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33《追われる者》

 流れの戻った川に因み、『ライン通商同盟』と名付けられた同盟を締結し終えたトリトスは、ホクホク顔で土産を持って、今日の朝早くにフェリアル商業都市に帰って行った。

 寒い中、”ミャンマー産天然シータイガー”と、大きく単色で印刷された冷たい紙箱を抱えるエリアス秘書を見ると、冬の土産に冷凍エビの選択は失敗だったかも知れない。


 一日中にはトリトスの手により、ティヴリス国の暫定代表である俺と、フレスト国家連合の元首であるトリトスの連名で記した親書がティヴリスの周辺三カ国へ送られる。


 三カ国とはティヴリスに隣接している、北の山を越えたウル王国、竜族の集落の更に西に位置するギスムート皇国、そして東のサイラークだ。

 便利な郵便機関など無いこの世界では届くまでに数週間、確認が取れるまでを含めれば、もっと掛かるという。


 トリトスの出す大使とは別に、少し時間を置いてから、息のかかった商人達に先々で噂を流す様に頼んでいる。ティヴリスと言う国が出来、亜人を受け入れてくれるかも知れない……と。

 最初に親書が届くのは、なだらかな平原部が多く、街道に難所が少ないサイラーク王国だろう。大きなアクションがあるとすればその時だ。




――――――――――――――――――




 ライン通商同盟を締結から一月が経った日。この一ヶ月の間、ドレイク達に領土周辺の監視を依頼しているが、貴族達に動きは無かった。


 グスタブと何度も話し合いを重ねて選りすぐり、竜鱗と名付けた防衛部隊はグスタブを入れて七名。彼らに貸与する装備も決定した。

 シェルターから増殖させた、防刃シャツの上に戦闘服一式と防弾チョッキを着用させ、小銃と大盾を背負う形を基本とする。七人の隊員の内、元魔術師二人は盾を背負わず、背中にはM72対戦車ロケット砲を携行させる。


 この装備に慣れて貰う為、これまで使っていた剣や弓は使わせずに訓練を続けている。竜鱗部隊は射撃の命中率こそ程々だが、選りすぐられた、と言う自負が在るからなのか、総じて竜鱗部隊の向上意欲は高い。既に小銃の扱いにも慣れ、再装填の手際も良い。元々剣や槍を使っていた者達の銃剣の扱いはさすがと言うべき物だ。対戦車ロケットや拳銃の使用法に無線の扱い、最近では小銃のメンテナンスも覚えている。


 小銃に取り付けた銃槍は30cm。長い銃身長と合わせると90cmを越える物になる。

 盾は大きな長方形。真上から見ると緩いカーブを描くそれは軽合金の薄い板金に対魔法防御として分厚いミスリルの皮膜を施されている。移動の時は亀の様に背負い、射撃時は持ち手の下に折り畳まれている二本の足を伸ばして地面に突き差し、置き盾として使用する事が出来る。



――――――――――――――――――



 国家として名乗りを挙げた以上、俺達はもう後には引けない。ならばこそティヴリス国の初陣は俺が先頭に立つべきだと考えている。


 しかし、俺にはこの世界の人間を守って貴族どもに命をくれてやるつもりなど、毛頭どころか一ミクロンも無い。全ては自分たちの安定の為だ。


 珍しく渋る木村が苦心の末に取り寄せくれた物をベースに俺達四人が持てる総力を結集して開発している物。お披露目はもう少し先になりそうだが、一昨日には最終調整に入っている。





 昼食後にコーヒーを淹れ、自室で一服しようと煙草に火を付けた瞬間、束の間の平穏は突如として破られた。


「真明さん! 正門から緊急連絡です! 今さっきドレイクさん達が凄い速さでこっちに向かったって!」


「……予定通り、ゴルナートにも一応連絡を入れておいてくれ」


「はいっ……!? 真明さん! 後ろ!窓の外!」


「? ……カザードか?」


 室内を覗きこむカザードを見て、窓に駆け寄り開け放つ。


「カザード、カシードを呼んでくれ、打ち合わせ通りに防衛戦の準備を急ぐ」


『兄上! お待ち下さい、ドレイク達の報告で気になる点があるのです!』


 気になる点……?


『風に異変を感じて東に飛んだ者が、我らの森へ向け、追われる人族達を見たと!』


「追われている……?……!!……まさか難民達か!?」


『恐らくは……今も上空にドレイクが一人残って監視を続けていますが、先程戻って来た者の話では、まだ距離が空いており、追い付かれてはいないようですが……』


「双方の人数と兵種は確認できたか?」


『ドレイク達は人族達に気付かれない様、かなり高度を取っていたようで詳しくは分からなかったと……ただ数は大まかにですが、逃げていた人族はまだ小さい個体を入れて百前後、追う方はその二倍以上は居たそうです……兄上、どうなされますか』


 ドレイク達にはあまりサイラーク領土を侵犯しないように伝えてある、両者の位置は東の境界線からはそれ程離れていない筈。

 追われているのが難民なら恐らく馬や騎獣は使っていない、それはここまで来てまだ追い付いていない事から兵士側も同じだろう。だが鍛えられた兵士と民間人では持久力が違う。子供を庇って移動しているとすれば尚更だ。追い付かれるのは時間の問題か。


「逃げてるのが難民……追ってるのが軍隊ッスかー」


「近いうちに兵隊共が来るかも知れねぇってのは聞いてたがよ、何で難民達が追われてんだ? そんなに亜人が憎いってぇのかね」


「……皆、来たのか」


 いつの間にか自室に皆が入って来ている。


「マサアキ……私は助けたい……」


「うむ……追う側も追われる側も、正確な数も戦力も……所属すら未確認だ。現状の把握も出来ていない上に残された時間は少ない。俺達は圧倒的に不利だ」


「くっ……そうよ……ね……皆を危険に晒すことは……」


「セラス様、仕方ありませぬ……」


「…………これまで準備してきたが防衛戦は延期だ。迎撃戦に切り替える」


「!! それでは……!」


「……やっぱやるんスね、真明兄」


「がははっ!やっぱマサはこうでなきゃなぁ!」


「良質な労働力を確保する為の事前準備に過ぎん……それだけだ。」


「ほんと真明さんは素直じゃないですねー、そんな所が良いんですけど……」


「グスタブ、竜鱗部隊の出動準備を急がせてくれ。夏美、万が一を想定しゴルナートに国土の防衛支援を要請。セラスは残った兵と共に難民の受け入れ準備を進めてくれ。できる限り竜の力は見せたくない。晴彦、あれを使うぞ、準備を急いでくれ。獅冬はコルベットを出して弾薬の積み込みを。終わったら晴彦を拾って此処に。……時間が惜しい。皆急いでくれ」


 命は星より重い、などと言う戯言を吐くつもりはないし、全てを救えるとも思っていない。だが……少しは手を伸ばしてみても良いだろう。勿論……身の安全を確保した上でだが。





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