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探師-異形を追うもの達-  作者: カクマル
一章 探師
2/3

-2-蜘蛛の館

 ミューンの門から出て外れの村まで行くまでの道の途中で山の方へ行くと廃墟の館があった。

 時おり野性動物の溜まり場にもなっている。


『血まみれの踊場』とよばれている廃墟。


 そのワンフロアに彼女は立っていた。

 この屋敷を廃墟に変えた張本人。

 千切った肉をかじりながら外の様子を伺う。

 先日逃してしまった獲物を思い出していた。

 沢山の獲物(にんげん)が集まり顔を隠し踊り明かすお祭りのような事をしていた。

 それはご馳走でしかなかった。

 人間は顔を隠し服装は速く動くのに最適とはいえない服装をしていた。

 服は食ったものを利用して姿は人なら良い。


 獲物を食べるならそれでいけるのだ。

 鍛えた人間なんて砕ける手足の力に牙。

 硬度が高い糸で縛るのもありだ。

 踊る機会を求める獲物にかける言葉は一言。


「私と踊りませんか?」


 目の前にいる獲物は、その連れらしき奴に笑顔を見せながら自慢している‥美味しそうだな。

 閉じてある目も開きそうになった。

 まだ、まだ食べるまで我慢なのだ。


「では踊りましょう、お姉さん」


 獲物の手を取ったなら‥逃がさない。

 踊りは殆どしない。する必要がない。

 部屋の中で空いているスペースへ連れ込んで獲物を見つめていく。食べる所は何処からが良いのか。がっついて食べるか少しずつ削いでいくのか。


「積極的に動きますね。経験がおありで?」


「えぇ‥何度も挑んできたので。」


 私は口角を上げながら彼の手に爪を立て、手を貫いた。獲物は苦痛な表情を見せながら此方を睨んでくる。薄っぺらい感情を向けてくるより、より味が引き立つ強い感情を向けてくるのは良いのだ。溢れ出した血の臭いは強くなり食欲も刺激してくる。まぁまだ数はいる。前菜扱いで良い。


 痛みで暴れた獲物の仮面が落ちた。


「やめろって言ってるだろ!!」


 獲物が私の顔を叩く。

 見た目は人だが中身は違う。

 獲物が不思議に思ったのか疑う目で見ている。

 そして私の着けていた仮面が落ちた。


「美味しそうな方だから‥つい」


 香りを楽しんでいた私は全ての目で見た。


「だから‥タベサセテ」




 思っていた以上に味の良い獲物にであえた私はそのまま屋敷にいた全ての獲物を食べた。

 食べきれていたはずだった。


 食べ終わって満足感に浸っていると隠し部屋のようなものを見つけた。つい先程まで獲物が居たような強い臭いがそこにあった。

 酒瓶が倒れたりしており慌ただしく逃げたのだろう。気づいていれば食べ物が増えたのに。

 惜しいことをしてしまった。


「そろそろご飯の準備かなぁ」


 そろそろ集まりだすであろう獲物を思い涎が溢れて止まらない。変化も解けてきた。


「ご飯、ご飯」



 先程までいた女は何処かに消え、そこに現れていたのは上半身は人、下半身は蜘蛛の6つ目の化物がその場で笑っているのだった。


 ***


 異形は小型の蜘蛛と人が混ざったタイプを複数体仕留めたが本体には未だに近づけてない。

 情報としては仮面舞踏会に誘われたといい消えた人が複数例現れている事。滞在して10日の間に3人。来る前にも4人同じ事例があった。人を襲う回数が多い異形は強くなり進化していく。そろそろ糸口がないと倒せそうにも無いし、本部から何言われるか分からない。



「『血まみれの踊場』よ!!」


 リンとミューンについて調べ回っていた僕たちはこの噂に目をつけた。ここの事件でも舞踏会が行われていたという共通点が見えたのだ。


「廃墟を異点にしてるって事か」


 異形は、この世に現れたら異点をつくる。

 簡単に言えば異形の家みたいなものだ。

 異形の力が増していくと異点が変質し『迷宮』と呼ばれる化物の巣窟となる。

 テントから城に変わるイメージだろうか。


「過去の事例にも近い事件があったし。

  異形が狂気を含み強化されたんだと思う」


 異形は狂気に惹かれると言われる。そして恐怖心や悲しみを成長の糧にするそうだ。先人の考察で書かれた話だ。

 異形が現れる理由は分からない。

 とりあえず一匹いたらまだいるぞ。

 探師をしていたら実感する事だ。異形は似た存在を異界から引き寄せてくる。引き寄せる前に倒さないと‥大量発生する。

 過去にはそれが原因で国が滅びかけたという記録もあるし、過去の文明が消えた理由の有力な説としてもあげられているのだ。


 そして異形を油断させる方法をとらないといけない。今回だと仮面舞踏会という規則を異形は何故か作り狩りをしている。つまり異形を狙うにはその規則に乗っかり探すのが早い。



「つまり私の槍が火を吹くのよ!」


 彼女は紅いドレスを見に纏い紫の仮面をつけこちらに槍を突き付けた。彼女の槍を振り回す癖は残念お嬢様の印象を強くさせる。槍はまだしも火は一般人が異点で生きている事が有るから巻き添えで燃やしましたなんてなったら殺されるのは異形に関わらず自分たちだとわかっていて欲しい。苦情があるのだ。



「槍をしまってね、そろそろ廃墟だから」



 そこには廃墟‥だったはずの建物があった。

 異点と混ざった建物は元の見た目を残すことは少ない。異形の好みに変化させる事が多い。

 そして好みに変化させる力があるのは‥現れて間もない異形ではない確信と表に出てない犠牲者はまだまだ多いという悲しさが生まれた。

 そしてこの異点には一般の参加者が100名近く居た。ミューンから集めたのだろうか‥それとも他の村や町などから集めたのか。

 無関係な人間は逃がすのだろうが探師は異形を探し当て倒さなければいけない。エサが多い方が異形は表に出てくるだろう。この異点で異形をしとめる。恐らく蟲と人が混ざった見た目だろう。


 何処からか音楽が流れ出す。

 躍りの音楽なのだろう。周りの参加者も女性の腰に手を回し速い動きをしたり、リズムなど気にしないとユックリ踊ってるペアも居た。

 リンと数曲踊った後、休憩する事と探索をするためにダンスホールから離れ扉を押した。


「‥閉じ込められてるわね」


 この異点は開きっぱなしでは無かったのか。

 一度にガッツリ食べきる奴なのか。

 外部に連絡とりに定期的に出入りなんてない。

 つまり今回は2人で異形潰すまで帰れない。


  「いつでも戦う準備しなさいよ。

  貴方いつも遅いんだし。」


 リンに返事しようとした時、音楽が止まった。

 白い壁に赤い飛沫が飛び散っていた。

 誰とも踊らず座っていた女性がそこにいた。

 相手の男性とは手を繋いでいた。

 けれど首がそこには無かった。

 彼女の足元に転がっていた。それを舌舐めずりしながら見ていた。美味しそうと呟いた。


 叫び声で溢れた屋敷、そこから逃げようと扉に手をかけた人々とそれを食べていく躍りのパートナーを勤めていた者達‥いや、異形はそこにいた。そして何も言わず体が崩れた人‥いや、よく見たらそれは死体だった。死体を動かしていたのだろうか。食べたにしては傷が少ない。

 人に違和感を与えない数合わせに使った?

 異形が演じるより肉体が人の方が違和感を感じさせづらいと分かってたのだろう。


 相棒(ナキャップ)は変わらず震えるばかり。

 今この瞬間も異形は人を狙い、人肉を食し、人の感情を味わっているのか不気味な笑顔を見せながらまた新たな獲物を探し化物の姿の腕を伸ばし体を貫いてまた笑い、口に運ぶ。


 さぁ覚悟を決めて異形を倒そう。

 探師の使命を果たすために。


 ************



 異形を倒すために『起源』(ルーツ)を人は手にした。



 探師としては正しい。しかしすべての人間が『起源』を異形対策で身につけた訳ではない。

 それはとある何かを信じる強い思いが『起源』へ繋がる事もあれば生きてきた経験から繋がりを持つ事もある。生まれつきという人もいる。



 そして『起源』を人は奇跡とよぶ事もある。



 例え彼女に巨大蜘蛛の足とそれに生えてる刃のような物が向けられ振り抜かれていたとしても平気な表情で槍を使い受け止めていてもそれは不可能やあり得ない現象という訳では無いのだ。可能な事象といえる。


「『戦士』」


 リンは頭上から来た攻撃を槍を掲げて受け止めた。身長が3メートルくらいある異形が込める腕力はかなりの物がある。建物の床は悲鳴をあげるかの様に罅が入り割れていく。


 蜘蛛女-面倒だからそう呼ぶことにした。今現在3体ほど相手をしていたがパワー型は目の前の奴が初めてだ。やはり個体差はあるようだ。


 速さが少ないから連続攻撃の心配は少ないがまともに一撃を受けると吹き飛ばされるかも知れないので攻撃に確り武器の槍をぶつけていく。

 ぶつけていく間にも目の前の敵の数が2体ほど増えていたりもよくするのだがあまり気にせず戦い続ける。個人任務を行って無いからだ。


 今回の任務は頼れる同期がいる。


 再び現れた蜘蛛女。けれどその様子は何処か定まりを持てていない動き、何かに耐えるかの様だ。


「掛かった」


 後ろには同期のガルムと彼の『起源』の特徴とも言えるナキャップが彼の頭に乗っていた。

 彼は補助役(サポーター)だ。

 特にその『起源』が向いているというのが理由で起源の名は『睡魔』だそう。

 異形の力を落とす事も、味方の力を引き上げるのも自由自在…一応幾らか条件、制約はあるらしい。詳しくは未だ聞いてない。


 蜘蛛女が後ろに体を引いたのを見てリンは槍を異形の下半身に突き刺した。腰に挿していた細身の剣を上半身の腕に切りつけ絶ちきった。

 ずり落ちた腕からは血が溢れ、汚い叫びが響く。まだ蜘蛛女が死んでいる訳ではない。


『戦士』に意識を集中しながら突き刺していた槍を引き抜き、体勢を崩した奴の頭に向けて-


 貫く一突き。


 異形の倒れる勢いと突きさす力で頭部を穿ち骨を砕き脳に致命傷ともいえる一撃を。


「力自慢は頑丈で面倒ね」


「リンも馬鹿力あるから頑丈だよ」


「あら‥突くわよ?」


 失言が多いガルムに対しリンは槍を向けた。

 本来異形を前に話をしているのは誉められたものではない。それでもこれだけ余裕を出せるのはガルムが『睡魔』を使い異形の動きを遅くしているからだ。


 ガルムは動かなくなった相手から手持ちのナイフを突き刺し、切る事で命を奪う。


 そして生存者を探し暗示をかける。

 異形の悪意を一身に受け正気を無くしかけている人達の心を救い出す為に。


「睡魔の救心」


 ガルムはそう呟き鞘を揺らしている。

 視線が定まらなかった生存者の視線は鞘に集まり目が虚ろになり瞼も閉じた。


 心が持たない一般人には異形の悪意は酷いダメージを与える物で、救っても自ら死を選ぶ者が一定数現れるのが現状なのだ。

 例え何人も犠牲にして救った生存者もその後に死んでしまったら無駄な死にもなる。

 それを減らすためにも精神保護がいる。

 それを担当する部署もあるのだが彼は能力面で向いているため戦地で施している。


「肝心な奴は‥階段を降りていったな」


 ここの異形の主であろう女は首を落とした死体を連れてダンスホールの外れの扉へ向かった。

 リンは残ってた蜘蛛女を槍で突き刺した後ガルムに向けて一言愚痴った。


「ガルムがアイツも対応してたら追跡なんてする必要なんて無かったのに」


「戦闘担当じゃないから。筋肉達磨ほどの攻撃力なんて無いよ。雀の涙な力だよ。」


 ガルムはここぞとばかり非力のアピールをする。かつて頑張ろうと意気込んだため任務に17連で突っ込まれたのだ。

 自分が希望する任務を選べるまで良い位を取りたいし、何より死にたくないのだ。





 ダンスホールの扉から続く部室。

 縦幅に30メートルある、縦長の部屋だった。

 そこには元々は壁があったのだろうと思われる痕跡と複数の血液跡。

 そして蜘蛛の糸にくくりつけられた人の手足。


 部屋に座り込む小さな影。


 それは追いかけていた異形の女だった。


 170半ばある、人の女なら比較的高めの身長がある彼女がどこか小さく見えた。


「オナカヘッタよ。クワセロヤ」


 彼女の肉体から血が吹き出し体の骨が剥き出しなり、中から異形の本体が現れた。


 さっきの人間の体の長さある爪を8つ生やしていた。今までの異形は上半身は人間という形をしていたが目の前の奴は全身が蜘蛛だった。

 他の異形と違い細部にも違いがあった。

 頭部には材質が違う金属質な装備がある。

 そして背中からは三対の人の腕の形の物が生やしていた。

 横幅は今までより3割増しだ。

 身体から発する熱が凄いのか蒸気が吹き出す。


 赤く目が光るのは人への食欲からか邪魔をする事への怒りが表れているからか。


 殺気がリンとガルムに伝う。

 互いに逆方向へ避けるのは当然だった。

 二人の間には異形が飛び込んでいた。


 全身が筋肉の鎧に覆われたあの蜘蛛は二人にとって予想外の進化だった。

 過去の筋肉系の異形は防御面にも秀でている、リンのメイン武器は全て細身で筋肉の塊を相手にし続けるには耐久性が少々不安が残る。

 ガルムにしても『睡魔』を効かせようにも感情が昂りすぎているものは効果が薄くなる。

 複数のパターンを試さねばならない。

 それでいて確実に攻撃力が高いリンに攻撃が向きすぎないように相手の狙いの的を増やして置かないといけない。異形の怒りと憎しみを買うのも、このパーティーではガルムの仕事だ。

 補助役(サポーター)であり囮役である。




 蜘蛛の爪が足下に振り下ろされる。

 動物、獣だと爪は短い距離で足止めさせる技ともとれる。されど異形の爪とは命に直結する。

 異形は牽制なんてしない。常に必殺なのだ。


 真っ赤に充血した目がリンとガルムへ向けられている。8つの爪がガルムとリンの命を狙う。

 筋肉のバネが強いのか移動する際に身体の重みをみせる事がない異形。


 -無防備な隙間を作りたい。けれどそれを防ぎかねない腕の本数と素早さがある。


 ガルムは伸ばしてくる腕を避け短銃を撃ったが、装甲の硬そうな頭部に当たり、高い音が響くもダメージは殆ど無さそうだ。


 リンはその隙に槍を身体に刺すが硬くて槍を深いところまで刺しきれない。長時間戦いを経験して更なる進化をされると厄介だ。


 身体で一番ダメージがいきそうなのは何処なのだろうかとガルムは考えていた。そして唯一丸出しになっているものが有る事に気づいた。


 - 奴の眼球が狙い目だ ー


 ガルムは討伐の狙い目を定めた。

 しかし眼球をリンに貫いてもらうにも、攻撃範囲的にも問題が残っている。

 眼を狙うにしても体格差が大きく槍を使っても届くか分からない事。何より飛び込んで突き刺すとしても腕で防がれる可能性もあるし無防備に攻撃をくらう可能性が高いのだ。


 死ななきゃ勝てるかもしれない。

 それは逃げ切れるならの話で立ち向かわねば明日が見れない事だって日常茶飯事だ。


 ガルムは補助役(サポーター)だ。


 リンという最大の攻撃を与えねばならない。

 リンから離れた異形は今も視界に捉えて離さないまま戦闘を続けていく。


 ガルムは未だ明日の灯を見ていない。

 リンだって明日を見れていないのだ。


 -()を救い(異形)を殺せー


 今この先を行くために決断の時。


「今から言うことをやって欲しい」


 ガルムは駆けた。

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