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48《ドンマイ獅冬》


 「学校を作ってやれ」

 そう獅冬に言われた日から二週間後。


 四日程前に住民達に配布された用紙には、こう書かれている。


――――――――――――――――――

 お知らせ


 この度、正式にティヴリス国民となった者には教育を受ける機会が与えられる事になりました。

 七歳から十五歳までの住民の方々は第一課程の初等科の受講が義務となります。

 第二課程の専門教育は様々なコースが有り、受講は自由です。

 加えて、十歳以下の児童を預かる保育施設も併設されます。

 初等科と児童保育は無料、専門科は有料です。詳しくは仮役場までお尋ね下さい。


――――――――――――――――――


 内容は読んだ通り、学校事業の開始を知らせる文面だ。読めない者には役場で代読させている。

 ちなみに、この文章を書いたのはエリアスだ。

 当初は俺達も、書き取りを習得しようと頑張ってはみたが全く上達しなかった。俺達の目には文字は全て翻訳された状態で見えるのだから、習得自体が不可能に近い。



 学校制度は、講義を受ける間の仕事の免除と、一定額の給付金、それと初等科への無料給食が功を奏したのか、国民にも好意的に受け入れられた。

 第二課程の専門科を目指した、幅広い年代からの問い合わせが小さな仮役場に殺到し、カメア婆から「老い耄れを殺す気か」とお叱りを受けたもは昨日の話だ。



 第一課程の初等科は完全無料。期間は約五ヶ月で、授業内容は四則演算と文字の読み書き、メートル規格等の単位法。そして道徳だ。

 道徳は入れるべきか非常に迷った。俺達がこの世界に来てから、最も迷ったと言っても良い。

 有り体に言えば、この世界の住人は、自分の為に殺す、が当たり前で、その行為に何の逡巡も無い。

何と言うか、倫理観が少し希薄なのだ。

 日本人的な考え方を押し付ける事になってしまわないか、俺達は何日も何日も、それはもう悩みに悩んだ。

 だがまだ幼い子供達には出来れば別の可能性を見出して欲しい、と最終的に四人の意見が一致し、道徳の授業を捩じ込んだ。


 初等科は七歳から十五歳の間に必ず受けなければならない、言わば義務教育だ。

 教師役はカメア婆と、商業経験のあるグラムス爺、二つのクラスを交代で週四日間行われ、セラスに二人の補助をして貰う。



 そして重要なのは保育園だ。

 このティヴリスは、人口が少ない反面、仕事は幾らでも有るのだ。子供を持つ女性達にも安心して仕事に励んで貰う為には子供を預かってくれる保育施設は欠かせない。

 保育園の維持と、初等科の給食の支度に、養育経験がある五人の女性を選抜し、セラスと共に任せる事になっている。



 第二課程は希望者だけ、専門性の高い教育を有料で受けられるシステムだ。有料と言っても形骸的な物で費用は安く、仕事を休む者には給付金も出る。


 科目は選択制で三ヶ月更新、最長在学期間は一年間とした。

 受講資格は十二歳以上。永住権を取得済みで、意欲が認められれば誰でも少し高度な教育を受けられるが、第一課程を終了している事も必須条件だ。

 今後の多様性も考えて、各自興味が有る物を選択出来る様に複数のコースを用意した。


 肥料技術や輪栽式農耕法等を教える『農業科』

 設計図の引き方や軸組工法、そしてその施工管理を学ぶ『建築科』

 金属や木材の加工、物理の初歩の初歩、を教える『工業科』

 流通経済の概念と経理の基礎を教える『商業科』

 武器の扱いとそのメンテナンス、兵站等の理論を教える『軍事科』

 地球の科学技術と、この世界の魔法術を組み合わせた『魔法科学科』


 各科、一クラス最大十名迄の週一回講義だ。それ以上増やすと明らかに仕事が滞ってしまう。 


 『農業科』『建築科』は獅冬が担当。『工業科』は獅冬と晴彦の共同で受け持つ。

 『軍事科』はグスタブと俺、スケイル部隊の数人が監督し、『商業科』は俺一人が見る。

 『魔法科学科』は、晴彦が担当する事になるが、今はまだ名前だけで実際には受け入れ無い。少なからず魔法の素養が有り、工業科等で優秀な成績を出した者を選抜して、将来的に開始する予定だ。


 『魔法科学科』以外は、そのどれもが、その内発展していくであろう技術を先取りした物で、知識の流出にはそれ程神経を尖らせていない。

 だが、軍事転用されやすい『工業科』と『軍事科』だけは他の科より受講資格のラインを高く設定し、受け入れる人数も絞っている。


 いち早く、実生活に根付いて欲しい技術と、此方が欲する人材の育成に偏ってしまったが……今はこれ以上、学科を増やす余裕は無い。

 もう少し余裕が出てくれば、国民の意見を聴き取って、新しい科の創設も考えたい。



 初等科と専門科、そして保育園。この三つは纏めて、『ティヴリス国立学院』と名付けられ、初代校長はグラムス爺に丸投……頼み込み、俺は実務の少ないただの教職員ポストに収まった。



 ロール式のホワイトボードと手作りの机や椅子、初等科の生徒に無料配布される予定のノートや筆記用具等は既に揃い、大型倉庫の改装が整い次第、学校は稼働を始めるが、俺達の出番にはまだ少し早い。


 第一課程の終了が専門科への唯一のルートなのだ、最低限の計算と規格単位等を理解していなければ専門科に来られても話にならない。

 第二課程に進んで来るまでに、まだ時間がある俺達は、時間を見つけて自分が受け持つコースの内容を煮詰め、教材やカリキュラムの策定に勤しんでいる。


 こうして見ると、学校を作れ、と言い出した張本人である獅冬の負担が”やや”多く見えるが……。まぁセラスとエリアス達の補助も有る事だし大丈夫だろう。


 何故か、獅冬は熊としか言い様が無い外見なのに若年層への受けがとても良いのだ。教え上手な獅冬は教師役には最適任だと言える。

 ここは一つ、頼れる熊……もとい頼れる教師として是非頑張って貰うとしよう。






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