議をして、リナリーにはディリアスの元に向かってもらわなければ、私もフィリップの足止めが出来なくなってしまう。



「私も素は口悪かったからさー、令嬢の仮面被るの大変で…。」

「リナリーはまだラフめな言葉遣いだからいいじゃん。私完璧令嬢しなきゃいけないとかほんと辛い。」

「よく仮面被れるよね、ルシル。」

「そこは水商売で鍛えた演技力があるしね。人に合わせてキャラ変えるのは余裕よ?」

「おー、凄い。私猫被るくらいしか出来ないや。」

「猫五十匹くらい飼えばいいのに。」

「無理だよ、何言ってんの。それより、私はとりあえずディルのとこに行けばいいんだよね?」



 脱線しまくっていた話をリナリーが引き戻す。


 そう、まずリナリーにディリアスの元へ行ってもらい、初対面のイベントをこなしてもらう。

 その間私はフィリップの元へ行き、フィリップの初対面イベントである鍛錬場での鍛錬を一旦足止めし、ディリアスのイベントが終わる頃に解放する。


 これが今回の作戦。

 ザック様を出し、フィリップのイベントもこなす為の段取りだ。



「うん、それで、その間私がフィリップに用事でも頼めばいいって事。」

「フィル様に何頼むの?」

「そこ。問題はそこ。フィリップにわざわざルシルが頼まなきゃいけない用事ってなんだと思う?」



 フィリップは私達より二つ上の為、校舎自体が違う。

 そして、ルシルは完璧令嬢であるが故に、迷ってしまって…等という言い訳は通用しない。

 つまり、ルシルがわざわざフィリップを呼びに行かなければいけない用事を作らなければ、この作戦自体が無意味なものとなってしまう。



「んー…教えて欲しい事があるとか?」

「フィリップよりも私の方が勉強出来るし、フィリップに教わらなくても私には兄様がいるから不自然。」

「じゃあ…手合わせとか?」

「フィリップは騎士でもない女に剣を向けれる人じゃないでしょ。」

「んんん…なら適当な雑用?」

「雑用…例えば?」

「例えば…重いものを運んでもらうのは?フィル様なら適任だし、ルシルがフィル様に頼むのもおかしくないし!」



 重いもの…重いものか。


 確かにフィリップ自体、卒業したら騎士になるのが決まっているだけあって、体は相当鍛えている。

 重いものを運んでもらうのならば適任だろう。



「いけるかも…周りに使えそうな人がいなかったからフィリップに頼みに来たって事にすればいいわけだし…。」

「でしょ?ならそれでいこう!」

「でも重いものって何がある?」

「えー、大量の本とかじゃない?ってやば、そろそろディルのとこ行かないと!」

「え、ちょ、本にするの?」



 ふと時計を見れば、確かにそろそろ悠長に構えていたらディリアスが帰ってしまう。

 しかし、作戦自体が本決まりしていない。


 慌てて、急いで向かおうとしたリナリーに質問を投げたが、リナリーは走りながら振り返り答えた。



「なんとかなるよ!」



 にっこりと笑い、サムズアップをかましながら走り去ったリナリー。


 なんだろう…逆に物凄く不安になってきた…。





 さて、まずフィリップの元に行かなければ。



 私はフィリップが向かっているであろう鍛錬場に行く。


 鍛錬場は確かあっちだったはず…あ、あのワインレッドの髪は…!



「フィリップ=ライアス。」

「ルシル嬢…!Aクラス所属になられたと聞きました。さすがですね。」

「あら、ありがとう。」



 突然の呼び掛けに、表情は固いままだが、彼は静かに一礼をした。


 ルシルとしては彼とは何度も会っている。

 一応彼は将来王太子の護衛騎士になる予定なので、よくディリアスに付き従っていて、そのお陰で何度も顔を合わせていた。


 それに彼はちゃんと騎士としての誇りを持っているので、私にもちゃんと王太子妃として接してくれる。

 まあそうでなくとも騎士は女性には優しいものだから、どんな女性にも彼は優しいのだけれど。

 ずっと鍛錬やら修行みたいな事を男社会でやってきた人だから、女性と話す時は緊張し過ぎて表情が物凄く固いのは難点だとは思っている。



「セオドアも鼻が高い事でしょう。」

「兄様が?どうかしらね。」



 セオドア=フォン=ローズシェットは、私の兄様でフィリップの友人であり、SWの攻略キャラの最後の一人。

 私より二つ上で、フィリップとは同級生のはず。

 肩より下くらいのきっちりと後ろで束ねた濃い蒼色の髪と海のような蒼い瞳。

 兄様は闇系の魔法は使えない分、氷魔法がずば抜けて上手い。

 その腕前から、既に王国軍魔術師団から声が掛かっている程。


 その事は身内としては鼻が高いんだけれど、素直にそれを誇れないのは幾分兄様が私に対してだけ当たりが強いせいだろう。


 いや、知ってるんですけれどね?

 本当はルシルが大好きで大切にしたいし甘やかしたいし昔みたいに可愛い可愛いってしたいんですよね、でも自分が成人してからは私にとってちゃんとした貴族のお手本となるよう厳しくしなくちゃって義務感に駆られたんですよね?

 そして、今も厳しく当たった後には私の反応が心配で心配で仕方ないんですよね?


 ただ、ゲームでやってる時には可愛いなこのシスコンメガネめ!とか思ってたけど。

 実際自分がやられると辛い!!

 ある日突然優しかった人に、絶対零度の視線で「話はそれだけか?それだけの為に俺を呼び止めたのか?」とか言われてみ?


 ほんとに心が痛いから!!


 あの日の心の痛みは忘れない。

 どんな理由があろうとな!


 当事者からすると意味がわからなさ過ぎるし、最早別人って言われた方が納得出来るくらいの手のひら返し。

 昨日前世を思い出して、私も今の兄様に対して何か変わるかと思ったけど、食事の時に兄様を見てなんも変わらねーなって心が無になりました。



 そんな兄様を思い出して表情が無になったであろう私を見て、フィリップは慌てて話題を変えた。



「そ、それよりもルシル嬢、何かありましたか?」

「ああ…貴方、今から何か予定があるのかしら?」

「いえ…今から日課の鍛錬をしようと思っていた所ですが…。」

「そう、それなら多少開始時刻が遅れても問題は無いわね?」

「え、そう、ですね?」

「なら少し付き合ってくれる?」



 困惑気味のフィリップをそのままに踵を返して、私は歩き出す。

 返事を聞く前に動けば、私の後について来てくれる。

 やっぱり、彼は騎士だから女子供に頼られたら嫌だとは言えないのだ。


 さて、フィリップに頼む用事だが…。

 ここに来るまでに、私はリナリーとした作戦の矛盾に気付いてしまったのだ。



「ルシル嬢、一体何処に?」

「……いいから、黙ってついてきてちょうだい。」

「え?は、はい…。」



 納得がいかないようね。

 まあわざわざ自分のクラスから帰り道でもなんでもない鍛錬場近くまで来ていたのだから、この辺りで私がフィリップを連れて来なければいけないような用事を見付けなければならない。


 一応さっきリナリーと放課後合流した時に決めたのは、本を運んで貰うという用事だったけれど、よくよく考えれば学園の図書は学園の敷地から持ち出しが出来ない。

 学園所有の本には全て魔法が掛けられていて、学園の敷地から出ると自動的に元あった場所に返されるようになっているからだ。


 設定資料集に確かにそんな設定載ってたし、入学式の時に説明をされたような気もする。

 大して聞いてなかったけど。



 …まあ、つまり…フィリップに用事なんて、なんにもなくなってしまった。



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