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探師-異形を追うもの達-  作者: カクマル
一章 探師
3/3

-3- 決断と祈り

 リン‥リン・グレイス。職業は探師。

 リンの中で探師の印象とは力の象徴だった。

 幾つもの異形を凪ぎ払う戦士だった。


「いいかい、リン。異形の攻撃は脆いんだ。特別な能力が付与されてないなら心配なんて無いんだ。此方に飛んでくるものを振り抜き、打ち返す」


 50代のオールバックにしている神父は鎚を異形に向けて振り下ろす。手元の傷跡は長年の戦いの勲章だと笑って教えてくれた。


 かつて幾つもの迷宮を潰した探師がいた。何人もの人間を死へ突き落とした地獄を武器1つで撲殺し続けた猛者。レオン・ブラーモ神父。

 リンとガルムの師匠である。


『鉄槌』のレオン。


 彼の前に来る異形は進む事叶わず、その一振りは迷宮をも揺るがし砕く。

起源(ルーツ)』から溢れるエネルギーが肉体からも迸り、地面が軽く揺らぎ出すくらいだ。


「異形を倒すのに必要なのは力だけじゃない。

  何が何でも倒しきる執念なんだよ」


 人が繋いだ『起源』は人の想いで強くなる。

 一時的な強化‥火事場の馬鹿力かもしれない。

 その執念は捨ててはならないと教わった。


「お前たちがこの先、どの様な状況に置かれても異形の悪意を受けているのならそれに立ち向かう心を忘れてはいけない。異形の糧になった何人もの人の命、魂がそこにあるからだ。」


 *



「こっちさ、クモヤロー!!」


 ガルムは大声を出し短銃の引き金を引く。

 其が戦いの合図となった。

 ガルムは目の前に来た異形の姿を目に焼き付けるほど凝視した。

 四方八方から繰り出される異形の爪や拳。まともにくらえば骨が軽く折れるであろう連続攻撃、茶色い鞭のようにしなるそれを必至に避け、ナイフを攻撃してくる腕に切りつけ、体には何発かの銃弾を撃ち込んだ。


 ガルムはこれ等の攻撃を受け止めるなんて出来ない。年齢はまだまだ若い探師ではあるが教会で実地訓練を数年行い、空いた探師と模擬戦も多く行ってきた。『起源』で腕力が上がっても太刀打ちはできないだろう。


「『戦士』の力でも段々と槍が刺さりにくくなっていくしっ!一撃も重すぎよっ!!」


 ガルムが銃で意識をずらす間にリンは隙を狙い槍で突いたり振り払うなど連続して仕掛ける。足元やガルムを襲う腕を狙うが僅かに攻撃の速さは変わるが決定打に繋がる物は無かった。


 蜘蛛の異形は改めて知力を見せた。

 これまでだとガルムに釘付けにしていく作戦に掛かってると思えたが今は指令役がガルムと理解した上で攻撃をメインで行うリンを後回しにしているようだ。


 主に狙われているガルムは紙一重ながらも避けつづけている。瞬きすらせずに。

 

 リンはふと考えた。

 教会での体術の評価が極めて低かったガルムは何故ここまで一撃も当たらないのか。


 ガルムの起源は『睡魔』である。

 決して肉体強化の類いではない。

 膨大な殺意を持った攻撃を続けて受けていても笑みを浮かべながら避け続けているのか。


 やはりガルムは格上、相性の悪い異形と戦っていく姿は他の探師とはまた違う。

 補助役(サポーター)は本来戦闘には携わらない。教会内だったり、少なくとも先陣きるぐらいに前衛で戦い続けるなどはしない。


 ガルムを補助役から変更する。そんな日はリンの予想より早く決行出来るかも知れないと嬉しく感じたのだ。


「お前の攻撃はこっから当たらない」


 ガルムは笑いながら、異形へ言い切った。


 床が割れる。腕は再び振り下ろされる。

 異形には基本的に体力の限界がない。

 生きているか死んでいるのか。

 その部位は動かせるのか動かせないのか。

 それだけが基準となっている。

 相手からの攻撃の勢いが落ちていく事は無い。


 一撃を避けながら切りつけていく、ナイフも刃が脆くなり欠けてきている。時おり槍が鈍い音を立て血飛沫が舞う。装備への負荷は大きくあるが肉体へは傷が殆ど無かった。

 リンの攻撃を眼球にぶつけたらダメージがあるだろう。攻撃の度合いの予測がたち始め、何手か先の結末まで予測をしだした。


 されど異形は予測を無意味な物へ変える。


「‥とんだ?」


 次の瞬間ガルムは空中に居た。

 異形の蜘蛛は己の鋼鉄並みの糸で棍棒を作り、ガルムにぶつけた。例え本調子から下げても奴は人の何倍もの力を軽く使いたい放題。


 再び腕が伸ばされた時、リンが腕に槍を刺し地面に刺した。蜘蛛がリンへ意識を向けている間に彼はゆっくりと立ち上がる。

 蜘蛛は棍棒を持ち上に振り上げ構えた。


 ガルムは短銃を構え弾丸が進む。

 弾丸の進む速さは短い時間、されどとても引き延ばされたかのような体感時間だった。

 弾丸は蜘蛛の眼球を3つ貫いていく。


  人の言葉を話さなくなった蜘蛛は怨みを込めたような声で叫んだ。蜘蛛は標敵をガルムへと変えた。リンと比べて明らかな妨害を多く行う、邪魔をする食べ物だと感じているからである。


 その動きは一瞬に思えた。

 蜘蛛の近くに居たリンを殴り飛ばし縮地の如く高速移動でガルムへ近づき鋭い爪で襲う。


 ガルムは斜め前に回避を行ったが脇腹付近へ爪は当たり微かに血が空中に舞う。

 だが怪我をしても止まる事は許されない。


 蜘蛛は既にガルムの上へ飛び上がり息の根を止める事を狙っていた。伸ばされた腕を横目で見ながら掴み脆くなったナイフを関節部分に当てる。


 何時もの切れ味、腕力では到底ナイフの通りは良くないのだが今回は蜘蛛はその肉体を高速移動させているのだ。つまりそこに掛かる力を使えばナイフを深く挿し込む事ができる。


 それは腕の分断に繋がる。


 地面に突き刺さる巨大な腕。

 蜘蛛は何処か現実とは思えなかった。

 圧倒的な力量差。時間が掛かれど難なく仕留め食べるだけ。踊場にくる人間どもと変わらない。


 だが結果としてはどうだろうか。

 眼球は3つ潰され腕も2本使えなくなり内1本は完全に千切れた。


「今だ!リン!!」


 蜘蛛の最大のミスとは怒りで立ち止まった事だろう。立ち止まらずガルムへ執着していれば、リンの事を頭の片隅に入れていれば次の動きが出来た筈だ。


火葬槍(クレマシオンランス)


起源(ルーツ)』は惹き付ける。

 人が人でなくなると共に身に付けていく力は互いを掛け合わせ一時的に変質させる。


 彼女の起源の『火種』『戦士』この2つ。

 戦士を基点にし火種を時間をかけ増幅させる。

 増幅した火を槍に纏わせ戦士で上がった身体能力を使い空を舞う。


 リンは火を纏わせた槍で蜘蛛の後頭部へ撃ち込んだ。


 蜘蛛は目線をリンへ向けていく。

 けれどリンは言葉を続ける事はない。


 再び槍をふるい脳天から突き刺した。


 あれだけ怒りを目に宿していた異形は瞳の力強さが弱くなっていった。しかしその手はリンへと伸ばそうと震えながら空を掴んだ。しかしその手がリンへ届く事はなく地に落ちた。


「ようやく終わりか」


 ガルムはリンへ微笑んだ。


 ****


「ようやく終わりか」


 僕は限界にきていた中で微笑んだ。

 僕には力がない。必要以上に仲間の機嫌を損ねる言葉をかけたら自分の命が危なくなるのだ。


「貴方のおかげよ、囮役と腕をちぎった事と。

  楽になったわ」


  異形相手に四苦八苦していた僕を見て口角を上げていたところは見逃していないんだぞと伝えたかった。


「リンが居たからさ」


 伝える勇気はもてなかった。


「うぅ…殺す、コロス、殺…す」


 脳天も貫いた異形から声がした。

 思わずその場から離れた。


 偉業は少しずつ液体のような物垂れ流しながら人の姿をとった…けれど初めて見た時と違い下半身が異形の形から変わらなかった。


「…食べなきゃ…喰われない…死な、ない。死にたく…」


 人の顔をした異形は片目から涙を流した。

 異形の女は体が溶けだしそこには一回り大きめなペンダント‥その中に三人の人が写った写真が入っていた。


「人は食われても尚、その想いは異形にすら留まるんだ」


 その異形と写真の中にいる女性は同じ顔だった。

 その顔はどこか笑顔に見えた。


 …僕は貴女を救うことができましたか?


「貴女の先に苦難が無いことを」


 僕とリンは片手を握りしめ目の前にだし、目を閉じ祈った。


「さぁ…今度こそ帰ろうか」





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