07《Amazanと書いてライフライン》
それからの二週間は早かった。
増殖に関してはほぼ予想通り。基本的に例外なく物は増えるが例の地震の際に存在した物以外は増えない。紙幣も全く同じ物が増える。少し動かす程度では増えず最低でも室外に出さなければならない。そしてガレージは効果の適用外。夜間に俺が宅内に居ないと現象は起こらない。こんなところだ。
このアドバンテージを生かして当面は外部の倉庫やガレージにシェルターの備蓄物を移動させ続け、少しずつ増やし続ける事になる。
次に大きな進展が有ったのは晴彦からだった。加工済みの金属だけでなく岩盤や地中から金属の抽出が出来るようになったそうだ。既に家から少し離れた岩盤露出地帯で様々な金属を抽出し、建築用の金物や道具を作成して役立てている。
魔法に関しては各自練習の結果、使いすぎると倦怠感や目眩を伴う事が判明。各自の自己判断に頼るが、限界近くまで使うのは厳禁とした。
夏美の魔法指導は俺が担当し、あっさり習得は出来たが問題点が浮上した。夏美の魔力は強過ぎる様で初期の火球を作る訓練中に取り囲むの森の一部分が大きく炭になった。消費は大きかったと思うが、倦怠感すら感じないそうで、本人曰く「力を込めたつもりは無い」と言っていた。周囲への影響が凄いので火関連の魔法は禁止とし、当面は魔法を一番器用に扱う晴彦の元で水を出して岩盤の泥を流すなど手伝いさせ、匙加減を覚える訓練とした。
そして何より最大のニュースは”特定の人物のみ”だが地球と連絡が取れ、荷物も受け取れたことだろう。事の始まりは夏美が敷地を掃除していた時に外壁門に設置してある宅配ボックスから出してきたダンボールだった。側面に『amazan』と記載された箱は見慣れたもので、中身も予約注文していた俺の趣味の一つである模型の組立てキット、と珍しくはないが……伝票の”お届け日”が転移後の日付になっていたのだ。
宅配ボックスとは不在時に宅配物を受け取っておく便利なロッカーのような物だ。家の外壁に埋め込む用に設置してあるそれは、エクステリアメーカーに特注したもので、内寸は縦1600mm横800mm奥行800mmという大きな物だ。家の外に出ず引き篭もり的な生活を送っていた俺に取っては無くてはならない物だった。
これまで電気や水道等のインフラが使用可能な状態を喜び、ある意味満足してしまっていたのと、携帯電話が使えない事から通信は無理だろうと勝手に諦めていたのだ。寝室やPCルームのパソコンを全て起動してみるとネットワークには一切繋がらないものの、地震発生直前からそのままの形で放置していたPCルームのデスクトップ一台のみ、そのままメールを送信出来たのだ。
地震直前にメールを送ろうとしていた人物は『木村』と呼んでいる人物。数時間掛けてアドレス全て試したが送信を確認できたのは木村だけだ。
木村は真明が時折連絡を取る人物で、法外な料金と引換に合法非合法問わず物品を入荷出来るフリーのバイヤーだ。携帯電話を頻繁に変えている為、連絡が着かないタイミングも多く、今回連絡が取れたのはまさに僥倖、天の助けと言っても良い。
木村に今使っているアドレスを破棄しないように頼むと不審がられ、無理だと一度断られたものの、俺がアドレスを言い値で買い取るという事で話を付けて連絡手段の確保が出来た。何度かメールのやり取り後に実際に荷物を受け取ってからこの世界に荷物を取り寄せる事が可能だと確信できた。決済もどうにかして俺の口座から引き落とす形を取ってくれるようだ。
それからは数日ごとに発注を繰り返し、各人からの様々なリクエスト品を発注、それが落ち着いてからは、書籍、それも様々なジャンルの書物を依頼し続けた。
よく見かけるサバイバル教本に始まり、『家庭の医学』、『食べられる野草』等の本から、冶金学、農業技術、建築、土木、食料保存術に動植物学、医学書等の専門書まで。参考になるかと怪しげな錬金術、魔法史の古い書物までもを文字通り買い漁った。
二階の広いフリースペースの壁には獅冬により壁全周に書棚が作り付けられ、今はありとあらゆる分野の書籍が収められている。小さな町の個人書店より蔵書数は多いだろう。
いつ迄もこの不思議な状態が続くとは限らないのだ。貯められる内に可能な限り貯めておくべきだ。
こうして、俺達四人は異世界での生活基盤を築く為に順調に歩き出した。