11《プールに入る前のアレ》
翌日の午前。
自宅に戻るとPCルームに向い、大量の業務用次亜塩素酸ナトリウムと噴霧器、車両用の高圧洗浄機を木村に急ぎで注文する。
あの日、唯一連絡が取れると分かったPCは常時電源を入れた状態にしてある、何かの拍子に接続が途切れると考えただけでも恐ろしい。
次亜塩素酸ナトリウムというのは、浴室用カビ取り剤やキッチン用の漂白剤にも含まれる、真菌類に強い成分。
「分かった。プールか清掃業でも始めるのか。今日の夕方には届けさせる」
と数分で短いメールが返って来た。感謝しながら「そんなところだ」と短く返すと、トランシーバーで晴彦と獅冬を呼ぶ。
「おう、戻ったのか。」
「おかえりなさいッス、……お泊りでしたね」
ニヤつく晴彦のこめかみを掴み、ぐぅっと力を入れる。
「あぁあああ! 割れるっす! え、ちょ、マジ変な音してるぁああああ!!」
気が済んでから離して二人に事情を説明する。
「ドラゴンたぁ……何と言うか……まぁ言葉が通じて良かったじゃねぇか」
その通りだ、衰弱していたとは言え、襲われていたら無事で済んでいたとは思えない。
「それで……協力するんすよね?」
「勿論だ。この世界での第一遭遇者だぞ、大事にしたい。そこで晴彦には例の水の出る魔術式の彫ってあるアレを用意して欲しい」
「アレじゃなくて、『魔術式飲料水供給水栓Ⅱ』っす! 今はもうただの金属板じゃなくてちゃんと蛇口っぽく加工してあるんすよ。何個ぐらい要りますか?」
そんなに進歩していたとは……落ち着いたら一度晴彦の研究室を確認しに行こうと心に留める。
「そうだな、イメージだと25mプールが軽く満たせるぐらいの水量は欲しいんだが。数が多くなるか?」
「いやー、結局は込めてある魔力の総量で決まるんで。後で大きめの蛇口タイプを何個か作るんで夏美さんにたっぷり魔力入れて貰えば十分だと思うッスよ」
「なんだ? 水ぶっ掛けて洗うのか?」
と訊く獅冬に計画を説明する。
「なるほどなぁ、確かに自分で浸かって貰えば話は早えぇわな」
明日は大掃除だ。