42《殺める覚悟》
「撃ったのか」
一階のPCルームに呼び出した真明さんは突然、そう切り出してきた。
昨日、襲撃の日。
夏美とカシードは、カザードが真明の元に向かっている間に、コソコソと動く五人組を発見した。
グスタブ達の戦闘を離れた位置から僅かな低木に隠れて見つめる五人組の服装はザッタールがフェリアルで買い付けてくる一般的な服装だったが、異質だったのはその魔力の模様だ。
この世界で魔力は生きている者なら、魔物でも人間でも、常に極微量ずつ放出されている。夏美は離れていても対象の魔力を感じ取る事ができ、最近では魔物と人間、更に訓練されている者と一般人でも放出の形は大きく違っている事に気付き、区別が付く。
夏美は今までの経験から、その放出される魔力の模様を漠然と体系的に覚えているが、その五人組は明らかに良く訓練された人間のソレであり、例えるなら元近衛の魔術師に良く似た物で、夏美には地上の五人組が自分達の気配や魔力を意図的に隠蔽しているのが手に取るように理解できた。
(今は皆、自分のやるべき事で手一杯だ)
だから夏美はカシード相談し、水を吸った手袋を外すと、高度を落とした背中から身を乗り出して……撃った。
今でも最善の判断だったと思っている。だが真明には人族は撃つな、と言われていた。だから隠した。
家に着くと真っ先にシャワーを浴び、服を着替え、着ていた服は全て洗濯機に入れ、二度も洗ってから、これでもかと柔軟剤を入れて火薬の匂いを掻き消した。
これで良かった、と思いつつも、何故かシャワーを浴びながら涙が出た。誰にも言えないし、言うべきじゃない。
風呂場から出る頃にはいつもの笑顔で。皆の食事を用意して、明るく迎えよう。そう心に決めた。なのに……。
「バレてたんですね。なんでだろ」
「手だ。夏美……なぜ俺に言わなかった? 敵だろうが悪人だろうが、お前は撃つなと……。良いか、その業はな、どれだけ掛かっても、一生! 一生消せないんだぞ!?」
いつもの冷静な真明からは想像出来ない程に感情を露わにし、その目には深い悲しみの様などこか暗い光が映っている。
「真明さんは知ってるんですね……私も……撃ってから分かりました……でも、後悔してません。……大切な人を守るためですから」
真明さんを。弟の様な晴彦を。父親の様な獅冬を。たった四人しか居ない、家族の様な皆を。
他の皆も好きだが、夏美にとって何より優先するのはこの三人だ。
真明の暗く、どこまでも射抜く様な視線を、正面から見つめ返す夏美の瞳に一切ブレや迷いはない。
「なら……もう俺が言う事は無い。……仕事が増えると思っておけ。それと……次からは手袋を忘れるな」
夏美の右手を取ると、手の甲に僅かに浮かんだ極小の薄く赤い点を指さして言う。
「これかー。あーもう……真明さんには敵わんなぁ……」
涙が溢れだし、右手を取られたまま、倒れこむように体を預ける。
頭を撫でてくれる真明の手は、冷え性でとても冷たいが……夏美には、確かな温もりが感じられた。




