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34《起動》


 シトシトと降り続く雨に泥濘んだ地面も大きなブロックパターンがしっかりと大地を掴む。


 前方に敵兵の一団らしき影が霞のような水滴にボヤけて見える。


 撥水加工を施されている強化ガラスの表面を滑るように水滴が流れていった。



――――――――――――――――――




「やはり降りだしたか……」


 正門を出る直前に降りだした小雨は粒が細かく、霧の様だが止む気配はない。

 竜鱗部隊の10mm小銃は、元々屋根のある所からの使用を想定している。湿気にもある程度は耐えてくれるが、少量であっても降られてしまえば発砲は難しいだろう。



「マサアキ様、上空の夏美様から通信です」


『真明さーん、見つけました。えーと真明さん達から見て東南東に3kmくらい。数は……雨で見えにくいですけど多分ドレイクさん達の報告と同じぐらいかな。真明さんが言ってた通り、どっちも歩きですけど、聞いてたより間隔は狭まってますねー、1kmは切ってると思います』


「了解、夏美とカシードはそのまま上空を周回して、動きが有ったら逐一報告を。……寒いと思うがもう少し我慢してくれ。」


『はぁーい、カッパ着てるから大丈夫ですよー、うふふふ』


「カザードも聞こえるか?」


『使い方はドレイク達に聞いております故、問題ありませぬ、良く聞こえます』


「よし」


 今、コルベットに乗り込んでいるのは十名、運転する晴彦に俺と獅冬それに竜鱗部隊が七名だ。上空に夏美とカシード、カザードが待機しているができる限りドラゴンを前線に出したくはない。

 人族より遥かに強く、剣や矢も通らないだろうが、決して不死身と言う訳でも無いのだ。彼らが出張るのは最終手段。今後を考えても出来るだけ俺達自身の手で敵を撃退できる様に為らねばならない。



「グスタブ、この雨では小銃は使えんだろう。今回は拳銃を使ってくれ。竜鱗部隊は此処で降りて難民達をティヴリス方面へ誘導。難民達の安全確保を最優先に動いてくれ。シグの使い方は訓練通りだ、危なくなったら躊躇せずに使え。誘導の指揮はグスタブに任せる。晴彦、回り込んで両者の間に割り込むぞ、竜鱗部隊が降りたら北手に移動を。」


「了解ッス」


 竜鱗部隊のメンバーが一人ずつシグを受け取り降車して行く。


「マサアキ殿、一人で行かれるおつもりですか」


「まぁ……今回はコイツのテストも兼ねているからな、必要以上に深追いはしないつもりだ……問題無い。それより難民達の保護を頼むぞ」


「……無論にございます」


「グスタブ様、全員降車、移動準備完了しました」


 ポラリアが伝えに来る。


「うむ。マサアキ殿……御武運を」



――――――――――――――――――



 泥を吹き散らしながらコルベットは北へ走り去って行く。恐らくマサアキ殿は一人で敵陣を瓦解させられるおつもりだろう。此処に来てから驚かされ続けている彼らの科学力と、マサアキ殿の判断力の高さも分かっている……大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。


 しかし……先程のマサアキ殿の目はこれから起こる事……人を殺す事になんの躊躇いも浮かべていなかった。それどころか、その表情には慣れの様な……どこか古参兵の様な雰囲気すら漂わせていた。普段は全く兵士には見えないが……あの目を見た時、グスタブは確かに、背筋に悪寒を感じた。


 あれ程の男が何故ここまで助けてくれるのか……理解できないが今は考える時では無い。


「全員先程のマサアキ殿の言葉は聞こえていたな。マサアキ殿は民を逃がす為、単身で敵を引きつけられるおつもりだ。決して我らが遅れを取るな! 全員抱え上げてでも保護するのだ!!」


「「「了解!!」」」



 ……頼みますぞ



――――――――――――――――――




 倉庫から持ちだしてきたPKM汎用機関銃の弾薬箱を取り付けてロックすると、ジャキィッと大きな音が車内に響く。重量は有るがこれぐらいなら十分使えるはずだ。


「真明兄。着いたッス。」


 南側の窓から電子双眼鏡を覗くと、300m先に両者の裂け目が見える。間隔は既に500mと急激に狭まっている。難民達の体力の限界は近そうだ。


「時間は無さそうだな。両者の間に割り込んだら俺が突っ込んで撹乱する、獅冬は俺の脇を抜けて来た奴を頼む。晴彦は引き続き運転と獅冬の手伝いを。少しずつ西へ撤退しながら遅れている者を拾ってやれ。無線を手放すなよ……晴彦、後部ハッチを開けてくれ」


 獅冬と二人で積んできた物をコルベットから引きずり出して乗り込むと、魔導エンジンを始動、同時に計器に電力が行き渡り、明かりが灯る。

 プシュッと音を立ててハッチが閉まると上半身を横に捻り、腕を付いて立ち上がる。各部の筋肉の動きを瞬時に読み取って動くそれは、まだ最終的な調整を終えていない為少しぎこちないが問題は無さそうだ。コルベットの屋根に登り、コルベットに搭載されている無線機のアンテナ基部をしっかりと掴む。

 体に付いていた泥は流れ落ち、青銀鉱の鈍い輝きを取り戻していた。


「皆、聞こえるか?」


『ばっちり感度良好ッスよ』


『こちらも聞こえておりますぞ』


「コルベットのアンテナだけは折られない様に気を付けてくれ。よし……行こう」


『了解ッス!』






 木村に頼んでいた物は、図面。


 マサチューセッツ州の某私立大学が軍と協力して開発を進めていたそのデータを元にして、晴彦が自身の右足の為に生涯を掛けて研究していた節電義肢技術を全て注ぎ込み、そこへ更に魔法という新しい技術も組み込んで作り上げた物。


 外骨格装甲服、竜の鎧。ドラゴンアーマー。


 主な素材は、最高純度のミスリニウムと、巨大なドラゴンの骨格。


 今、この世界で手に入る最高の素材と、木村から取り寄せた最新鋭の電子機器で構成される外骨格装甲服は体高3.3m。搭乗者の全身を包み込む、頭部の欠けた西洋甲冑の様だ。バランスを取るために一つ増えた脚部の関節は膝の下。そこだけは人間の体の構造とは違うが別段、歩きにくい訳では無い。


 骨はヘモス病で死んだ個体の物を譲り受け、四人で一つ一つ時間を掛けて手作業で削り出した。とても軽いがミスリル並の硬度と弾力性を兼ね備える竜骨の加工は困難を極め、何回グラインダーの刃を取り替えたのか、もはや記憶に無い。とてもじゃないが量産は難しいだろう。

 試作を重ねた高出力の魔道エンジンと小型発電機を内包し、連続稼働時間は約四十時間。


 最先端の科学技術と魔法、魔道具技術を融合させ、最高のファンタジー素材で包んだ鎧。

 これこそが最前線に出ても安全を確保する秘策にして、今の俺達に作り出せる最高の戦力と言える。


 実戦データの取得にはこれ以上無い状況だ。

 コルベットは雨の中を両者の間に向けて突っ走る。さぁ、最終調整を始めよう。





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