25《動き出す、興国へ》
サイラーク軍に事情に最も精通しているグスタブと相談した結果、王の善政に好感を持っていた民衆の反感を考えても貴族達が今日明日にも攻めて来る様な事は無い、と言う結論に落ち着いたが、予断を許さない状況には違いない。
トリトス殿との約束の日まで後一ヶ月。様々なことを成し遂げる必要があるがまずは皆の意見を統一すべきだろう。
「では……始めよう」
昼下がりのリビングには日本組四人とセラスとグスタブの現地組二人の計六人。空気を察して皆、真剣な表情だ。
まずは昨日の話を皆に説明する。外貨獲得の為に新しいタイプの魔道具を販売して行く事、フェリアル商業都市のトリトス殿と提携する事等だ。
「私が隠れている間にそう言う話になっていたのか。フェリアルのトリトス様と言えば有名な人物だ。直接会ったことは無いが、何度か王宮にも来られた事が有るはずだ」
「でもなんか王様って感じじゃなかったですよ、普通のお爺ちゃんって感じで。まぁたまに見せる目つきは鋭かったですけど」
「昔、お父様に聞いた話ではフェリアル商業都市では、君臨する一族の家系から商才で後継者を決めるらしい。統治者らしくないのはそのせいかも知れないな」
「周辺を見回っている限りでは兵や密偵を忍ばせて来ている様子も有りませんでした。手を組むなら上々な相手だと思いますぞ」
「俺もそう感じている。現状で彼以上の選択肢も望めそうに無いしな……そこでだ。これを機会に、俺はここを国にしようと考えている。」
「「「はぁ!?」」」
「聞いてくれ。金銭を得るために魔道具の販売を開始すれば、いずれ周辺国から少なからずプレッシャーが掛かってくるだろう。その時ただの集落では対等な交渉は不可能だ。そこで形だけでもここを都市国家としようと考えたのだ。別に何か手順が必要な訳でもない。ただ、各国に宣言すればいいだけだ。ここは俺達の国だ、勝手なことは許さん……とな。」
「質問だ、マサアキ、宣言といってもどうするつもりなんだ?」
「その時が来たら、トリトス殿経由での各国への発信は承諾して貰っている」
「領土ってどうなるんスか?」
「明確なラインは未定だが、このティヴリス大森林と呼ばれる現在の不干渉区域を領土と認めさせる」
「真明さん、ゴルナートさん達はどうするの?」
「昨日無線で相談して、アーノア湖周辺は竜族の自治区域とする事で承諾を得ている」
「マサよ、んじゃあ王様には誰がなるんだ?まさか年功序列じゃねぇだろうな?」
「……それは未定だ。もし人が増えてくれば考えた方が良いだろうが、暫くは合議制という事にする。今までとあまり変わらないだろうな」
「なるほど……じゃあ、なぁんも問題ねぇじゃねぇか」
獅冬がガハハっと笑いながら言う。この豪快な笑い声を久々に聞いた様な気もするが、最近セラスとは上手くいっているのだろうか。少し心配だ、後で発破を掛けてみよう。
「そうだ、現状問題は無い。だが今後は分からない。軌道に乗るまで今までとは比べ物にならない程に忙しく為るだろう。俺達が当初目指してきた、基盤が整うまでこの世界に出来るだけ干渉せずに暮らす、という方針からも、大きく進路を外れる事になる。」
「そうっすよねぇ……まぁ自分は楽しいからいいんスけど。忙しくなったら研究時間削ればいいっス」
「私も賛成ですよ、真明さん。確かに基盤が整ったとはまだ言えないかも知れないですけど……ザッタールさんみたいに酷い扱いの人も多いって聞きますし。」
夏美は言葉の意図を察してくれたらしい。
「そうだ。あくまで段階を踏んでの話だが、将来的に貧困層や亜人難民の受け入れも視野に入れている。」
「!! 良いのか? で、でもマサアキ達にはなんの得もないじゃないか!?」
「落ち着けセラス。そして勘違いするな。小規模であれ一つの勢力として旗を掲げるなら軍備、最低限の防衛力を構築する為に人員が必要なだけだ。別に虐げられているからと言って無条件に受け容れるつもりなどない。」
「し、しかし……」
「難民の受け入れは国を興す対外的な理由、つまりは、『お前達が迫害するから国を造り受け容れるのだ』と、いわば旗印に、言ってしまえば正当化の理由にさせて貰うと言う事だ。
俺達四人はやるなら徹底的に、と決めている。この世界に影響を与えないという方針は魔道具を輸出している時点で既に手遅れだ。まぁ及ぼし過ぎない様にある程度はセーブするつもりだが。それに魔道具の製造販売以外に……俺達に頼らない形での産業の育成も必要だと考えている。よって人手はいくら有っても問題無い……だから気にするな」
「マサアキ、ありがとう本当に……これでお父様も……私も生涯を掛け手伝わせて貰うよ……」
「マサアキ殿、私からも礼を言わせて下され、姫さ……セラス様のご意向まで汲み取ってくだされるとは……きっと王もお喜びに為るでしょう」
「繰り返しになるが、別に俺は弱者救済の為に考えたのではない。俺はあくまで、こちらの事情を考慮しての考えたものだ、もし礼を言いたいなら軌道に乗った後にしてくれ。やる事は山積みなんだ、今から一ヶ月は寝る間も無いと思ってくれ。そして……セラス。生涯を掛けるなら適任がそこに居るだろう」
「なっ!? えぇええ!? そ、それは……」
「マ、マサぁ!! ここでそれはねぇだろぉ!」
皆ニヤニヤと笑っている。
「あぁすまん、まぁ二人には二人のペースが有るのは当然だな」
「そ、そうだぞ! 全く…… 」
「うふふ、次は私達ですねー、真明さん?」
夏美の案は三年後にでも考えよう。




