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15《本音と建前》

 翌日から周辺の調査を一旦止め、俺と獅冬はカザード達に手伝って貰いつつ開拓と農作業を並行して進める。ティヴリスの冬は結構寒い。

 種を蒔くのは去年の冬、問題の出なかった品種、豆類や大根、人参などの根菜類だ。竜種の膂力は圧倒的で土魔法も併用する畑仕事は全く時間が掛からない。


 夏美はいつも通り狩りに家事、晴彦はホバー艇の調整を行っている。恐怖のテストドライブの後、ホバー艇の屋根後部にはハッチが取り付けられM134ミニガンが据え付けられた。乗員四名に追加して八人、最大十二名を収容でき、水陸両用で武装している事から小型の軍艦にちなんでコルベットと名付けられた。

 艶のないモスグリーンに塗られたコルベットだが、今のところ使い道は無く、もっぱら獅冬が加工済みの丸太を屋根の付いた木材置き場まで引きずって行くためだけに使用されている。

 



 体長が13mを越えているゴルナートに比べるとカザードとカシードはまだ小さいがそれでも体長は7mは越える。雨ざらしでの生活を強いるのは此方としても不本意なので六人で十日を費やし、二人用の大屋根も完成。確認した所、冬眠などはしないそうだが、あまり寒いと動きが鈍るらしいので熱を放出する魔道具を設置している。建築場所は真明の自宅から少し北、獅冬達の家の西隣だ。




 それから一ヶ月が過ぎ、季節は冬に差し掛かり風も厳しさを増してきた頃。


 増設した倉庫には騎乗用に晴彦と獅冬が合作してくれた鞍が保管してある。カザードの背中の曲線に密着するように作られた鞍は上質の木材と純度の高いミスリニウムで出来ており見た目も美しい。座面はわざわざ取り寄せた低反発素材を使用している。まだこの歳で痔になりたくない。


 その鞍の試用を兼ねて、停止してた南東平原部の調査を再開する事になった。以前ゴルナートに近隣の情報は余さず聞いたが、まだ全く確認はしていない。



「カザード、背中に違和感があると思うが我慢してくれ」


「これしき何とも在りませぬぞ。兄上こそ落ちぬようしっかり掴まってくだされ」


「今回は調査だ。地上をよく見たい。低めにゆっくり飛んでくれ」

 

 飛び上がると、低く飛んで貰っているものの、やはり上空の風は冷たく手が悴む。使い捨てカイロを持ってきて大正解だ。

 

 地上の林道に沿うように南東へ森を抜け、そこから東に120km程飛んだ所でゴルナートが言っていた通り、サイラークという国の王都が見えてくる。聞いていたより規模は大きい。高度を上げて電子光学双眼鏡で観察すると、王城らしき大きな建築物を中心に円心状に住宅や農地が広がっているようだ。

 城は小高い丘に建てられており、正直城と言うよりは白っぽい切石で建てた砦に近い。印象としてはシリアの世界遺産、シュバリエ砦に似ていなくもない。

 城壁の上には、『ツィンネ』と呼ばれる弓兵用の凸凹が有るため恐らく弓は発達していると分かるが、銃眼の様な穴は一切見当たらないので火薬はまだ一般的ではないのかも知れない。総じて文化レベルは十二、三世紀頃と予想するが、魔法の攻撃など俺の予期しない展開も十分に考えうる、油断はできない。


「兄上、もう少し近づきますか?」


「いや、止めておこう。騒ぎになる可能性は避けたい。今日はここまでにしよう」


 そう言って、元来たルートを同じように辿っているとカザードが急に止まり、上空でホバリング状態を保つ。


「兄上、この先で人族たちがトロールと戦こうている様ですが……」


「すまん、トロールとはなんだ」


 双眼鏡を取り出しながら聞く。


「申し訳ない、兄上は見たことが在りませんでしたか。トロールは巨人族で背丈は兄上の倍ほど。悪食な上に頭が悪く……我ら竜族をも恐れませぬ。まぁ何匹いようと我の敵ではないのですが」


 森近づき倍率を上げると、その集団が目に入る。林道が森から少し出た辺りで交戦状態のようだ。


「あいつらは人を食うのか?」


「なんでも食べまする。しかしトロールの多くは力を誇示するためだけに襲うと聞きます」


 言葉の通じん蛮族だろうと、生存のための狩りなら俺達が介入する気は全くない。襲われている人間には悪いが、ここでは俺達こそが異物なのだ。食物連鎖を乱す権利など無い。だが悪戯に殺しが行われている状況になら手を貸しても問題ならないだろう。そう結論づけると、


「加勢する。このまま飛んで最接近時には高度を今の半分に。その後は俺が呼ぶまで上空で哨戒してくれ」


 一気に近づいて高度が10m程になった時、人間たちの近くへ向けて大きく飛び出る。背中から飛び降りた瞬間、まだ少し高度が高かったかと思ったが問題なく着地。地面を滑りつつ停止し、ピタリと動きの止まった人間たちに歩いて近づく。


「驚かせてすまん、手伝いは必要か?」





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