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04《研究バカと熊ヤクザ》



 『熊ヤクザ。』


 晴彦が獅冬と名乗る男を見て初め抱いた感想だ。もっとも怖くて口にしてはいないが。


 晴彦は共同研究を行なっている義体メーカーの研究所から自分の家……施設に帰る途中に大きな揺れを感じた。右足は自らの手で製作した高性能な筋電義足だが、強烈な揺れに耐えられず転倒。気が付くと大樹の根元に倒れていた。


 若干十六歳にして義体技術関連の特許を複数取得、メーカーの研究者と対等に共同開発を行う頭脳があってもこの状況は理解できない。


 立ち上がると右脚の人工義体は頗る調子が良い、というか良すぎて違和感を覚える程に歩きやすい。


 木々を軽快に避けながら歩きまわっていると車を見つけた。樹木に斜めに突っ込んでおり、歪んだボンネットからシューと蒸気が出続けている。慌てて近づくと初老の運転手は気絶しているようで息はしているが意識はない。


「大丈夫っすかー! なんか爆発するっぽいっすよー!!」


 と叫びながらを男を車外に出そうとするが扉が大きく歪んでいて開かない。


「ん……ぐぅ頭痛ってぇ……、あーあ、事故っちまったか。ん……?」


「オッサン!! 早く出たほうがいいっすよ! 煙出てるし、ガソリン臭いし!」


「おぉおお! ふんっ! ふんーーっ!! あーこりゃ……ダメだわ。足挟まれてるしドアも開かねぇ。 ありがとよ、兄ちゃんは早く離れろ」


 おっさんの言葉を無視して扉に渾身の力を入れ続ける。


「良い根性してるじゃねぇか。だけどな出来る事と出来ないことの見極めってのは必要だ。俺も何とかして脱出するからよ、兄ちゃんも早く離れてくれ」


「なんすかねー、そのベタな死亡フラグは……」


 そう言って(動けよくそ!)っと考えながらドアに力を入れた瞬間、ローバーの分厚い扉がグニャりと変形して……取れた。


「うぉ! ……兄ちゃんすげぇ力してんな……」


「へぇ!? いやいや、なんかこう一瞬柔らかくなったような感じ……?」


「よく分からんがありがてぇ! すまん肩掛してくれ!」


 強引に足を引きぬいた男と車を離れ距離を取る。しばらく待つが爆発のような派手なことにはならず、完全にラジエータ液が無くなったのか次第に蒸気も途切れていった。男の怪我も大したことは無かったようだ。


「あぁ……、大爆発しなかった……」


「ガハハッ、残念そうに言うんじゃねぇよ。それでも出して貰えなかったらどうなっていたか分からねぇ。ありがとよ」


「いやぁ、自分も昔事故で片足無くしたんすよね。まぁ自己満っす」


「そうか……若けぇのに難儀なこったな……でもありがとよ。俺は獅冬だ、それでだな………兄ちゃん。ここは何処だ??」


「高村晴彦っす、自分も気付いたらここに居たので分かんないっすね」


「さっきの馬鹿力は?」


「さぁ……」


 言いながら足元の太い枝を拾い、折ろうと力を入れるが生木の様で柔軟性が高く、少し曲がっても折れるには至らない。獅冬に渡すとベキィ! と簡単にへし折られる。その姿はまさしく熊の様だ。


 さっきの地面に落ちたドアに手を掛けて曲げようと力を入れてみるが当然動かない。

 感覚を思い出しながら、曲がれーと念じつつ力を入れると今後はドアの一部が飴細工の様に簡単に曲がる。やはり考えながら行うことがキーの様だ。


 ドアの上に立つと窓枠を両手で掴み、一気に持ち上げるように力を入れてみると、今度はみょーんと伸びた、それこそ熱々のピザチーズのように。


 恐る恐る伸びた部分を突くと硬い。硬いが念じながら指先でグッと力を入れるとやはりまた飴細工のようにぐにゃりと曲がる。


「おい、人の愛車をおもちゃにするんじゃねぇよ」


 と小突かれた。


「いやぁ、試さないと気が済まない性格で……、なんか金属を自由に出来るっぽいっすねぇ」


 そう言ってちぎったドアの一部をちぎり、粘土のように手のひらで丸めてみせる、正直引かれると思ったが、おっさんは


「色々使えて便利そうでじゃねぇか。 悪用すんなよ」


 と大して驚く様子もない。なんか大物だ。


 その後、ひと通り試した後、おっさんに、頭で強く念じながらだと可能なのだ、と説明がてらジョークのつもりで「焼き尽くせー!!」っとカッコつけて手を伸ばすとその先のランドローバーが派手に爆発炎上した。


 もうどうせ廃車だったから良い。と言いながらも、人生史上最大級のげんこつを貰ってから、地べたに座り自己紹介と情報交換を行う。


 おっさんは獅冬、もっと若く見えるが五十五歳だそうで、意外にも建築士らしい。外見はとても厳つく近寄りがたいが話していると、右足のことを気遣ってくれたり、数少ないであろう飴などの食料を全て渡してくる等とても良い人物だった。

 相談の結果、夜が明け次第助けを求めて移動してみる事になり、二人して魔法を練習しつつ夜を明かした。




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