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32《純金に変わる紙》

 先日グスタブと話し合い、傭兵達を選抜した。残った者は農業や食品加工等に回って貰う。主な選考基準は身体能力と銃や近代技術への適正だ。勿論、信用性も考慮しているが俺自身はそこまで重きを置いていない。


 この世界は話に聞くだけでも争いが絶えない。そして人心を強制し続ける事も決して出来ない。

 ならば心変わりする余地もない程に住み良い国を作れば良いだけだ。小さくても良い。時間は掛かるかも知れないが俺達なら出来るだろう。



――――――――――――――――――



「ティーチ、良く来てくれた。硫黄の件では世話になったな」


「なんのなんの。アレは北のウル王国から仕入れとるが、殆ど価値の無い石ころを買い取ってくれると随分喜んでいたそうじゃ」


「それは良かった。同盟調印の前に話しておきたい事がある。今日は飯でも食いながら話そうと思うんだが」


「そうじゃの、そろそろ腹の減る頃合いじゃ……ナツミ嬢、今日も、しもふりぎゅうは出るのかの?」


「え? 牛肉ですか? 今日はありませんけど?」


「な……ない!? しもふりぎゅうが出ない? 何故じゃ? 期待しておったのに何故なのじゃ……マサアキ殿……ナツミ嬢が……」





 和やかな食事中にトリトスと確認、合意したのは共同出資で合弁会社を起こす事。現行の主力三商品を含み魔道具はフェリアル都市国家へ卸す事。ただし一部商品とカートリッジはティヴリス側の直販店で売買を認める事。ティヴリスへの便宜を継続して貰う事に価格設定権、輸送に関する事等の前回の会談時に話した内容に加え、お互い知り得た情報の秘匿を追加、あくまでも軍事同盟では無い事を確認する。そして……



「ぱえりあと言うものも実に美味じゃった。この、えびと言う動物はぷりっとした食感が実にたまらん。しもふりぎゅうも素晴らしいものじゃったが……儂はこっちの方が好きかも知れん」


 やはり油の多い肉より魚介類か。海が無いからか、年寄りだからか……


「そう言うと思って、土産に冷凍してある物を用意している。明日、エリアス殿に渡しておこう…………で、どうなのだ。」


「相変わらずせっかちじゃの……聞いた限りでは素晴らしい着眼点じゃと思う。しかし……可能なのか? この土地では……全く産出せぬと言っておったじゃろう?」


「その通りだ。だが考えがある」




 トリトスに話したのは、今後の発展と安定に必要不可欠な物。


 国家の体を成した時、他国と同格の立場を保つ為に必要な物。


 そして、絶対的なコントロールが此方で可能な物。



 傭兵達への対価としても用意していた物…………それは、通貨だ。



 独自通貨が持つメリットは計り知れない。


 現在、デザインを起して試作している貨幣の材質は銅と亜鉛、薄い黄金色に近い発色だ。

 今後の生産は晴彦が地金を無地のコイン状に精製した後、ミスリニウム製の刻印部分を持つ、厳重に管理された小さなプレス機で数枚ずつ手作業で制作する予定になっている。


 通貨の単位はマール。少しでも両替時の混乱を軽減する為、この世界に習って十進分類法で六種類の通貨を発行しようと考えたのだが、そこで悩みの種になったのは最高額貨幣の偽造だ。

 周辺諸国の最高額通貨であるのは金貨だ。金の含有率がそれなりに高い金貨は偽造に強いと言える。別に純金を素材に使わなくとも貨幣価値は流通していくに従い浸透するだろうが、最高額単位は日本円にして百万の価値を持つ事になるのだ。この世界の金属加工技術は低いが、何らかの手段で偽造されてしまえば此方は大打撃を被るだろう。


 硬貨の素材にたっぷりミスリルを用いれば簡単に解決する問題なのだが、貨幣価値を素材の価値が上回ってしまっては本末転倒すぎる。潜像等を施す事も考えたが、それでは晴彦に継続する負担が増えてしまう。

 何より最高額通貨は国の顔としての側面も強く持つ物だ。中途半端な物を出せば、要らぬ面倒を招きかねない。


 そこで苦肉の策として、硬貨の材料には極々微量、見ても全く気づかない程のミスリルを混ぜ、魔力を当てた時のみ、真贋が見極めれるように工夫した。


 最高額通貨にはシェルターで眠っている日本円。日本銀行が発行する、あの福沢諭吉が描かれた『一万円紙幣』を最高額単位通貨として利用するという案だ。


 現代技術の結晶とも言える日本の最高額紙幣は、地球でも最高レベルだ。製紙技術も覚束ないこの世界で精巧に偽造するには恐らく、後数世紀は掛かる。

 札に印字されている『円』という単語の意味から丸、漢字の円をマールと呼び換え、この国の通貨記号として認知を広める方針だ。

 


「これが現物だ。材質は紙だが丈夫で濡れても溶けない特殊紙だ……詳しい製法は俺も知らんが。通用しそうか? 」


「むぅ……これが紙の金じゃと言うのか……なんとも恐ろしく精巧な紋様じゃ……儂の目では細かい所が見えん……」


「ティーチ、明かりに透かして見ろ」


「むぅうう! こ、これは……いやはや、お主らに驚かされるのも少しは慣れたつもりじゃったが……これでは偽物なんぞまず不可能じゃ。それどころか美術品として取引されるやもしれんの……何処の国でも、まず問題無く通用するじゃろう。」


「よし。それでは……」


「フレスト国家連合元首として、ティヴリス都市国家の独自通貨の発行、両替も認めよう。じゃが……」


「あぁ分かっている。互いに認可したフェリアルの商人に限り、マール通貨への換金レートに便宜を図せて貰う」


「それで良いじゃろ。合意じゃの。」


「よし。名前はどうする」


「このティヴリスと儂のフェリアルの間に、枯れていた筈が、また水が流れ始めた川がある……あれもマサアキ殿達の仕業じゃろう。あそこに因むのはどうじゃ」


「そうだな……悪くない」




 厳重にビニールパックして地下シェルターで保管していたのは二億円丁度。この家の特性から一日に、二万枚ずつ増やすことが可能だ。いつかは通し番号が被るかも知れないが、生産の手間は一切掛からないし、最高額通貨をそんなに頻繁に出す予定も無い。



 マール通貨を生産、備蓄して、この国で働く者に対価として支払う。使い道として大型倉庫の一軒を増改築し、酒類に煙草等の嗜好品、各種食料品や下着に衣類、雑貨迄、生活に必要な全てを取り扱う、マール通貨しか使用出来ない大型商店を開設する。


 これからは、技術や物資に釣られた商人達が無数に此処を訪れようとするだろう。現にトリトスやザッタールの話では直接商談に赴きたいという声が多数聞かれていると言う。今後、魔道具や地球の技術を応用して作られた物は独自通貨でしか卸さない。正門外部に頑強な家屋を新設し、商談や通貨の換金も行う、直販店とする予定だ。防壁内部に入れる商人は極少数としてスタートさせる。


「しかし……これから凄い額が此処に集まる事に為るじゃろうな……買い物はフェリアルで頼むぞ?」


「あぁ。だが金は幾らあっても困らん。貯めれるだけ貯め込むさ」


「はっはっは! そりゃあそうじゃの!」


 集まってくる各国の貨幣は一定量蓄積した後は、鋳潰して金塊や銀塊にして保存しても良いし、晴彦の研究材料として使っても良い。金が産出しなければ他国から集めれば良いのだ。


 発行する額面は、諸国の六種類の貨幣に対し、ティヴリスが発行するのは、穴開き小硬貨、1マール硬貨、10マール硬貨、100マール硬貨、1000マール硬貨、そして一万マール紙幣だ。硬貨は表面に額面、裏面に細かな竜の意匠が刻まれ、それぞれ日本円に換算して、十、百、千、万、十万、百万の価値となる。


 一万円札が百万円の価値を持つ事になってしまうが……この世界には日本銀行も国税局も存在しないのだ。良しとしよう。





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