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49《美味しいパンは小麦粉から》

「で、此処は俺が管理すれば良いんだな」


 完成したばかりの水車小屋を背景にインラウスが言う。


「あぁそうだ、燻製作りを行なっている者達を交代で割り当ててくれ」


「燻製班? 兄貴知らないのか? 最近の燻製班は、ナツミ様が半殺しで持ち帰ったバジリコックとシシューヴァの繁殖計画で皆忙しくしてるんだ、多分これ以上は厳しいんじゃないか?」


「そうだったのか。それにしても……半殺し……」


 夏美からは、食用の魔物を生きたまま捕獲したので飼育して増やす。としか聞いていない。


 バジリコックは鶏冠の無い大きな鶏、シシューヴァは小型化したバイソンに近い。

 厳密にはどちらも魔物らしいが、比較的大人しくて肉も旨い。他の国では知らないが、飼い馴らせれば重要な食料源になるだろう。


 防壁から離れれば、領土内にはまだ様々な魔物が生息しているが、食用に適するものは少ない。以前バイコーンと呼ばれる二本の角が生えた馬の様な魔物を食べてみたが、肉は固く筋張っており、気性も荒い為、全く食用には向いていなかった。



 水車小屋を建てた理由。

 それは、当然の事だが、人数が増えた分だけ食料消費が以前と比べて爆発的に増加したからだ。



 難民達が押し寄せた当初、配布する食料は倉庫に備蓄していた小麦粉とアルファ米で賄っており、今もまだ備蓄には余裕が有るが、今後の事を考えても国内の畑で生産出来る『小麦』を主食に切り替えたいと前々から考えていた。


 だが、今まで製粉に使っていたのは、小さな石臼に、回転運動起こす魔道具を無理やり取り付けただけの物で、挽き出される小麦の味に不満は無いものの、時間辺りの効率は悪く、それもたった二台しか無い。とてもではないが消費量に製粉が追い付かないのだ。


 そこで魔力が無い人間でも簡単に扱える、製粉機を作ろうと言う事になった。


 採用した動力はやはり水力。選択した水車は中射式と呼ばれる形式の物で、少ない水量で比較的大きなトルクが得られるらしい。獅冬も、さすがに水車の構造までは知識が無いらしく、俺と獅冬は頭痛がするまで資料を読み漁り検討を重ねた。


 完成した水車小屋は、約2m程、土を盛って地面を底上げした上に建てられ、水路の始点には水栓魔道具が設置しされている。魔道具から湧き出る水は、水車小屋の横で、盛土をすべり台の様に滑らかに繰り抜かれた水路を勢い良く滑り流れ、その過程で水車を回す。水車を真横から見て、時計で言えば三時から六時の位置に滑り落ちる水で水車を回すという構造だ。


 水車の芯棒とそれを受ける軸受、小屋内部の歯車だけは摩耗を考慮してミスリルを混ぜた金属製だが、他は全て周辺の森から切り出したレッドシダーに似た木材で作製された。

 農業用水路と同じ様に内側をステンレスの鋼板で舗装されている動力用水路は、水車小屋から離れた時点で水の流れを緩やかにする為、幅を1.8mと広く取っており、手すりの付いた木製の橋が数カ所に架けられている。最後は水を無駄なく利用する為、農業用水路の上流に接続されている。


 苦労したのは、臼の回転速度だ。石臼には最適な回転速度が有るらしく、速度を調整する為に何度も歯車を取り替えての試行錯誤を繰り返さなければならなかった。


 コルベットやラフトのホバー機構に使用されている風力を生み出すを魔道具を転用して、小麦殻を吹き飛ばす機構を組込んで完成した新しい大きな碾き臼から出る小麦粉は、今までの物より格段に粒子が細かく、水に溶かして見ても既存の小麦粉より不純物が少ない物で、図らずも品質まで大きく向上した。


 時間辺りの製粉量も飛躍的に増えた事で、安心して主食を小麦に切り替えれる。

 勿論溜まってゆく小麦殻は堆肥の原料として畑に運ばれ全て使用する。近いうちにもう一棟は水車小屋を建てたいが今はこれで十分だろう。生産量と味、どちらも向上したお陰で、心置きなく料理に多用出来る。



「中身を入れ替える時以外は見てるだけで良いんだろ? いざとなったら俺が手の開いてる奴を集めてなんとかするから、兄貴は心配するな」


「そうか、助かる。…………インラウス、その、兄貴と言うのはなんなんだ」


「はぁ? 何を言っているんだ? 妹のリアを預けたんだ! 俺が兄貴を兄貴と呼ぶのは当たり前だろう!!」


「そ、そうなの……か?」


 リアマーラ以前に、他の女性とも何もないが、これ以上は藪蛇になりそうだ、そっとしておこう。



 話の矛先を変える為「たまには役場に顔を出そう」とインラウスを連れて水車小屋を離れた時、ポケットのPHSが振動している事に気付いた。

 表示は夏美。液晶近くのLEDも”留守番メッセージ有り”を示す色が点滅している。

 水車小屋付近では水音や歯車の振動音が激しく、気が付かなかった様だ。



「夏美、生き物を捕まえる時はもう少し優し……」


『真明さん! そんな事より直ぐに戻って下さい! 皆も集まって来てますから!』


 隣を見るとインラウスも慣れない様子で誰かと通話している。


 強張った夏美の声に、とっさにインラウスの肩を掴んで、自宅に向けて方向転換させると早足で歩き出す。


「まず落ち着け、夏美。今インラウスと向かっている……何があった。」


『人です! 今さっきグスタブさんから連絡あって! 正門の近くにサイラークからの使者? が手紙を置いていったって!!』


 事態は緩やかに動き出す。





ご感想お待ちしております。


タイトルが長いと言う御意見を頂きました。

良い略称を思い付かれたら是非、御一報頂ければ嬉しいです。

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