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35《雨の中の硝煙弾雨》

「あんなクソ亜人共さっさと殺し尽くせば良いってものを……」


「まぁまぁ隊長、楽な仕事だと思えば……」


「クソ亜人共を殺さず追うだけ……貴族サマの考えることは分からねぇ……俺たちゃ犬じゃねぇぞクソッタレ」


 傭兵部隊を率いるアーロルドは愚痴が止まらない。アーロルドが率いるのは人員が百を越える有数の傭兵団。

 今回、貴族の従者という男から依頼されたのは「西へ向かう亜人連中を殺さずに追い立てろ」という事だった。


 前金として渡された半額の報酬だけでも十分破格。それにかき集めたらしい傭兵と貴族の私兵らしい男達。寄せ集めでも、軽く三百を越える部隊の指揮権も預け、準備金まで出すという。

 それでも雨の中、牧羊犬の真似事をするのはアーロルドにとって屈辱以外の何物でもない。


 行軍速度は抑えているものの、此処に来て亜人達の速度が落ちたらしく、チラホラと後ろ姿が見え始めた。


「一匹二匹、殺しちまっても事故だよなぁ」


「クヒヒッ、そりゃそうです、事故です事故でぇぎゃぁ!!」


 副官の男が弓に矢をつがえた瞬間、急に後ろに飛んでいった。


「は? おい! なんだ今のは!」


 目を凝らすと進行方向に霧雨で霞む大きな人影が見える。


「トロールか! なんか投げて来やがったぞ!! 全隊止まれ!! 弓を使える奴前に出ろ!! クソトロールをハリネズミにしてやれ!」


 だが、近づいて来たのはトロールとは似ても似つかない物だった。



――――――――――――――――――



「射って貰っては困る」


 PKM汎用機関銃を両手で構え、今まさに弓を射ようとした男を撃ちぬく。


 先頭に立っている男は、他と比較して装備が多少充実している。後ろに指示を飛ばしている事から部隊の指揮を取っている者の様だ。よほど自信が有るのか知らないが最前線に指揮権を持つ者が出るなど、無防備にも程がある……人の事は言えないが。


 泥濘む地面を踏みしめ、数歩近づきながら内蔵スピーカーのスイッチを入れ、トグルスイッチを回して音量を最大にする。


「あ、あ、聞こえるか! 貴公らの所属は知らんが此処で引き返すなら追わないと約束す……」


 ビュヒュウ!カンッ!トスッ!カカンッ!トスットスッ!

 殆どは地面に刺さっているが、何本かの矢が装甲に弾かれ軽快な音を立てている。


「……交渉の余地無しだな」

 

 PKM汎用機関銃を構えて一歩踏み出し撃つ。


 ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!っと獣の咆哮の様な音を立て、薙ぎ払うかの如く、左右に7.62mm弾をバラ撒きながら敵の中心部を目指す。

 グスタブには深追いしないと言ったが、ここまで攻撃の意思を見せられては生かして帰す気はない。後ろは獅冬達が居れば問題無いだろう。


 これだけの人数が密集していれば狙いを付ける必要すら無い。前腕部に取り付けられた弾薬箱から伸びる弾薬帯は、まるで生き物のように機関銃に吸い込まれると、咆哮をあげ、防弾性など欠片も無い装備ごと敵を喰いちぎり、貫通する。高速で射出される弾丸は掠っただけで人間はショック死する場合も多い。右前腕部の箱が全て空になり、左腕に持ち替えた時には周囲に立っている者は居なかった。


 だが散開して逃げた者も多い。散らばっている者の掃討を始めようと、背面と脛に内蔵されているスラスターを稼働させると膨大な量の空気を噴射して地表を滑るように追跡を開始する。



――――――――――――――――――



「ハァッハァッ、クソッタレ……化けもんだ……あんなもんが居るなんて聞いてねぇぞ!」


 アーロルドは手近な貴族の私兵を殴り倒す。


「お、俺達だって聞いていない! ただ亜人を殺さず追えとだけ……」


「うわぁあああ!! きた! 追ってきたぞぉお!」


「ひぃ! と、飛んでる……!!」


「あれは竜だ! 竜人だ! あぁああ殺される!」



――――――――――――――――――



 見つけたのは十名程。こいつらが最後の集団だ、しかし数発撃った所で、突然ガキィッ!!っと音を立てて銃が沈黙する。


「!? ……がっちり噛んだか。これだから…………」


 弾詰まり等、普通は滅多に起こらない。


「クソッタレがぁああああああ!!!」


 先程、指揮官クラスと見た兵士が剣で斬り掛かって来る。左腕で受けると、剣はバキィンッと根本から折れ飛んだ。


「その意気だけは認めよう」


 連続した射撃の熱で真っ赤に焼け、雨粒を水蒸気に変え続けている灼熱の銃身を棍棒の様に握ると、一歩引いて真上から振り下ろす。


「クソがァああああああぼぐぅ!!」


 殴りつけられた頭蓋骨が嫌な音を立て、男は水音を立てて崩れ落ちる。


「クソしか言えんのかお前は……」




「ひぃああああああああああああ!!!」


「あぁあああ勝てる訳無い! 殺される殺される殺される!!」


 もはや兵士達は恐慌状態に陥っている。




『真明さん!! 聞こえますか!』


「あぁ聞こえる」


『よく分かんないけど新手です! 南……トバイアンの方向から兵隊っぽいのが森に向けて馬で走ってます!! 数は五十……ううんもっと多い……百ぐらい居るかも!! 」


 !!? トバイアンはフェリアルの東、サイラークに近い位置に建つ都市国家、フレスト国家連合の三都市の一つだ。 それだけの騎兵が駐留していたならトリトスが知らされて居ない筈が無い。考えたくは無いが……


『真明さん……これってもしかして……』


「今は分からん。グスタブ! そっちの状況は」


『ご無事でしたか。此方は滞り無く難民達と合流しました、もうじき森が見える頃です』


『マサ! コルベットん中はガキがうじゃうじゃしてるぜ! いてぇ!! 髭引っ張んじゃねぇええ!』


「良いか、聞いてくれ皆、上空の夏美がトバイアン方面から騎兵の姿を確認した。下手をするとそっちで鉢合わせする可能性が……いや、正直に言おう。こっちは寄せ集めばかりだった。恐らく数だけ揃えた囮、そっちが本命だ。俺達を拠点から誘き出して、亜人諸共始末するつもりだろう」


『なんですと! し、しかしトバイアンはトリトス殿の……』


「結論を急ぐな。だが……最悪には備える。子供に何かあっては一番困る、コルベットは最速で防壁の中まで子供達を送り届けてくれ。カザード! 今何処だ?」


『人族の難民達の上空を飛んでおります』


「いいぞ。晴彦、ミニガンを外してカザードに渡してくれ。PKMはもう使えん。カザード、俺も既にそちらに向かっている、受け取ったら急いで拾いに来てくれ。」


『了解しました』


「夏美は新手の上空で監視を継続、遭遇予想まで五分を切ったら防壁内に戻れ。グスタブ! 出来るだけ竜鱗部隊で食い止めてくれ、出来るな」


『この身を盾にしても食い止めてみせましょうぞ』


『真明さん! 私も戦いま……』


「駄目だ。カシード……頼む」


『言われなくても解ってますわよ、お兄さま。それにしてもこの”へっどせっと”と言うのが頭からずり落ちそうで困りますわ』


『兄上、”みにがん”を受け取りました。すぐそちらに向かいます』


『んじゃ、戻るッスよ……真明兄。』


『マサ。無茶すんじゃねぇぞ』


「分かっている。子供達を無事に送り届けろ。早く行け」


『真明さん! もう五分も掛からないと思います……私は戻ります……けど……死なんといて下さい……』


「……俺が死ぬ要素は無い。心配するな。それと……風呂を沸かしておいてくれ」


『はいっ!!』




 背面のスラスターを全開に吹かし、前に倒れこむ様な姿勢で飛ぶと、強靭な竜の骨がギチギチと軋みを上げる。


『マサアキ殿! 敵が見えましたぞ!』


「近づかれる前に対戦車ロケットで数を減らせ! 民間人に近づけさせるな!」


『御意に!!』


 早く来い……早く来い…、緩やかな丘を登り切った時、突然ブワッと大きな影が広がった。


「来たか!」


『兄上! お待たせしました』


 飛び乗るとカザードは一気に高度を上げる。


「重いか?」


 背中で、ミニガンを点検しつつ訊く。


『少々。ですが問題ありませぬ。それよりも飛ばしますので兄上こそ落ちぬ様にしてくだされ』


「言うじゃないか」


 降り続く雨を切り裂くように飛んで行く。




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