01《地震の時はまず落ち着く》
ティリンピロンッ ティリンピロンッ ティリンピロンッ
とある郊外の農村地帯。
都心部からもさほど離れていないが交通の悪さが祟って完全に寂れ、もはや廃村一歩手前と化している。
秋を迎え、休耕地にひたすら生えている丈の高い草々が風になびいている風景の中、大きな鉄筋コンクリート造りの住宅が建っている。
広い敷地も全域をコンクリートで舗装されており土っけは微塵も無く、その周囲を高く分厚い外壁が取り囲む。まるでそこだけは土を拒んだ世界のようだ。
宅内では独特の警報音と共に一斉にテレビやパソコンのモニターが切り替わり、高度利用者向け緊急地震速報の受信を表示していた。
まさに今、パソコンでメールを書き終えようとしていた男は、急にモニターが切り替わった事に若干驚きの表情を浮かべたが、表示を確認するとパソコンをそのままに立ち上がる。
緊急地震速報というのは二種類ある。省庁が発令する通常のものと、認可を受けた民間の事業者が発する高度利用者向け緊急地震速報だ。発令基準は省庁の『想定震度五弱』に対し民間事業者は総じて『想定震度三』で通知。有料なので当然サービスも細やかだ。
部屋を出た男は素早く階段を降り地下室へ、そこから更に下へと続く階段を降り、エアロック構造の扉二枚を潜ってシェルターに入る。警報が鳴ってからここまで約三十秒の早業だ。
シェルターの内部は三室に別れており、そのトータルは四十畳と広いが、溜め込んだ備蓄物のおかげで居住空間としては八畳程を残すのみと狭い。
ドアをロックし、高性能空気清浄システムを作動させようとした時、突如として大きな揺れを感じ、立っていられずに床に倒れこみ……
男はそこで意識を失った。